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「瀬戸内は世界的にみても最高の場所」 島フェスを始めた理由とは 丸尾誉×糀屋総一朗対談1

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これからの地方創生、持続可能な地方とはどうあるべきか。ローカルツーリズム代表の糀屋総一朗がさまざまな方をお迎えして語り合う対談。今回は糀屋とは古くから親交があり、野外音楽フェスティバル『shima fes SETOUCHI』を主催する shima fes SETOUCHI 実行委員会の代表、丸尾誉さんに、地域でイベントを開催する生の体験を伺うことになりました。3回に分けてお届けする対談の1回目は、丸尾さんが島フェスを始めた理由、地方の「魅力」についての捉え方についてです。

丸尾誉(まるお・たかし)
1979年7月9日生まれ。多島美豊かな瀬戸内海の魅力を発信する野外音楽フェスティバル「島フェス」こと「shima fes SETOUCHI 〜百年つづく、海の上の音楽祭。〜」を主催。
http://shimafes.jp‬

会社を辞めて、フェスをつくって11年

ーーまず、お二人はどんなきっかけで交流を?

丸尾:糀屋くんと会ったのは、まだ僕が東京にいて、たしか友人の結婚パーティーの準備のために集まった飲み会でした。その時の僕は、瀬戸内海の島のことを色々やっていたので「島社長」って呼ばれてたんですが(笑)、「この子は、箱社長だよ」って糀屋くんを紹介されたんですよ。

糀屋:その頃、いろんなレンタルスペースをまとめて「糀屋箱機構」っていう事業をやってたんです(笑)。

丸尾:それですね、仲良くなったのは。二人でランチに行くようになったりしました。僕が会社を辞めて2011年に第1回目の「島フェス」を始める直前のタイミングでしたね。

糀屋:2011年。もうそんな前。

丸尾:21年の9月で11回目の開催。今は次の12回目の開催を準備してるようなところです。

糀屋:もう準備が始まってるんですね。

丸尾:準備に丸一年かかるからね。その年の開催が終わったら、後処理に追われつつも、来年の開催日程について関係者の方々へ順次ご連絡し始めていく感じですね。

糀屋:そもそも、なぜ地元で音楽フェスをやろうと思ったの?

丸尾:僕は高校まで地元の香川にいて、その後大学で大阪に行って、2003年からは東京のITのメーカーでサラリーマン生活を8年ぐらいやってたんです。学生のときからネット系のベンチャーをやってたし、自分で仕事を作ってお金を稼ぐってのはずっと興味があったので、30歳ぐらいには独立して、せっかくだったら地元で何かやりたいな、とぼんやり思ってたんですよ。ただ社会勉強もあるし、一度はちゃんとした企業に入って勉強させてもらいながら考えようと思ってたの。そしていざ独立を見据えて、事業内容についていろいろ考えてた頃、たまたま親友の一人に、音楽フェスの制作をやってる人間がいたんですよ。糀屋くんも知ってる、あのM君なんやけど。

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糀屋:ああ。

丸尾:小林武史、Mr.Childrenの「ap bank fes」や、「氣志團万博」、数多くの大型フェスを制作するその道の玄人なんやけど、そのM君にある時「なんでフェスやってんの?」みたいな風に聞いたことがあって。そしたら「フェスって『生きる』が詰まってるんだよね」みたいなことをさらっと言ったの。「フェス」はキャンプで泊まるとか、お酒飲むとか、音楽聞くとか、笑うとか、話すとか、人と会うとか。いろんな「生きる」が詰まってるから素晴らしいんだよみたいなことをね、普段感情とか見せない奴が急に言うから、ちょっと刺さるところがあって。その場では「ふぅん……」って流して聞いてたんやけど、それがずっと残ってた。

で、2010年から瀬戸内海の島々を舞台に「瀬戸内国際芸術祭」というのが始まったんですね。それをきっかけに、直島(なおしま)や小豆島へ観光で訪れた時に、瀬戸内海の海の美しさに心から感動して、改めて「多島美(たとうび)」の魅力を認識したんです......。東京で会社勤めをしていた頃は収入も安定していたので、調子に乗ってヨーロッパやアジアなど頻繁に海外旅行に行ってて、それなりに見聞は広めてきたつもりでした。でも、瀬戸内海を見て「これは世界でも他にないほど素晴らしい! 海外行ってる場合じゃなかった...!」と驚いたんです。

糀屋:改めて?

