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温泉の源泉で作ったローストビーフで、地域のブランド価値向上を 大分県日田市天瀬町「桜滝キッチン」の挑戦

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大分県日田市天瀬(あまがせ)町は、町の中心に玖珠川が流れ、天ヶ瀬温泉と呼ばれる温泉街があるのどかな町です。ここに温泉の熱を利用して調理したローストビーフなどをメインメニューとする「桜滝キッチン」がまもなくオープンします。ローカルツーリズム株式会社は地域活性化につながるこの事業を支援しています。事業者の近藤真平さん(34)と吉良将太さん(34)に地域と関わるようになったきっかけ、実現したいことなどを代表の糀屋総一朗とともに編集部が聞きました。

地域おこし協力隊出身の2人、天瀬の魅力を感じて

――お二人が天瀬町に関わるきっかけについて教えてください。

近藤真平さん(以下、近藤):僕は埼玉県さいたま市出身なんですが、2011年の東日本大震災のときにスーパーから食べ物がなくなった時に、自分の家の食べ物も何もなくなってしまって「都会に暮らすことが、本当に豊かな暮らしと言えるんだろうか」と考え始めたことがまずきっかけとしてありました。結婚して奥さんが日田市出身という縁もあり、2016年に日田市の地域おこし協力隊に応募しました。そうしたら「(天瀬の隣の)大山町か、天瀬町か選んで」と言われ、「温泉もあるから天瀬がいいや」という気持ちでここに来ました(笑)。

暮らし始めたら、家に帰ると玄関に野菜が置いてあったりして、まずびっくり。ご近所の方がおすそ分けしてくださるんです。温泉にも200円、300円で入れるし、人付き合いも含めたいろんな気軽さがありがたかったですね。

吉良将太さん(以下、吉良):僕はもともと日田市の出身で、高校の時に調理師の資格を取って卒業後は福岡や東京で料理人として働いていました。「ゆくゆくは戻ろう」という気持ちがあったんですが、親の体調が悪くなったりといった事情も重なり、3年前に協力隊の任期が切れた近藤さんと入れ替わりで協力隊に入る形で日田に戻ってきました。

水害で壊滅的被害を受けた町でまちづくりに奔走

――近藤さんは協力隊の任期終了後、カフェをされていたんですよね。

近藤:はい、玖珠川沿いに川を見下ろせるカフェを開いていました。ただ、2020年7月7日の豪雨によって玖珠川が2度氾濫し、店にも水が入ってしまいました。

被災した店舗(写真提供・近藤真平さん)

――ショックだったのではないですか。

近藤:でも、カフェに行くまでにすでに町がめちゃくちゃになっているのを見ていたので、「そりゃそうだよな」ぐらいの感じでした。それまでお店には地域住民の方も、地域外からの観光客の方も来ていただいていたんですが、自分の店だけを直してもうまくいかないだろうと感じました。それよりも温泉街全体で復興することが大事だと感じて、一般社団法人天ヶ瀬温泉未来創造プロジェクト、通称「あまみら」(https://amagase-mirai.com/)を作って復興に着手することにしました。

災害の発生直後は炊き出しをやったり、簡単なカフェを作ってみなし仮設に避難した住民の方が集まれる場を作ったりしていました。現在はカフェ事業、移動販売のお弁当屋さん、それから被災地のスタディツアーとして修学旅行生を受け入れたり、温泉街の若手団体と一緒に公共工事に住民の意見を反映できるように実証実験をしたり、といったこともしています。

炊き出しで地域を元気に(写真提供・天ヶ瀬温泉未来創造プロジェクト)

――まちづくりに取り組む上で、大変だと思うことはありますか。

近藤「復興」という言葉一つとっても、それぞれの立場で価値観が違うことですね。住民の方は生活が元通りになれば「復興」だけど、旅館の方にとっては観光客の方が戻ってくることが「復興」。どう折り合いをつけたらいいのかわからなくて、「復興の沼」にハマっている時もありましたね。

――そこは話しあって納得できるところを見つけていくという感じですか?

