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地域運営に必要なのは「自治」と「参加している実感」 森山奈美×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社代表取締役糀屋総一朗と、石川県七尾市の民間まちづくり会社・御祓川株式会社代表取締役の森山奈美さんの対談。3回にわたった対談の2回目は、まちづくりになぜ「自治」が必要なのか? についてです。

いまの20代に学ぶべきこと

糀屋:先ほど「再現性」の話が出ましたが、森山さんがやられてる『能登留学』(能登の企業や集落の中で学ぶキャリアデザインプログラム)では、若い子たちの中に「地域に残って活動してくれる人」を増やそうとしているわけですよね?

森山:あわよくば、そうですね。でも、今「地域のために」っていうのは若い子たちにあまり響かないんですよ。うちらの世代は「地域のために」っていう感じでやっていたわけですけど、今の20代でそういう人はレアですよ。割とフラットに、都会も田舎も見ていて「自分に合ってるのはこっちだな」みたいな感覚なんだと思います。「都会がいいな」っていう人は今も多いと思うけど……、

以前に比べると「田舎はクールよね」みたいな感覚の人が明らかに増えてると思うんです。逆に、その感覚をうちらが学ばなきゃいけない。私も含めて団塊ジュニアぐらいの人が「七尾がいい」みたいな話をすると、ちょっと負け惜しみっぽく聞こえるんすけど(笑)、今の20代とか、本気でいいと思ってるから。「いいっすよね、この風景!」みたいな。

糀屋:若い子の考える「七尾がいい」っていうのはやっぱり自然とか?

森山:いろいろ複合的なんでしょうね。人のつながりとか、祭りとか。「自分の好きなものはネットで買う」し「友達もネット上にいる」から、あとは「どういうところが心地いいか」みたいな感覚。だからより面白いことやってるとか、より尖っている人がいるみたいなところに魅力を感じるんじゃないですかね。

糀屋:森山さんみたいにだいぶ尖ってる人がいて……。

森山:私なんか全然尖ってないですよ。でもね、そうなると、私が中学のときに「いいな」と思ったような状況を作らなきゃいけないと思っているんですよ。今、大人の私達がいかにワイワイと自分の地域の未来を作るために、楽しそうにやってるか。それを見せることが鍵になるんですよ。

糀屋:つらいこととか、苦労話とかを言ってても、人は面白くもないし寄ってこない。やっぱり楽しくやってないと、人っていうのは寄ってこないってことなんですよね。

森山:文句言いたいことだっていっぱいあるんですけど(笑)、全体的には楽しいんですよ。それこそ会社を作った頃に比べればめちゃめちゃ仲間も増えてるし。

糀屋:一緒に街を少し歩かせていただいた時、皆さん森山さんを発見してすぐ話しかけてきて、仲が良さそうなんですよね。『ギャラリー葦』(森山さんの弟さんが経営する工芸品店)のスタッフの方とかも森山さんとすごいフランクに話されてて……経営者とスタッフってうまくいかないところもありそうなんだけど、楽しくみんなと一緒にやってるっていう雰囲気があって、僕はすごくいいなって。

森山:それは、私が「できる子」であることをやめたからなんですよ。御祓川の整備をするまでって、私は若いから「できます」っていう感じを出していないと誰も話を聞いてくれなかったんです。しかもコンサルって、わからなくてもわかってるふりしなきゃいけない仕事だったんで(笑)。

でも「わからん!」って言った方が、結果としていい状態になるっていうことに気がついたんですよね。「できない子」の方が人が集まってくるんですよ。『まいもん処いしり亭』(森山さんの弟さんが経営する、魚醤油「いしり」料理専門店)のおばちゃんたちは、もう私のことを娘だと思ってますから。お母さんがいっぱいいる状態ですよ。そういう作戦なんです(笑)。

ファシリテーターの役割

糀屋:森山さんは、御祓川の整備の時にファシリテーター的な役割をになっていたとお話しされていましたが、まちづくりでいろんな利害関係者と一緒に話をしていくのに、非常に重要なのがファシリテーターの存在だと思うんです。地域って民主主義のすごく原初的な状況なので、ファシリテーターという人がいないと、熟議って成り立たない。

森山:ならんね、本当にね。

糀屋:ファシリテーターの重要な要素として「こっちの意見が正しい」とかを言ってはいけない存在って所がありますよね。だから、わからなきゃ「わからん」っていうことを、公平にみんなに伝えるっていう、それってすごく重要なのかなって思っているので、その思想は整合性があるなと思って聞いてました。

森山:いや本当その通りです。正しいこと言っても通らなくなりますからね。「これがいいな」と思ったら、自分で言わずに、相手に言わせることの方が大事ですから。

糀屋:それを実践されてるんだなって。これが正しい、悪い、みたいな議論を始める人っているけど、そういう人には地域って向いてない気がしますね。

森山:私の場合は若い頃にだいぶ言っちゃってましたから(笑)、そういう色はついちゃってますし、拭い去れないんですけれども、バランス的には「言わない」方が「実」が取れますね。

まちづくりに「自治」がなぜ必要か

糀屋:森山さんはよく「自治」っていう言葉を使っていますよね?そこにちょっと興味があるんです。もう少しちょっと深く聞いてみたいんですよ。まちづくりの中で「自治」って言うのがなぜ必要なのかみたいなところとか。

