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やる気を持った人に寄り添い、ビジネスの種を育てていきたい 林隆宏×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、地域を変える活躍をされている方の対談シリーズ、今回は株式会社モノサス代表取締役の林隆宏さんです。対談の最終回は、地域での事業を成功させる鍵、そしてこれから林さんが取り組んでみたいビジネスについて伺いました。

一緒に「草刈り」できるかどうか

ーーやっぱり地域の人たちにとっては、都市部から行った人間って何してるかわからない存在なんですよね。それで怖がられたり悪口言ったりするのかもしれませんね。

糀屋:確かに。

:そういう意味では、ローカルの人たちとの言語コミュニケーションの意味はないかなあと思います。結局「朝から畑に出とるかどうか」(笑)です。

糀屋:地域だと、草刈りやってないやつが悪魔みたいな扱いを受ける。

:そう。だから草刈りはちゃんとやること。何しろこっちはオーガニックだから、除草剤も撒いてない(笑)。とにかく田舎で信頼を勝ち取るには「草刈り」と「消防団」ですよ。そこに身内が何人行ってるか?

糀屋:信頼を勝ち取るには「行動」ですね。我々も草刈りはちゃんとやろうっていう方向性になりました。

:本当そこですね。それも、なるべく朝やること。

糀屋:みんなと同じ時間にやる(笑)。それですね。

地域ビジネスで考えた「時間稼ぎ」

ーー地域ビジネスで、コミュニケーション以外のところで大切なこととして、思いつくことはありますか?

:僕が5年間フードハブの代表だった時期、大事だなと思ったのは「時間稼ぎ」なんですよ。何しろ組織ができるまで時間がかかるわけですからね。そこまで、クオリティを落とさずに会社が生き残らなければならない。生き残るためには業績をあげなければいけないんですが、そこがすごく難しいんです。個人の商売であれば自分がオペレーションに入ればいいんですけど……経営として店を成り立たせるって実は全然違う。経費構造が全く変わっちゃうんですよ。

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経営をする側で言えば、うまくいかない時は現場に売上のプレッシャーをかけるのが普通じゃないですか。でも、そのプレッシャーによって「経営する目的が変わってきちゃう」。だから、資金繰りをしつつ、本当に最低限のプレッシャーだけをかける。そこのさじ加減で、組織が出来上がってくまで、「時間を稼ぐ」んです。組織ができてくるまで、クオリティを落とさずにきちんとしたものを作り続けるっていうことは、結構がんばったつもりなんですよね。

ーーそれが「時間稼ぎ」ですね?

現場が育ってくる時間とか、地元で受け入れられるまでの時間を作るってことですね。

ーー「見守る」ことが重要ということですか?

:「見守る」ほど呑気じゃないんですけど(笑)。「現場が正しいものを作る」ってことを優先順位の上に持って来られるかどうか。「売上」を優先して、何かよくわかんないもの……「流行ってるから肉バルやろうぜ」みたいなことをせずに、本質的にやろうとしていたことからずらさない。急がせてもいけないし、労働関係が悪化するようなこともなるべく避けなくちゃいけない。プレッシャーをかけずに、です。

糀屋:それってめちゃめちゃ高度なことですよね。

:そうなんですよ。大変ですよ!

糀屋:地域で何かやるっていうのは全然簡単じゃないですよね。人、物、お金、いろんな制限がある。だから、「こう言いたい」けど、「言われてないように言わなきゃいけない」みたいな(笑)……曲芸に近いバランス感覚を考えながら、正しいものを作っていかなきゃいけない。

僕はそれで、そういうことができる人に対して「ローカルエリート」って言葉を作ってるんですよ。今、お話を聞いていて改めて「やっぱり、高度なことをやっていかなきゃいけないぞ」と感じています。それができる人って日本においてはレアだと思うんです。でもそういうプレイヤーをもっと増やしていかなきゃいけないんですよね。

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ーー林さんは今後、神山町以外の地域でやってみたいことというのはあるんですか?

:今、軽井沢でいろいろな人と一緒にやろうとはしています。地域にないものを探して……「こんなお店あるといいよね」ってところから始める。で、その業態が成立するようないい物件を探す。最初のお金とある程度のリスクはとった上で、「やりたい!」って人に任せちゃう。そんな感じで実際にお店を始めてる仲間がいます。「お金のためにやらない」って決めたら、意外に簡単にやれるんじゃないかなあ……いや、簡単じゃないけど『フードハブ』ほど大変じゃないと思います(笑)。

糀屋:うん、うん。

:大事なのは良い立地の物件を良い条件で押さえるっていうことと、そこに対する業態をプロデュースして、そこに「やりたいと言ってる人」をどう連れてくるか。おそらく、その人から搾取する構造にさえしなければうまくいくんですよ。大事なのは、スキルじゃなくて、その人のオーナーシップ。それがないと、最初はうまくいっても、その仕組みでみんな生きていくようになっちゃうので必ず弱体化するんですよ。

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結局「生産性を上げるためのものにしかならなく」て「用意された仕事で人が食う」ってことしかならない。しかもそれって継続しないんですよ。だから、オーナーシップがないものをもう生み出したくないっていう気持ちはあるんです。経営能力とかプロデュース力を持ってる人と、「やりたい!」っていう人さえいればなんとかなる。やっぱり「人」の問題だと思います。

糀屋:僕も同じ考えで、これからファンドは人にフォーカスして、人に紐づいたビジネスをやっていこうって思っているんです。

:そうですよね。

糀屋:今の話を聞いてめっちゃ共感しましたね。

:ちなみに今は……軽井沢で魚屋さんをやりたい人を求めています。

糀屋:魚屋さん!

