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日の丸半導体の悪夢を繰り返すな【JAXA基金創設】

本日は、この度国会で審議される「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法の一部を改正する法律案」、いわゆるJAXA法改正案について考えてみたいと思います(本稿で対象とするものは2023年第212臨時国会で法案が提出されたものです)。この記事では、宇宙空間を利用した事業に関する報道と宇宙航空研究開発機構(JAXA)補助金基金創設の是非について私見を述べていきたいと思います。

法改正の具体的な内容

今回JAXA法が改正される理由は次の通りです。
宇宙空間を利用した事業の実施を目的として民間事業者等が行う先端的な研究開発を推進するため、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構について、当該研究開発に対する助成を行う業務を追加するとともに、当該業務等に要する費用に充てるための基金を設ける必要がある

案文・理由


そもそも、JAXA法は国策として推進すべき宇宙事業のための組織、業務、雑則を中心に記述されており、わが国の宇宙関連の研究組織としての位置づけとなっています。
〇e-Gov「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000161

今回の主要な改正点は一つ。法第四条においてJAXAの業務に「宇宙空間を利用した事業の実施を目的として民間事業者等が行う先端的な研究開発に対する助成」を追加しました。
その具体的な内容を次の通り定めています(十八条七)。

(業務の範囲等)
七  次に掲げる者として公募により選定した者に対し、当該研究開発に必要な資金に充てるための助成金を交付すること。
イ  宇宙科学技術に関する先端的な研究開発を行う民間事業者であって、その成果を活用して宇宙空間を利用した事業を行おうとするもの
ロ  イに掲げる者と共同して当該研究開発を行う大学その他の研究機関

新旧対照表

そして、当期補正予算として1,500億円が計上(総務省、経産省と合わせて3,000億円)されています。文部科学省の概要説明資料によると最大10年間にわたって大胆に研究開発に取り組めることになるとのことです。ですから単純計算ではありますが、10年間かけて約1兆円~3兆円規模の予算が投じられる予定です。

現在の宇宙事業

さて、今回の改正だけを見るとこれまで民間事業者へは補助金が出されていなかったのかとの疑問が生じます。しかし、わが国の宇宙開発事業はさまざまな取組を行っており、当然JAXAと民間企業がともに参画した事業も進めています。

例えば、2022年4月から「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」が施行され、JAXAは出資を希望する事業者の募集を始めています。「新事業促進部」という部署が中心となり、2022年12月に株式会社天地人に対し「地球観測データを使ってJAXAが目指す新しい宇宙利用ビジネスや、成果の社会実装につながる事業を展開しようとしている点」と評価、直接出資の第一号と決定しました。

JAXAは2,690億円(2022年度)の収入がある組織です。また、JAXAの事業として、宇宙分野における計画については宇宙基本法に定める宇宙基本計画に基づかなければ中長期目標を変更することができません。宇宙基本計画は現在次の通り定められています。

目標と将来像
(1)宇宙安全保障の確保
(2)国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現
(3)宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造
(4)宇宙活動を支える総合的基盤の強化

内閣府「宇宙基本計画 本文(概要)」(令和5年6月13日閣議決定)

上記(1)の宇宙安全保障の確保については、以前当noteで紹介したので改めてご覧いただきたいと思います。日米安保体制の下での日米協議の枠組みを無視するわけにはいきません。両国の宇宙関連の協議においても日米安全保障協議委員会の下にあります。数年前までの宇宙基本計画では「多様な国益への貢献」との文言がありましたが、現在は削除されています。わが国のみの「国策」優先の宇宙開発は不可能なのです。

宇宙戦略基金創設に反対します!

当noteが先日発表した「補正予算は「愚か者に降るカネの雨」だ」においてもご紹介しましたが、内閣府の事業として「S-Booster」というものがあります。これは、スポンサーを募り、宇宙を活用したビジネスに関するアイデアコンテストです。新規産業を発掘するという目的の事業です。2017年から毎年行われています。これも海外のモノマネ事業です。

また、文部科学省の「Small Business Innovation Research(SBIR)」というプログラムはスタートアップがロケット開発等を促進するために補助金を交付する事業を行っています。このプログラムは「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」により制定されています。今年採択されたロケット部門のための事業は次の4つです。

代表スタートアップ:インターステラテクノロジズ株式会社
事業計画名:小型人工衛星 打上げロケット ZERO の技術開発・飛行実証
フェーズ1事業期間:~令和6年9月末 フェーズ1交付額上限:20.0 億円

代表スタートアップ:株式会社 SPACE WALKER
事業計画名:サブオービタルスペースプレーンによる小型衛星商業打ち上げ事業
フェーズ1事業期間:~令和6年9月末 フェーズ1交付額上限:20.0 億円

代表スタートアップ:将来宇宙輸送システム株式会社
事業計画名:小型衛星打上げのための再使用型宇宙輸送システムの開発・実証
フェーズ1事業期間:~令和6年9月末 フェーズ1交付額上限:20.0 億円

代表スタートアップ:スペースワン株式会社
事業計画名:増強型ロケットの開発、打上げ実証及び事業化
フェーズ1事業期間:~令和6年9月末 フェーズ1交付額上限:3.2 億円

