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木曽漆器の魅力を訪ねて【地域の人×地域資源×LOCAL NIGHT PICNIC】

木曽の山々を貫く街道沿いに、趣きのある家屋が立ち並んでいました。
塩尻市南部に位置する木曽平沢地区。古くは楢川村と呼ばれた一帯は木曽漆器の町として今も伝統が息づいています。


木曽漆器の概要については下記の記事をご覧ください。

今回、ローカルナイトピクニックの会場では、塩尻の伝統工芸である木曽漆器にまつわるものを再利用して会場装飾を製作することになりました。
何を再利用するかというと、木曽漆器の製作工程で出来る漆の濾し紙(こしがみ)というものです。
イベント当日に向けて地域の方や地元の子どもたちと一緒に装飾作りをすすめているところです。


いただいた濾し紙

漆にはチリやホコリ等の不純物が含まれていて、そのまま塗ると仕上げに影響してしまうそうです。そのため、漆を濾して不純物を取り除いてから塗り上げていきます。

では、実際に漆を濾す工程を写真で見てみましょう。

薄くて丈夫な濾し紙に漆を流し込みます。

濾し紙の両端を器具に取り付け、じょじょに絞りあげていくと…

「うま」「こしうま」等とよばれる漆濾し専用の道具

不純物が濾された漆が外へと流れ出ます。


この濾し紙を再利用し、ローカルナイトピクニックの会場装飾に使用します。濾し紙は漆の色によってその彩りも様々です。

想像していたより、幅広い色彩が存在する


濾し紙での装飾作りの様子


こちらは濾し紙ではないのですが、小学生を対象に行ったガーランド作り。

当日は、濾し紙の装飾と、子どもたちが作ってくれたガーランドが会場を彩ってくれます。
地域資源である木曽漆器を通して、子どもたちが塩尻を知る機会を提供すること。さらに、地域のお年寄りがイベント作りに携わることで、目標を持ち、生きがいや張り合いに繋げることを目指して活動してきたこと、それが今回「地域の人×地域資源」にスポットを当てた理由です。

塩尻のみなさんが作ってくれた会場装飾がどんなものになるのか、ぜひ楽しみにしておいてください。



今回、漆の濾し紙を提供していただいたのは、木曽漆器工業協同組合さんです。会場装飾を通して木曽漆器とのつながりを感じていただき、塩尻が世界に誇れる伝統工芸の産地であることを市内外の方に広く知っていただきたいと思っています。
その一環として、漆器職人さんの工房を訪ね作業の様子や漆器業についてお話を伺いました。


西野うるし工房 様

日本人の食生活には欠かすことのできない箸。滑らかな仕上げに思わず釘付けになりました。この箸で食事をしたら、美味しさもアップするんじゃないかと思わせる魅力がありました。



実際に、漆器には私たちが日常生活で使用する上で優れた性能があるそうです。まず、漆特有の断熱性(保温性)があります。食事の時間を思い返すと、よそいたてのご飯や汁物が入った器は熱くて持ちにくいことがありますが、漆器ならその熱さを伝えにくいのです。熱さを伝えにくいということは、温かいもの、冷たいものを一番いい温度のまま長く食事を楽しむことができるということです。

お椀を手に持ったときの手触りの心地よさや、口当たりの良さも魅力的です。食器を手に持って食事をする私たちだからこそ、その良さに気付けるのではないでしょうか。
また、傷や割れに強いという耐久性も漆器の特徴のひとつです。つい漆器の使いどころを"特別な日に"と思いたくなりますが、日常使いの中でこそ魅力が増すと思います。

こちらは重箱。現在、修繕している品とのことです。漆器は修繕をすることで長い間使い続けることができます。

お気に入りの漆器と生活をともにできる。漆器は使う人の半生を知る食器と言っても過言ではありません。


こちらは漆用の刷毛です。木の全長部分まで全て刷毛が詰まっているものを"本通し"、全長の半分までのものを"半通し"と呼ぶそうです。漆器職人は自分の仕事、手癖、作業効率などに合わせ、刷毛などの道具を自身で使いやすいように加工を施す人も少なくないそうです。道具を自身の指先のように繊細に、意のままに操るための工夫が施されていました。


伊藤寛司商店 様

目の前の仕上げ途中の漆器。ここから数回、漆を塗り重ねていくそうです。こちらは何回くらい塗った状態でしょうか?という私たちの問に対して
「3回、いや、これは4回目だね」
教えていただきました。当然、私の目では何度塗り重ねたものなのか推し量るキッカケさえ見つけられませんでした。見ただけで分かるのですか?とお尋ねすると
「それが分からないと仕事にならないからね」と
漆器職人としてたゆまぬ努力と日々の研鑽をうかがい知ることができました。