:物件はもうあります!仕入れ先もあります!(笑)。

自分のために自分の仕事をする

ーー今後、どんな事をやろうとか、会社をどうしていきたいか、とかのイメージがあれば教えていただきたいんですが。

:今『サピエンス全史』を読んで、自分で勝手にまとめてるんですけど……社会構造が変わってコミュニティの単位が変わってくるってことを考えているんです。「狩猟時代」はコミュニティの単位が「群れ」から「部族」に。「農耕社会」になると富の格差が生まれて、その格差を正当化するために法律とか宗教ができて、コミュニティが「村」から「国家」に変わってくる。「工業社会」が来ることで「会社」がコミュニティの強い単位になってきたんですね。

これが現在の「情報社会」になってくると「会社」から「個人」にバラけていって、また1回元に戻るみたいな話になってきてると思うんです。「個人」にフォーカスが当たっていけば「会社」の役割っていうのはやっぱり変わって来ざるを得ないと思っているんですよね。

糀屋:なるほど。

:会社って元々は飢えから逃れるため、生産性を上げるために出来た仕組みだと思うんですけど、今は「飢え」からは脱却しつつある。ベーシックインカムの議論もあるし、AIの発達で仕事を失うと言いつつも、結局働かなくてもいいんじゃないか?って時代でもあるんです。飢えないために「生産性の高い会社が用意した仕事をやりなさい」っていうのが今までの会社の理屈だったと思うんですけど、それが成立しなくなってきていると思うんです。

会社のために個人がいるっていう組織だったものが、これからは個人のために会社がいるっていう形になっていかないと多分成立しなくなるんじゃないかなと個人的には思っています。だからうちの会社の中でもそこを転換していきたいと思っています。

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今までは会社が用意したビジネスモデルの中で個人が育ってきたんですけど、今度は個人が興味を持ったことがビジネスになっていくっていうのができていくといいな、ってことなんです。その一発目が『フードハブ』だったんでちょっとタマが大きかったんですけど、そういう「個人がやりたいビジネス」は今後も続けていきたいですね。これからスタートする『monosus社食研』もそれで生まれてきたものですし、人材育成をしている『ものさす塾』もそうです。ちっちゃなことにどう寄り添っていけるかみたいなことを今、一生懸命やってますね。

糀屋:『フードハブ』も最初から林さんが始めたっていうんじゃなくて、巻き込まれたじゃないですか。だから、これからもどんどん林さんが巻き込まれていくのがいい形ってことでしょうか?

:両方ですね。『フードハブ』をやってみて思ったのは、経営のスキルってめっちゃ大事だなってこと。僕じゃなかったら潰してたっていう瞬間は何回もあると思うんです。

糀屋:そうなんでしょうね。

:僕は別に資金繰りとかの仕事は全然好きじゃないんですけどやれるので、わざわざできない人がやらなくてもいいかなって。みんなでリスクを分散しながらできた方が絶対いいんですよ。多分、僕は根本的に「問題解決」が好きなんだと思うんですよ(笑)。そういう意味でいうと、自分の3分の1ぐらいはそういうことをやってもいいかなって感じで、でも、そればっかりだと駄目だなと思って、残りは自分のやりたいことをやろう、と思っているんですけどね。

糀屋:え? 具体的に何かされる予定があるんですか?

:材木の販売を始めようと思っているんですよ。仕事で新木場の材木屋さんのWebサイトのリニューアルをしているんですけど、自分の家を建てる時に、デッドストックの木材を安くわけてもらったんです。

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すごくありがたかったんですけど実は「そのデッドストックの材木に僕ら困ってるんです」って話を聞いて……。国産のものも輸入しているものも含めて、日本中の材木屋さんの未活用材ってめっちゃ出るんで、みんな困ってるということを聞きました。それで僕が「未活用材を売る」っていうプロジェクトをコンサルティングで立ち上げたんですけど、なかなか動かないから……。

糀屋:「じゃあオレが」って(笑)。

:そう、オレが売ります!って(笑)。未活用系はこれから面白いですよ。福岡でも未利用魚だけを加工して販売している会社がありますよね。

糀屋:ありますね。

:それ系が今面白いなと思ってて……こないだ北海道の浦幌に行って林業の様子を見せてもらったんですけど、そこにも未活用材がめっちゃあるんです。例えばナラ材とかの広葉樹系って買うとめちゃくちゃ高いんですけど、ほとんど利用されずにウッドチップになって、パルプになっちゃってる。そこら辺は最初に結構お金がかかると思いますけど、投資してやりたい方がいれば、かなり面白い市場になると思いますよ。

糀屋:すっごい面白い話ですね。綺麗事を言う人は多いけれど、林さんの話って本音の部分がちゃんとわかる。地に足ついた商売を地域でやっていくっていうの大事さみたいなところを再認識しました。今回はありがとうございました!


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