上記2つはそれぞれ内閣府と文部科学省のスタートアップ支援事業ですが、いずれもJAXAが関係しています。官僚は同じものを新たに作り出す名人ですね。宇宙開発という旗印のもとに、JAXA自体に大きな予算を持たせて補助金をバラまく。宇宙戦略基金創設して天下り先を確保。いつものことです。

アメリカを始めとして、確かに国家がロケット企業に補助金を投入して育ててきたことは確かでしょう。日本もアメリカを真似て民間ロケット事業を支援べきだといつも言っている人もいます。

ですがアメリカにできたとしても日本政府に新規産業や企業を育成する力があるのでしょうか? これまで国が関わってきた産業育成を見るに、ことごとく波の泡のように消え去った気がします。むしろ老害や既得権がはびこりマイナスを生んでいるのではないかと。

行政の事業には結果の検証が必要だと良く言われます。特に補助金については適切な事業者に対して、適切な費用が投じられたかを検証することが大切です。

例えば、上記の表にあるインターステラテクノロジズ社に20億円の補助金を投入することになりました。
誰が、なぜ、この会社に税金を投入しても良いと判断したのでしょうか?
そしてその事業の評価は今後どうする予定なのでしょうか?

今後、国民に対してなんらかの説明はあるのでしょうか?

成功したときも、失敗したときも。。。

例えば説明として、日本の宇宙産業が世界の中でどのくらい勝算があるのか。それがどのように社会経済の中で還元されるのか。
そういった説明はうやむやですし、時には政治家の力が働いていることもあります。それが恣意的な税金の分配を生みます。政府の補助金は未来への投資と言えますが、これを正確に測定するためにはプロジェクトを始める時点で利益に対する定義を決めておかなければなりません。

つまり、結果の測定だけでは政府の関与の正当性があったのかどうかはわかりません。国が関与せずとも達成できた収益であった場合、国が投資する必要がなかったことになります。政策を評価するには結果だけでは意味をなしません。政府の補助金においては政府の関与の適切さを計る定義もあらかじめ決めておく必要があります。

従来の行政レビューなどで問題になっている補助金事業で、国の関与の正当性までをあらかじめ定義した基金設計になっているものはほとんどありません。内部的なものが公開されていないため勝手な想像にはなりますが、最初から補助金創設が決定事項としてあり、具体的な手法については計画されないまま進められている可能性があります。このまま突き進めばそこから補助金を受ける企業にとっても悲劇が待っています。

スタートアップでは特に補助金を受ける企業と国の考える方向性との一致がとても重要です。決して補助金を受ける側の一方的なロビイングによる説得に負けただけでは方向性が一致しているとは言えません。その場合民間企業が考えている方向に進められることは稀です。企業の好き勝手に研究開発が進むはずもありませんし、さまざまな投資に対して決定権を持てなくなります。これは大きなリスクです。

補助金が欲しい企業は政府からではなく、もっと社会の中に問いかけませんか? 最近ではクラウトファンディングなども盛んになっています。それ以外でも、篤志家、事業家などで積極的に資金援助を行っている人たちもいます。「クニガキチント」と思って国の予算を当てにすると失敗した時に社会から厳しい目で見られることもあります。

何よりも補助金は税金なくして成り立ちません。私の納めた税金が、勝手に誰かにバラまかれるのは何よりも納得できません。政治不信が恐ろしく高まっている現在、国民から強制的に徴収し恣意的に配る補助金に正当性があるとは言えません

ビックプロジェクトである宇宙産業とはいえ、商売は自分のお金でやる。また支援者から資金を募る。この基本原則を忘れないで欲しいのです。それがコスト意識やスピード感を産み「良いものを安く早く提供する」という市場競争で勝つための正しい成功法則。これは宇宙事業だろうが半導体だろうが同じです。

政府に保護されていては高コスト体質やガラパゴス化は避けられません。いくら技術力は上がっても、日の丸半導体のように世界の価格競争で敗退するという無惨な結末が待ち受けているのではないでしょうか。

浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)

【質問1】宇宙事業に関する補助金のあり方に関してご質問します。すでに我が国には、内閣府の行っている「S-BOOSTER」と文部科学省の「Small Business Innovation Research(SBIR)」という事業があります。いずれも宇宙技術においてスタートアップ企業を支援するための補助金事業です。今後設けられる「宇宙戦略基金」とは、これらを抱合して一つの制度にするのか、3つが同時並行的に進められていくのか、どのような計画があるかご説明ください。

【質問2】上記2種類の補助金事業について、選考の理由をお教えください。また、その補助金額の決定理由、補助金を受ける企業の将来的な企業収益の目標値など把握していましたらご説明ください。
7月18日の宇宙輸送小委員会の議事録では「企業の事業構想の実現に向けて必要な技術、サプライチェーンの自律化に向けて我が国として取り組むべきことについて、説明があった。なお、本議題の説明資料及び議事録については、個別企業の秘密情報を含んでいるため、非公開」とされています。非公開の部分は除いて、SBIRでの採択に際し可能な限り補助事業の採択の理由、費用などの適切性について公開していくべきではないか。見解を伺いたい。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。