近藤未来を見て、「今いる住民の子どもたち、孫たちにどういう温泉街を残したいか」という視点に立つと、建設的な意見が出やすいですね。なのでできるだけその視点を失わないようにしていました。

天瀬ならではの温泉を生かした「食」事業

――お二人が思う、天瀬の魅力について教えて下さい。

近藤:やはり温泉があって、川が町の中心に流れているというのが一番の魅力だと思います。あんなに川が氾濫して、甚大な被害があったのに、町の人はだれも「川が憎い」とは言わなかったんですよ。河川改修の大枠も決まりましたが、堤防を作るとかではなく、床下浸水までは覚悟した河川改修なんです。単に「美しい景観」というだけではなく、そういう環境を受け入れた住民が住んでいる、1300年続いてきた歴史を守っていく、そういうところが本当に好きですね。

糀屋総一朗(以下、糀屋):僕もその話を聞いた時に感激したんです。景観を殺して安心安全を選ぶのではなく、安心安全を犠牲にしても今の町の魅力を活かすという形で合意が取れたのは、すごく印象的でした。

吉良:僕は天瀬には、「川湯」という川の底から湧き出る温泉があったり、全国的にも珍しいものがたくさんあると思います。温泉も実は泉源が多岐にわたっていて、それぞれの温度も違う。それから、食材もまだまだ眠っているものがあります。ジビエやシャインマスカットなど、目玉となるものがあるので、そのあたりをちゃんとアピールしていけたら面白いだろうなと思います。

――お二人で事業を始めようと考えた経緯は。

近藤:今年の7月で災害から2年が経って、ある程度町全体の生活も戻ってきている感じはあります。その中で、事業としてまちづくり会社がどう必要なのかということを考えるようになり、吉良さんと2人で新しい飲食店をやっていこうという話になりました。

吉良:僕の協力隊の任期がちょうど6月で終わったということもあり、いいタイミングでしたね。

――具体的にはどういった事業なんでしょうか。

近藤:温泉街から1kmぐらい離れたところに、「桜滝」という滝があるんですよ。JRの天ケ瀬駅もすぐそばにあって、「マツコの知らない世界」でも「日本一行きやすい滝」なんて紹介されたりもするところで。その滝の入口のところで飲食店「桜滝キッチン」をオープンします。

九大本線天ヶ瀬駅からすぐの場所だ

吉良:天ヶ瀬温泉にはさまざまな源泉があるんですが、60度ほどの源泉の温度がちょうどローストビーフを低温調理するのと同じ温度だなと気づきました。そこで一度源泉を利用してローストビーフを作ってみて、周りの人に食べてもらって「これは美味しい」と。天ヶ瀬温泉ならではの料理ということで、ローストビーフ丼をメインで出すお店にしようと考えています。丼には温泉卵も乗せます(笑)。

近藤:このお店を通して、天瀬のブランド価値をあげていきたいとも考えているんです。例えば由布院でローストビーフ丼が3,000円で販売されていたら「由布院だからそれぐらいするよね」と納得すると思うんですが、天瀬でこれをやると「高すぎる」という評価になるし、浮きまくってしまう。それを変えていきたいんですよね。

コンテナを利用したこじんまりとした店舗

吉良:僕は料理人なので、料理人って自分の料理に値段をつけるのが難しいところがあるんですよ。だから1人ではなく、2人でやっていけたほうが助かりますね。あと僕は慎重派で、近藤さんがイケイケドンドンといった感じなので、いい感じのパートナーだと思っています(笑)

「安売りの呪い」から脱したい

――近藤さんが「ブランド価値をあげよう」「単価をあげよう」と考えたきっかけは何かありましたか?