丸尾:そう。夕焼けの中で島々が並んでる感じとか、すごく良かった。船に関しても、ヨーロッパでも、東京でも、船に乗ったら半日とか、何時間か、乗らなきゃいけないけど、香川県の高松港は1時間の中でも、行ける島が女木島、男木島、小豆島、直島……選択肢が5つ6つある。「これは船旅の聖地やな!」って思って。

糀屋:確かにねえ。

丸尾:しかも、芸術祭の閉会式で見た島のおばあちゃんたちが印象的で……。普段はおとなしく穏やかに暮らしている高齢者の皆さん。そんな島の人たちが閉会式で「やったー!バンザーイ!」みたいに拍手をしてて、ものすごいエネルギーを感じたんです。

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海の向こうで本土と離れて暮らす島の方々には、何か型にはまらない、とてつもないエネルギーがあるんちゃうかな?って。観光で訪れていた頃は気付けなかった不思議な魅力に激しく感動して、心が震えて、「生涯、この瀬戸内海に向き合って生きよう」と決めました。それがもう全てのエンジンとかエネルギーになってて。そこで、音楽とかフェスで、みんな楽しめる「場を作る」っていう気持ちが沸き上がってきたんですよ。この海で、『生きる』が詰まってるフェスを始めようと。

地域の人、地域の魅力に気づかない問題はどうして起こるか

糀屋:そんな熱い思いで始めて、12年目。今はコロナ禍で大変だよね。

丸尾:20年、コロナが始まった年には「島フェス」は通常開催を涙ながらに見送って、オンラインでの開催に変更したんですけど、他と差別化を図る意味でも「24時間の無料配信フェスティバル」みたいにしてやってたんですよ。糀屋くんも、「箱社長」と言ってたのがいつの間にか何か島の方に行ってるんで(笑)そういう話もしたいと思ってたんですよね。それで、新島によく行っている東京R不動産の林厚見さんと糀屋くんと僕で、島談義しましょうってことで……配信にも出てもらったんですよね。

糀屋:そこで、大島のおばあちゃん達、三女神を揃えて一緒に出演してもらったんですけど……おばあちゃんスイッチ入っちゃって(笑)。日露戦争の話になっちゃって……時間枠15分だったんすけど、10分以上日露戦争の話になっちゃって(笑)。

丸尾:配信で、色々島の話を聞こうと思ってた俺が違ってたよ……(笑)。今度、泊まりで行きますので(笑)。

糀屋:でも、観てた人たちは結構、面白かったと言ってくれました。今日は改めて、その話をしようと思うんだけど、福岡県の宗像市に大島って人口は600人ぐらいの離島があってそこで宿をやってるんですよ。僕そこで「お金が地域に回るようにする」ための「エリアリノベーションファンド」って構想を持って、色々やってるんです。

例えば、沖縄は外資が来て雇用は増やしてるけど、結局すごい安く使われて、全然沖縄にお金回ってないよね。1人当たり所得上がってないよねっていう問題をすごく危惧してて。そういうことを仕組みとして解決できるファンドって作れないかなと思ってるんです。最初は「なんか無邪気にかっこいい宿作ろう」みたいな、軽薄な感じで行ったんですけど。