森山「どういうコミュニティでありたいか?」ってことに対して、市民のみんながそれぞれの立場で参画できるみたいなことかなと思っています。かつて私たちの親世代は「この街をこういうふうにしよう」っていうでっかいビジョンを描いて「マリンシティ構想」とか「食祭市場を作ろう」みたいな大きな目標を作ってそれに向かってやってきたと思うんですよね。だけど、今はそういう大きな計画とか、強いリーダーとかって生まれないんじゃないかなと思っているんです。

若者たちも「町のため」というよりも「自分がどういう暮らしがしたいか」という軸でモチベートされる。であれば各自が「自分はこういう町がいいと思う」ともっと表明しやすくして、それの集合体が町であるっていうようなスタンスの方がいいかなと思いますね。「経済力があっても、壊れたコミュニティ」ってあると思うし、「めっちゃ弱々しくて慎ましいけれども、温かいコミュニティ」っていうのもある。どちらをを「良し」とするかみたいなことも、自分たちで決めていいと思うんですよ。自分たちで「こうしたいな」と思ったようにしかならない。

ーーそこで、相反する意見が出てくる場合もあるけど、それも良しとする?

森山:町の中にも、「話のわからんやっちゃな!」みたいな人とか、ウマが合わない人とかもいますよ。でも、その話のわからんやつが居るから、自分の意見が改めて自覚できるんですよ。私は対立的信頼関係って言うんですけど「あいつとは絶対に考え方が違う!」って思うんやけれど、「その考え方の違うあなたともこの町では生きていきましょう」って折り合いつけながら「それでも将来に向けて残していくものは何か」っていうことを話し合う。そうやって決めた結果しか残らないんですよ。だから自分たちで考えて決めて、実行する。お互い横目で見合いながらやっていく。それが「自治」だと思うんです。

「関わっている実感」こそが大事

糀屋:ははあ。重要なことは、自分がコミュニティに何らかの形で参加しているんだっていう感覚なんですね。自分の考えが思い通り反映されないとしても、物を申せるというか。

森山:そうそう。

糀屋:自分が一つ関わっているっていう意識さえあれば、おそらくコミュニティって成立するって事ですよね。

森山:そう、関わってるってのが大事ね。

糀屋:具体的に、森山さんはそう言う地域内でのコミュニケーションって、どういう形でやっているんですか? 月イチで定例会みたいなものを作ってやってるとか……。SNSなんかやってるのかとか……。

森山:それに関していえば、実行してるのは『御祓川大学』(地域の未来を担う人を育てるための市民大学)なんですよ。昨日も「七尾市民自治論」っていう授業がありました。講師はこの4月から研究のために台湾に行っている在野の研究者の方で、ネットで問い合わせがあって、話を聞いてみたらめっちゃ面白かったんで、じゃあ講座作りましょうってことで開講しました。

受講者は七尾以外の金沢や加賀市の人たちもいるんですけど、みんなオンラインで自治を学ぶ。ルソーの社会契約論からやるんですけど、めっちゃ面白かったですよ。そういう事を勉強しつつ「みんなはどう思ってんの?」とか対話をしてます。そこで学んだことを実践しようという人たちの集まり。私はそういうコミュニティが心地いいと思ってるわけね。テーマ的なコミュニティっていうのは一つのキーになると思います。

糀屋:ちなみに大学は何人ぐらいいらっしゃるんですか。

森山:無料だから学生登録者数だけでいえば、500……何十人とか?東京の人もいますよ。2、3割は地域外の人じゃないかな。でも、昨日の講義とかも来てるの10数名だし、そのぐらいよ。

糀屋:でもそんな難しい自治の講義に10数人出てるんですね。普通の大学でもそんなに来ない可能性ありますから(笑)。

森山:そうそう。昨日は途中から県会議員の人も来たんですよ。ちゃんとお金払って来てくれた。ちなみに現役の学生は無料。大人は払う。

糀屋:大人が負担するわけですね。定期的な講師の方って言うのはいらっしゃるんですか。

森山:普段はいないので、ABD、アクティブブックダイアログです。本を読んで、自分の担当したところを要約して、サマライズしたやつを共有してみんなで喋るみたいな。ゼミみたいな感じですね。今読んでいるのは……『ティール組織』です。ぶ厚い本なので1人で読むのが大変だから皆んなで読みましょう!って。やっと半分ぐらいまで来ました。

これを読むと「地域」って最初からティール組織なんですよね。地域経営を考えるときにティール組織のことをわかっておくと、その助言システム、助言プロセスとかがわかりやすいなと感じます。どういうプロセスで、その情報が共有されるのか?どんなプロセスでファシリテートされてるか?とか。

糀屋:プロセスの重視っていうのはポイントですよね。

森山:私がファシリテーターとして学んできたことも同じなんですけど、そこのリテラシーが地方って著しく低いんですよ。会社の中の組織作りみたいなところも昔ながらの統治がなされていたりする。なので、そこに価値を見出したいんですよ。

糀屋:確かに地域の企業だと、昔ながらの封建チックな部分ありますよね。

森山:それもいいんですけど、若い人を採用したいんやったら、それだとなかなか来ないですよ! って。

(構成・斎藤貴義)


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