近藤:災害直後にやっていたカフェでも、コーヒー1杯500円程度でやっていたんですが、正直なところ事業としては厳しく、消耗戦になってしまうんです。500円だからといってたくさんの人が来てくれるかといったら、そうではないし。人がそもそもいないから単価を上げるしかない、そうしないと生き残れないなと実感したところがあります。それもあって、この地域では高めと思われるであろうプライシングでやっていこうと考えました。

国産和牛ローストビーフ丼は2,800円、ローストビーフ丼は1,800円

糀屋:「食を通じてブランド価値をあげよう」ということは、本当に僕も福岡県宗像市の大島で事業をしていて大事なことだと実感しています。特に僕も地方は「安売りの呪い」にかかっているところがあるのでそれを打破しないといけない、と常々言っています。「安く、人をたくさん呼ぶ」より、高くしたほうが来る人は喜ぶんですよ。2人の事業がうまくいくように応援したいと思っています。

近藤:でもやっぱり怖いですよ(笑)。地域とガッツリ関わっているので、「あの人はこの値段では来てくれないだろうな」とか、地域の人の反応が手にとるようにわかってしまって。この事業に関しては、地域住民の方ではなく、外から来てもらうことに集中していきたいと思います。

糀屋:僕も、島の人に「あんなに高くては……」とは度々言われていますからね。そこはそういうものだとうまく会話しながら、折れない心でぜひ(笑)。

近藤:ありがとうございます。

――「桜滝キッチン」の概要について教えてください。

近藤:本当は11月中にと考えていたんですが、少し工期の遅れなどもあり12月17日にプレオープンし、22日に本格オープンします。席数は当初は8席。ウッドデッキ部分にも席を8〜10席設置する予定です。

明るい木を基調とした店内

吉良:当初はお昼から夕方ぐらいまでの営業の予定です。お酒も一応置いて、あとはこちらの特産を生かしたジュースなども。お肉がメインになるので、ワインも置けたらいいなと考えています。

――他に展開も考えていらっしゃいますか。

近藤:実はすでに、貸別荘・コテージに向けてBBQ用の肉をケータリングでお届けする事業も始めているんです。今後は旅館・ホテルさんなどの空いている部屋と組んで、こちらの食材を届けるプランもできないかなと考えています。

肉屋の欧風カレーは1,500円

吉良:お肉はBBQ用のものは海外産も使っていますが、お店の方は和牛を使うなど、ランク分けをしていこうと考えています。本当は地元・大分の豊後牛を使いたいのですが、なかなか値段の部分で難しいこともあり……今は佐賀や宮崎産の牛肉で考えています。

事業者として、しっかりと地域と関わりたい

――今後、この事業を進めていく上での展望や思いがあれば教えてください。

近藤:やはり、事業を進めていって住民さんたちと関わっていきたいというのはありますね。災害直後はボランティアとか、思い先行の部分でやってきました。町全体が元気を取り戻してきて、今後はどう賑わいを取り戻すか、地域として価値を上げるかというフェーズに入ってきていると思います。考え方はそれぞれ違いますが、先ほど言ったように旅館さんの部屋食を「桜滝キッチン」が担当するとか、そういう新しい展開も考えていきたいです。そうなった時に地域での発言権もできると思いますしね。

あとは、お肉の宅配にももっと可能性があると考えています。日田市にはスノーピークのキャンプ場もあるので、そこに地元の農家さんと組んでお肉と野菜をBBQセットとして届けるとか、そういったこともやっていきたいです。

吉良:田舎ということもあり、卵が先か鶏が先か……お店がないから人が来ないのか、人がいないからお店がないのか、みたいな話になってしまうんですが、沈んでいく地方を少しでも変えていきたいですね。都会だと若い人がどんどん起業してチャレンジしていますが、地方だと自分で起業する人は少ないし、補助金とか手当とかについても全然知らない人が多いんです。この事業を成功させて、いい前例を作って若い人たちに見せていきたいなと思います。はじめは桜滝のお店ですが、温泉街の中心にも出店できたらいいなと考えています。

糀屋:本当に、まずは事業を成功させてもらうことですね! 思いが強くても、成功しなければ微妙だと言われてしまいますから、意地でも成功させてほしいです。そのためにできることがあればどんどんサポートしますから、頑張ってください。期待しています!

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