丸尾:軽薄ではないけど(笑)。

糀屋:でも、すごい素敵な場所だったんですよ。それで島の人たちに「1泊10万円ぐらいの宿を作ろうと思ってる」って話をしたの。そしたら「そんな無理や」とか、「そんなお金取ったらいかん」とか言われちゃって……。で、気づいたんですよ。結局その地域の人たちって自分の地域の価値に気づいてないんだってことに。これがね、結構僕の中ではいまだにすごく考えちゃうところで。いろんな地域で活動してる人たちに聞くんですけど、みんな同じこと言うんです。

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結局、地域の人って、僕らみたいな都市部の人間から見たら「これは価値ありますよ」っていうものを「普通だから」って流しているところがある。30年、40年住んでるおじいちゃんおばあちゃんにとっては、僕らが感じるほど、新鮮な目で観られるわけがなくって、全部常態化しちゃってると思うんですね。そうなるとやっぱりその地域の価値をちゃんとサービスとして提供するっていうことができてない。実際にそういうこともあるけども、その構造の中で、今、大島の価値をどうやって外に向けて売っていくかっていうことを、めっちゃ考えてるんです。丸尾くんも多分同じようなことを経験してるんじゃないかなって、その辺のことを聞いてみたくて。

丸尾:まず、地元の人が地元の良さに気づきにくいっていうのは確か。最近、この話を自分の親の話に置き換えて考えてて。うちの母って昔からすごいトリッキーなの。年は今60半ばなんだけど、すごい喋るし。息子のイベントで勝手に何か物を配り始めて(笑)。「今やったらお母さんのこの手作りじゃない、焼き菓子が付きます」とか。「いや、そこは手作りにしろよ!」みたいに突っ込みたくなる(笑)。

糀屋:(笑)。

丸尾:そういう変なことするおばちゃんで、みんなは「かわいいですね」とか「面白いお母さんですね」とか言ってくれるんだけど、俺はもう40何年見てるから、もう迷惑でしかない(笑)。例えばそういうこと。いいとこもあるけど、悪いとこも知ってるから、周りがどんなにいいって言っても、家族としては一向にそう思わない。地域も、規模が違うけど同じこと。周りから見たら「この家の子供やったらよかった」と思ったりしてても、いざ一緒に住んだら「思ってたのと違う!」みたいな。

糀屋:僕も大島に出入りし始めて2年くらいだけど、すでに最初の新鮮な感動は薄れてきてるから。その話はわかる。

「何のために」よりも「楽しいから」

丸尾:糀屋くんが今言ってたことは、俺もここ数年考えながらやってる。どこの部分を狙ってやるかっていうのは大事かもね。ただ、糀屋くんは数字だったり、ファイナンスとか強くて、プランニングとかしっかり考えてるタイプだと思うんやけど、俺の場合は感覚というか、一応自分なりに考えるけど、先に行動するっていう発想が強くって(笑)。例えば、俺が「島フェス」始めた頃は「地域おこし」とか「地域活性化」とかっていうのが流行ってて、新聞、雑誌、テレビ等の取材が、みんなそこに繋げたいんだろうなと感じることが多くて。俺はそこまで深く考えてなかったんやけど...…。

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糀屋:そうくるよね。

丸尾「何のために」やってるか?ってすごい大事なんやけど、自分としては、自分の本当にやりたいことを生業にしたいという情熱だけで動いてて。それが島フェス始めた一番の理由。生涯この海に向き合って、楽しい場を作り続けたいという、ただその純粋な気持ちだけで動いてて。

「地域活性ですね」とか「町のためですね」とか「島のためになるね」とか言ってくれる人もいるし、結果的にそうなるとうれしいけど、あくまで自分の目に見える範囲で、実感できるものを頼りにしています。世のため人のためという部分はもちろん尊重しながらも、自分自身や家族や友達など、もっと身近なところに価値の基軸みたいなものがある。なかなか表現が難しいテーマですが...…。

続きは明日公開です。

(構成・斎藤貴義)

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