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「地域循環経済」の必要性1 「お金」に真正面から向き合わなければ未来はない

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗です。今回は私が地域を活性化するために重要だと考えている「地域循環経済」について書いていこうと思います。

地域経済は今どうなっているか?

今、私が取り組んでいる事業の中核に据えているのが「エリアリノベーション」です。元々「リノベーション」というのは単体の建築物を再生するという意味で使われていますが、それを建物だけでなくエリアに広げ、同時多発的にいくつもの「点」で地域を再生していこうという考え方です。

その中でも重要だと感じているのが「地域経済」の問題です。地域を再生するためには「経済面」をないがしろにすることはできません。地域での新規産業の開発も、文化的なイベントも、一過性のもので終わらせないためには結果的に「経済」に紐づく必要があるからです。詳しくは、「地域はなぜ衰退するのか?1」をご覧ください。

各地で行われている「地域創生事業」の中でも、経済面での理想と現実の「地域復興」を繋ぎ合わせて実践してるケースは、まだそんなに多くはないという印象です。

現在、日本全国で様々な事業が行われていますが、個人的に「良くない」と考える事例をあげてみます。中でも私自身が「絶対やってはいけない」と思っている施策が、各所で行われているのが赤字垂れ流しのいわゆる「箱物」です。「ショッピングモールのような商業施設を作って、色々とテナントを呼んでくれば街の賑わいが醸成されるだろう」というパターンです。

実際にショッピングモールができれば地元の人が足を運んで、そこで買い物をして賑わうこともあるかもしれません。そういう状況になれば、目先で「活気がある」と見えることもあるでしょう。

でも、結果、それだけでは地域にお金が落ちないのです。地元の商店がテナントが入ってればいいんですが、大概の場合は全国的なナショナルチェーン店だったり、全国展開している大きな会社の資本が入ったお店だったりするわけです。その場合、売り上げは東京の本社へ、さらにその裏にいる株主にお金が流出してしまう。

地域の人は便利さを求めますが、安易に便利さに飛びつくことは地域循環経済の視点から問題があることも頭にいれておくことが必要です。このあたりの議論は、木下斉さんの次の記事がとても参考になります。

誘致という手段の危険性

この構造は、ショッピングモールだけに限りません。地域の人たちが、観光やサービスを始めようと思い立った時に考えがちなのが「誘致」です。私は地域復興について「誘致」よりもまず自分たちで地域に事業を興すべきだと考えています。観光業に限らず「工場を誘致しましょう」という施策が話し合われている地域も現実にあります。「そうすれば雇用が増えるから」と。

しかし、それはナンセンスな考えです。工場を誘致した結果、得られるのは「雇用」の収入だけになります。「雇用が生まれるならよいではないか?」と思われるかもしれません。

しかし、なぜ大企業が誘致に応えて地域にやってくるのか?といえば、地方であれば従業員を安い値段で雇用することができるからです。そのために、工場は地域にやってくるわけです。工場で生み出される利益はすべて都市圏の本社に流出してしまいます。つまり、安い雇用所得しか地域にのこらず、おいしい資本所得は外部に流出します。

レジャー施設の誘致も同じことです。「うちの近所に遊園地が出来たらもっと人が来るのに」というのは夢物語です。例えば地域の観光地に大資本のレジャー施設ができる。目先では、外部からのお客も増え、活気が戻ってくるかもしれません。当面はそれでいいと感じるかもしれませんが、それは本当の意味での地域復興とはいえないでしょう。

なぜなら、そこで外部から入ってきたお金は、地域には入ることなく、レジャー施設を経営する都市圏の本社に流れていきます。さらにそのお金は大資本の商社に行って、東京の六本木や日比谷の商業ビルの建築に使われてしまうでしょう。結局、地域から出たお金が都市の発展にすり変わっているわけで、地域には再投資されることはない。それが一番の問題です。「誘致」とは、そういう「仕組み」なんだと、地域の人たちが認識することが大事です。

正直にいえば、「誘致」という発想が出てくる時点で人任せなのです。「誘致したらどうにかなるだろう」という発想には、計画性やビジョンがありません。地域の人たちが「自分たちでやる!」というスタンスがなければ地域の復興などとても無理な話だと思います。本来は、他人任せにせず、地域の人たちが真剣に事業を始めるべきです。

とはいえ「住民の情熱」が先行し、「お金はさておき」という考え方で動いている地域創生事業もあります。こちらはこちらで問題があるのです。住民の熱意だけが頼りで、明確な戦略もなければゴールすら設定されない。これでは、住民の気持ちが空回りするだけで、根本的な解決にはつながらず、多くの場合「熱が覚めれば」消えていってしまうことがほとんどです。

真剣に「お金」に向き合う

では、地域が豊かになるための「経済」の条件とはなんでしょうか?
まず「外のお金を地域内に呼び込むこと」です。地域外からの収入を得て、そのお金を、地域の中で循環させることが、豊かさへの第一歩です。目標は、資本ストックを蓄積させて地域の1人あたり所得を継続的に上昇させていくことです。