塗りの工程で、刷毛のゴミやホコリが表面についてしまうことがあるそうです。見逃してしまうと、商品にはできないそうです。そこで上の写真のように、小さなホコリや刷毛の抜け毛などを見つけ出し、ひとつひとつ取り除いていくことで、美しい仕上がりを目指すそうです。
手間を惜しまず、長い年月をかけて習得した技術と目によって木曽漆器の品質は保たれています。



小坂進うるし工房 様

職人さんの技量・知識、漆というの優れた資材により令和の時代まで受け継がれてきた木曽漆器ですが、多くの伝統工芸と同じように、担い手不足に悩まされています。
優れた技術、高品質な工芸品だからこそ、この先も受け継いでいきたいと願う人は多いはずです。

人手不足解消の一手として塩尻市は地域おこし協力隊として、漆器職人のもとで働く人材の募集を開始しました。果たしてどれくらいの人が応募してくれるのだろう、と不安にかられたそうです。ですがその心配は杞憂に終わります。なんと1人の募集人員に対して16倍の応募があったそうです。

地域おこし協力隊として採用され、漆器職人の小坂さんの下で腕を磨く竹内さん。伝統工芸を学ぶ専門学校を卒業後、石川県輪島の漆器業に従事していたそうです。

漆器職人の仕事は、地域やその工房によって全然ちがうんです。分業制をとる所や、職人一人一貫作業する所も。私は、一通りの工程を全部自分の手で仕上げてみたいという気持ちがありました。それに、ここ(木曽)は「気になるならまずやってみな」と後押ししてくれる風土があるので思い切って移住してきました。

隣で竹内さんの話を聴いている小坂さん。表情がとても温かく優しかった。

作業中に漆がついて徐々に漆で塗られたようになった日用品。

漆関連の催し事には道具を一式持ち出すそうですが、漆が偶然ついてしまったモノを「キレイですね」と声を掛けられることが多いそうです。私も思わずその美しさに惹かれて写真を撮った一人です。
"漆は空気以外のモノなら何にでも塗れる"
漆業界ではよくそのように言われるそうで、漆の汎用性の高さを感じました。食器だけではなく、家具や建物にも漆は塗られるそうです。

伝統は守るべきものだけれど、それだけでは続けることはできません。古い側に立つ私たちは若い人の感性や声を取り入れて、古くから伝わるものをさらに良くして今の人たちにも受け入れてもらえたら嬉しいですね。

こう語る小坂さんの言葉には伝統工芸ならではの悩みと、それを受け入れつつ新しい形へ変えようという前向きな心構えを感じました。

職人さんの素顔

取材にご協力いただいた漆器職人さんたちを改めてご紹介させていただきます。皆さんとても親切に漆器について教えてくれました。写真を通して職人さんたちのお人柄が伝わったら幸いです。

西野うるし工房 様

代表の西野孝章さんと奥様


(有)伊藤寛司商店 様

代表の伊藤寛茂さん


小坂進うるし工房 様

代表の小坂進さんと 弟子の竹内桜咲子さん



春野屋漆器店 様

今回、取材と濾し紙の提供にあたり、木曽漆器工業協同組合 理事長小林さんにご尽力いただきました。


木曽漆器工業協同組合 理事長/春野屋漆器工房 代表 小林広幸さん


結びに

漆器に関わる方の多くは「まず日常の中で漆器を使ってみてほしい」と仰られます。伝統となったのは数百年に及ぶ日常使いがあったからでしょう。木曽、ひいては塩尻市民の生活の中に漆器が溶け込んでいたからこその結果です。
一つの漆器が仕上がるまで、長い年月と手間がかかります。そして漆の持つ優れた特性により漆器は今も受け継がれてきれいます。
まずは身近なところで、身の回りの食器や生活用品として漆器を使ってみてその良さを知れたらいいなぁと感じました。


今や、食器はいつでも、どこでも手頃に購入することができます。壊れたら同じものをすぐに買うこともできます。私もそうした部分に助けられていますので、それを否定するつもりは全くありません。
でも、それとは別の価値観を持つことも大切だと思いました。日常の中で使っている食器を見た時、作ってくれた人たちに思いを馳せることができる。そういうモノを気に入って、永く大切に使いたい。私は職人さんと話をしながらそんなことを考えていました。



私はこの取材をキッカケに、何かひとつ漆器を自分の生活に取り入れてみようと思っています。実際に漆器を持ってみて、職人さんたちの話を伺うことで今まで知らなかった世界を知ることができたのはとても貴重な経験でした。もしこの記事をキッカケに、漆器に少しでも興味を持っていただいた方は、私と一緒にそのままもう一歩踏み出してみませんか?

ローカルナイトピクニックは地域おこしを主軸としたイベントです。今回ご紹介した木曽漆器のような地域資源、それに関わる地域の方々のことをより多くの方に知っていただくキッカケを作れたらこれ以上の幸せはありません。



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