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島フェスを開催し続けられるのは「ここで頑張ろう」の気持ちから 丸尾誉×糀屋総一朗対談2

これからの地方創生、持続可能な地方とはどうあるべきか。ローカルツーリズム代表の糀屋総一朗がさまざまな方をお迎えして語り合う対談。野外音楽フェスティバル『shima fes SETOUCHI』を主催する shima fes SETOUCHI 実行委員会の代表・丸尾誉さんと語り合う3回連載の2回目は、丸尾さんが島フェスを開催し続ける理由、そして地方フェスでのアーティストのブッキングといった具体的なこともお伺いしました。

活性化をは考えない、ただただ誠実に

糀屋:10年前に「島フェス」を始めたときの感じと、今ってモチベーションとかも違ってる?

丸尾:いや、この11年ずっと一貫してる。ただ、もちろん島フェスを機会に瀬戸内を知ってほしい、訪れてほしいと願う気持ちは変わらないけど、根本的な考え方として「地方が活性化するのは本当にいいかどうか?」というところも考えるようになったかな。我々のやってることって「観光」の分野だと思ってて、地方に光を当てる、という要素も強いし、まずは観光客の方々を意識した取組み。地元の人のためにやるのか、外から訪れる人のためにあるのか、で、根本的に動きが変わってくる。

糀屋:うん。

丸尾:でも、やっぱり観光客だけじゃなく、地元の人も喜んでほしい。観光客など地域の外に、その地域の魅力を発信したいというスタンスは当初から変わらないけど、バランスの取り方というのは大切にしたいと思ってて。

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結局、どういう思いでやってるかも大事なんやけど、やっぱ田舎の人は良くも悪くも「なんかようわからんけど毎年やってる」とか、「なんか頑張ってる」みたいな感覚的なところも大事で。もちろん人間の好き嫌いもあるけど。選挙の投票などでも田舎では同様の現象をよく見るけど、「なんか見たことある人やから」とか、「なんか頑張ってるから」みたいな、肌感覚で成り立っている部分が意外と大きい。「頑張ってるから応援しよう」みたいなところ。

糀屋:なるほどね。

丸尾:だからあまり活性化とか、熱を上げたり下げたりっていうよりは、あんまり気にせず、自分のいいと思ったことを誠実にやるという。人間関係と一緒だと思うんだけど。そんな感じで10年間ずっとやってきて、今もそんな感じかなって。

糀屋:確かに僕も大島でやってることも「人にたくさん来てもらう」っていうことは別に気にしてない。もう人口はどんどん減っていくことは見えてる。その中で大島って漁場で成り立ってるから、人口が減っても1人当たりの所得が上がるっていう側面もあったりして、だから無理やり人を外から連れてくるとか、島の人たちが疲弊するだけのイベントとかっていうことをやることには僕すごく批判的なんですよ。

そういう意味で、今、丸尾くんが言ったてことはめちゃめちゃ理解できる。実は、僕自身このところ、島にはちょっと顔出すぐらいになってたら、「最近来てないね」とか言われちゃう。やっぱり顔出しておかないとですね。

丸尾:うん、そう(笑)。

糀屋:僕は大島の他でもこういうことをやっていこうと思っているから、距離感って難しいなと思ったりするんです。あとは、昔は台風が来てキャンセルになったりとか、コロナでイベント自体がオンラインになったりとか、21年だとクラウドファウンディングとかやってるでしょ。それを見てると、丸尾くんはいろんなとこで頭下げてるんだろうなって思って。

丸尾:趣味、土下座(笑)。

糀屋:いやマジで、そのくらいしていると思っていて。自分の趣味だけでやってたとしたら、土下座してまで10年以上こういうイベントってできるもんなのかなあと思って。

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丸尾:もちろん人よりは頭下げること多いかもやけど、性格的にあまり気にならないし耐えられます…(笑)。でもやっぱり、「ここで頑張ろう」っていうエネルギーがあることが大前提。例えば船に乗って、何気なく海が見えるでしょ。穏やかに波打っている海をただ眺めるだけで、今だに毎回「ええな…」って感動して。それが日々日々の血液とかガソリンみたいになってるので、どんなことも耐えられます。でも島フェスの当日はもう本当に大変で、一年の中も最も怖い顔をしてると思う(笑)。耐えてはいますが、めちゃくちゃギリギリです(笑)。

糀屋:イベントの時はいつ行ってもなんか怖いカオしてるよね(笑)。

丸尾:まるで人殺しみたいな……(笑)。余裕ないだけで悪気ないんやけど、自分も楽しめるよう頑張ります(笑)。

フェスのブッキングも「島」流で

糀屋:参加してくれてるアーティストも結構なビッグネームいるじゃないですか。そういう人たちはどういうふうに口説いてるの? ギャラとかも、他のといったところの同じなのかとか、こういうふうに口説いて安く来てもらってるとか、何かある ?やっぱり、そこは純粋に熱意を伝えて?