「お金のことばかりで辟易する」という意見もあるかもしれませんが、現実に地域の良さを維持していくために「お金」は最低限必要なものです。「すぐに何とかなるものではない」と最初からお金の話を避けてしまう人たちもいます。

でも、それは違います。まずは「お金」から逃げず、正面から向き合っていくこと。地域に流通する「お金」について、もっとよく考えることが大事なのです。

お金によって解決できる地域の問題はたくさんあります。最も身近な問題として、地域のインフラの整備が挙げられます。人口が減っていき、インフラが持続できなくなければ地域の人たちは生活していけません。それどころか「もしかしたらきてくれるかもしれない外の人」たちが入ってくるチャンスすら失ってしまうでしょう。地域のインフラを持続させるにはやはり「お金」が必要なんです。

地域のインフラを維持するために

私の経営する宿泊施設『MINAWA』のある宗像市・大島では、現状、地元の人たちの多くは漁師として働いています。魚があまり獲れない時期には副業をやって生活しているため、少なくとも貧困で生活が辛いという話は聞きません。何しろ、その辺に魚が泳いでいるわけですから、仮にお金がなくても自分で魚を獲って食べれば、飢えるいうことだってない。生活に困るということは、今のところないんです。浮浪者もいません。

ただ、あくまでも「現在は」です。

でも、このままいくと人口は確実に少なくなってくる。人の出入りがなくなってくれば、もう旅館だって、飲食店だって潰れてしまう。漁獲量が減っている昨今を鑑みれば、漁業だけで安泰とはいえません。そうなれば、島の平均所得もどんどん減っていくし、島の人たちの狭い中でお金が循環していくだけになる。「慎ましい生活をしていけばいい」という考え方はあるのかもしれませんが、行政に納められる税金も減っているわけです。これが宗像市という行政サイドから見たときに、どう映るか?という問題があります。

例えば島の水道管が壊れたときに「人口が300人しかいない島のインフラを税金かけて直すのか?」という話が当然出てきます。政策としては「水道管を直す予算がありません。不便になるなら、全員本土に越してきてください」というような話になり得るのです。そのほうが、行政としては無駄なお金を使わずに済む。そうなってしまった時に、この島をどうするの?管理はどうするの?と気づいても遅いのです。

「MINAWA」だって水道管が直らなかったらどうなるのか?という不安が出てきます。島のインフラが維持できなくなり、管理できないまま放置されたら、「MINAWA」の運営も困難になります。

他にも、本土と島を往復するフェリーに減便の話が出ています。現時点では1日7本の運行がありますが、「人口を考えたらそれを3本にしてもいいんじゃないか」という議論も、現実に出てきているわけです。そうなると、島の人たちはますます暮らしにくくなります。このように実際に起きている、地域消滅の前兆みたいな部分をどう回避していくか?ということを考えなければいけないのです。

地域の自然や景観を守るために

長野県の白馬村に行った時に、護岸工事の様子を見る機会があって、がっかりした経験があります。白馬の魅力というのは、まさに自然の景観です。それなのに、現在の護岸工事にはそっけない真っ白なコンクリートが使われているのです。そのために、白馬の景観が殺伐とした風景に変わってきてしまう。

そういうコンクリートを使う理由は、要するに「安いから」です。もっとお金があれば、自然の天然石を使ったり、もっと意匠のいい素材を使った護岸工事ができるはずなのです。これは「お金がない」ために「魅力のあるものが消されてしまう」一例です。

さらに言えば、お金をかけない=生態系や自然が保たれる、と考えている人もいまだにたくさんいるのですが、それは全く違います。人間も自然の一部です。森林の木を伐採したらいけないということではない。手を入れないと腐葉土がたまり、栄養素の多すぎる水が流れ出れば、それが海に藻を発生させる原因になってくる。そういう複合的なことが要因で、結果として魚がいなくなる。人間が手を入れてこそ守られる生態系があります。お金がないから、林業に予算が割けず、生態系も失われてしまう。そういうことが起きている地域もあります。

価値のある地域の魅力を消さないため、地域を消滅させないために「お金」に向き合うのは非常に重要です。インフラを整備する、景観を乱さない、それらが地域の魅力を守る事に全てつながってくる。だから私は「まずは、その話をしようよ」というところからスタートしたいのです。

このケースは白馬や大島だけに限ったことではありません。今現在、地域の人たちが困っていなくても、外からのお金の流れが失われたままになっていれば、それで将来のビジョンは見えなくなり、やがて「魅力ある地域」と言うのは消滅していく。そういう方向に向かわざるを得ないのです。

それは、かなり近い将来にありうる話です。これを回避するためには、外部からお金を稼いで、島の中で循環するお金を増やさなくてはならない。それが、インフラを維持するための唯一の解決策なのです。

地域の魅力を上げるためにも、維持するためにも「お金」は重要です。避けて通れば「夢物語」で終わってしまう。「お金」の話に向かい合わなければ、本当の地域復興は不可能です。地域創生事業を一過性のものにしないためには「地域の人たちのための経済の仕組み」を作り、それを地域に実装することを目指すべきです。

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