丸尾:だいたいそんな感じ。大型フェスを制作するいわゆる音楽業界の企業だったら日々の業務や関係の中で話が成立するケースも多いんやけど、俺みたいな個人でやってる場合はもっと手前からで。良いアーティストを日々探して、ライブに足を運んで、ご挨拶して、顔色うかがいながら勇気出してオファー、みたいな段階を踏むんです。例えば、今でこそ毎年ご出演頂けているザ・ドリフターズの高木ブーさんも、初年度は何も分からずGoogleで「高木ブー 事務所」って検索して、電話して、最初まあまあキツめの口調で断られたり(笑)。強い精神力が求められます(笑)。

糀屋:すごい(笑)。

丸尾:諦めずにもう1回電話して、みたいな。さすがに今では交友関係も広まったけど、基本的には公式サイトのインフォメールから連絡したり、ライブ会場に足を運んで名刺交換したり、草の根的な。出演料に関しては、うちは毎年低予算で頑張ってて余裕がないのだけど、それでもなんとか、熱意や魅力なんかをあの手この手で一生懸命説明して……。まずは「出たい」と思って頂けるように頑張ってて。

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そうすると「通常はコレ(金額)これやけど今回ちょうど関西で別件あるから、頑張ればコレがアレにできるかも」とか相談乗ってもらえることもあったり。単純に値引きってのは難しいけど、そこは泥臭く大人の相談重ねてって感じです。

糀屋:なるほど。すごいな。

丸尾:「それでも無理な時はもちろん無理やけど。若い頃はフットワーク軽かったけど、例えばメジャーデビューして知名度上がったりすると金額面もアップしたり、そもそも交渉が難しい状況になったりとか。でも、まだ知名度も低く、いわゆる駆け出しの頃からオファーさせて頂いていた方の中には、事務所的にも「昔からお世話になってるし」みたいな人情は、感じることはあります(笑)。

ーー売れる前のアーティストをアタックできるというのは、目利きができるってことですよね?

丸尾目利きと言えるかもですが、いいアーティストはもう誰が見てもいいんですよ。たとえ売れてなくても、いいアーティストってむちゃくちゃいるんです。一般の人でも多分、音楽好きやライブ好きだったり、業界の人はもちろん僕みたいに制作側として見てる人なら、大体わかると思います。メロディだけじゃなく、いろんな面の仕上がり見てたら「これはもう間違いない」とか。

あとは単純に好みもありますが。僕はちょっと「ギリギリ危うい」ところ狙ってる感じが好きで。その辺は勝負のライン。アートとかで言うところのキュレーションというか、組み合わせやストーリー性はやっぱり腕の見せ所で、そこで勝負する世界だとは思ってます。

糀屋:丸尾くんのプロデューサーというか、イベントへの熱とか聞いたことなかったんでちょっと今感動してる。

丸尾:でも音楽詳しくて、目利きできる人って死ぬほどいるからね。例えばアイドルでも、かわいくて歌えて踊れる人はごまんといるから、どこで勝負するか?だよね。「島フェス」の場合は、会場が田舎で、島で大変やからリスクも大きく、みんなやりたがらない。でも、だからこそ達成感とか、非日常感、旅感という魅力要素が強いと思うんですよ。「なかなか行けないっていうロマン」っていうのは、このイベントで大事にしてるところ。「船に乗らないと行けないだなんてワクワク島す。」っていうのをキャッチフレーズにしてて。

今はSNSなんかでも、アーティストが直接コメントくれたり、何でも身近でしょ?親しみがあってシェアできてってのが当たり前になってるけど、そうじゃない価値観もある。「海を越えないといけない」とか、「潮の香り」とか、「波の音」とか、そういう五感が震える自然体験の中で音楽や食事を楽しんでほしいっていう思いがあって。

糀屋:いや、なんか五感が震えるとかロマンっていうところはすごくわかる。今僕がやってる大島の宿も同じ。旅行の源泉には「ここじゃないどっかに行きたい」っていう感じがあるのかなと思って、それってロマンがないと駄目なんですよ。「なんか普通だったね」「何かここじゃないどこかへ行こうと思ったけど、これしかなかったね」みたいに思われるのは一番悲しい。日々提供してる側は「五感が震える」とか「ロマン」っていうのを大事にしてるわけで、サービスを提供してる人の考えだなと思いますね。ちょっとやり方は違うんだろうけど、根っこの感覚って超重要だなって思ってます。

続きは明日公開です。

(構成・齋藤貴義)

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