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ミュージカル『蜘蛛女のキス』感想(相葉バレンティン)



これはストレートプレイ版を見た…と思っていたけど記憶がかなりあいまいになっていた。今回映画版、原作も予習してから臨んだけど、特に映画版もう1回見よう〜と思っています。

あらすじ(公式サイトより)

舞台はラテンアメリカの刑務所の獄房の一室。映画を愛する同性愛者のモリーナ(石丸幹二)は、社会主義運動の政治犯バレンティン(相葉裕樹/村井良大)と同室になる。人生も価値観も全く違う二人。お互いを理解できず激しく対立するが、時を重ねるうちに次第に心を通わせていく。モリーナは、心の支えである映画スター大女優オーロラが演じる蜘蛛女(オーロラ/蜘蛛女:安蘭けい)について語り、運命を支配するように、“彼女”は現れるようになる。極限状態で距離を縮めていく二人。モリーナは所長から、バレンティンに関する秘密を聞き出すよう取引を持ちかけられている。しかし、バレンティンへの想いから、モリーナは動かない。ついに所長は、モリーナがバレンティンの仲間と接触することを期待し、モリーナを仮釈放にすることを決める———。

ミュージカル版の特徴としてはモリーナの語る女優「オーロラ」と、オーロラが演じている「蜘蛛女」がクローズアップされていることで、原作でも映画の話はしているが、オーロラと蜘蛛女のキャラクターはミュージカル版のオリジナル要素。モリーナが獄中で映画のことを語ると、それがショーとして具現化されてくる構図で、独裁政権下の牢獄の辛い描写に被さる華やかなショーで情緒がおかしくなります。「空想がショーになる」演出には好きなものが多くて、『ビリー・エリオット』の「Dream ballet」もそうだし、『プロデューサーズ』の「I Wanna Be A Producer」もめちゃ好き。でも、ここまで全編にわたってそれが交互にくることってないので、よくこんな展開にしたよな〜と驚いたところでもありました。

アルゼンチンのことは何も知らなかったので事前になんとなく検索していて、これって「汚い戦争」と呼ばれる軍事政権下の弾圧の時の話なのかなあと思っていたけど、原作が発表されたのはその前というかちょうど時期が同じくらいで、つまりそこの政情は反映されていないのかも?原作者のプイグはペロン政権下で、反政府勢力への圧力が強まり亡命(1973年)→『蜘蛛女のキス』を発表(1976年)、同時期にペロンは死に(1974年)妻が後を継いで反政府派の弾圧を行ったが失脚(1975年)、クーデターで権力を持った軍事政権によって激しい左翼弾圧が行われる(1976年〜1983年)…みたいな理解で合ってるのかな。どちらにせよ、活動家には激しい弾圧が行われていたということなのか。とは言いつつ、ミュージカル版では時代・場所は明言されてはおりません。相葉バレンティンの姿によくレミゼのアンジョルラスが重ねられているのを見かけ…というか私もちょっと重ねていたけど、レミゼも蜘蛛女も亡命文学を元にしたミュージカルなんですね。

モリーナ役の石丸さんは実は初めて見たんですが、もう「匠」って感じ。心なしか声までオリジナルキャストに似ている気がするし、少女のようなモリーナがかわいかった。オーロラ/蜘蛛女役の安蘭さんは現役時代を全く知らず『ビリー・エリオット』や『ジェイミー』のお母さんキャラ的なイメージが強かったので、華やかすぎてこんな方だったのか!!と。

私のお目当てである相葉バレンティンは、5〜10月までずっとレミゼでのシュッパリッビシッとしたキラキラアンジョルラスの姿を見ていたので、無精ヒゲで猫背でスプーンの持ち方も粗野なバレンティンにはひゃ〜オラおでれぇたぞ(雑な悟空)になりました。しかしこのバレンティン……スタイルと顔と声がいい!!劇中設定での色男具合がわからないんですけど、あからさまにいい。でもまあバレンティンと同室になった時にモリーナが脳内召喚したオーロラが「ジプシーが言ったの 美しくたくましい男が現れて命がけの恋に落ちると」みたいなことを歌っているので、出会ったときからいい男だったんだろうな、バレンティン…とは思いながら見ていました。モリーナはティーンエイジャーが好みと言いつつ、罪状の相手が未成年だとは思わなかったと言っていたり、実際に好きな人はガブリエル(ヒゲ面で妻子持ち)だったりするので、もう最初から好きになっちゃったのかなバレンティンのことを。マルタの名前も早々に聞いてたのに所長にバラさないし。バレンティンは「俺はあんたの映画の中の登場人物じゃない」みたいなことをモリーナに言っていましたが、実際に相葉バレンティンは映画から出てきたような造形なので、「これはヒロインになれちゃうよな、モリーナ…」と心の中で呼びかけてしまいました。

相葉バレンティンは、わりとチョロそうというか大型わんこっぽく、最初ギャンギャン言ってたのに粗相シーンで「男なのに優しいよな、モリーナ…」というところで声がよわよわだし完全にほだされていてかわいい…と思ってしまう。一方でやっぱり「こいつー!!」と思うところは多々あり、モリーナを利用することをためらいながらも突き進んでるところとか…外見が外見だから、愛され慣れてるがゆえの傲慢のようにも見える。でもモリーナを抱くときには甘くて真摯でラブロマンス度が高いので、やっぱり映画の中から出てきた美青年だし、相葉マリウスもあったなこれは…みたいな気にもなりました(すぐレミゼ話奴)。1つバレンティン擁護するとしたら、観客はモリーナが所長とつながってることを知ってるからハラハラするけど、バレンティンはモリーナのことを模範囚だと思っているから「そこまで危険はない」と考えてもしかたないといったところでしょうか。ちなみにここらへんの解釈などについては、ちょこちょこと人様のものを読ませていただいたりしていたんですが、みんな言ってることが違う!!本当に180度違う意見が並んでたりする。ので、もう自分が元々何の目を持ってるかによって感想って違ってくるんだなということも非常に感じました。わりと日によっても違って見えたりするし。

バレンティンの「男になれ、男になれ」もね…「こいつー!」ポイントでしたが、政治活動が男の領域だったとか、この時代はまだゲイとトランスジェンダーに対しての理解が渾然一体としていた…というパンフレットの解説も理解の助けになってありがたかった。あと思ったのは、翻訳の「女ことば」問題ですよね。そもそもモリーナはいわゆる日本の女ことばを使ってないのだろうし、原作本の訳者後書きでも「モリーナの口調をいわゆるオネエ言葉にしたら生き生きとしてきた」とあって、それは果たして必要なのか…と改めて考えてしまう。モリーナが「女ことば」を使うことによって、現代の観客にとっては「モリーナはトランスジェンダーなんだな」と理解がしやすいけど、一方でモリーナが普通の話し言葉だったら、また印象の違う台詞になっていたような気もします。

モリーナの最後は…ハッピーエンドという意図もすごくわかるけど、やっぱり皮肉だなあという感想です。それはバレンティンのことと関係なく、結局モリーナを殺すのが所長というか、組織とか国というか政府というか、そういうものだったから。現在進行形で起こっていることで、狭い単位だと今の入管問題とかもそうだし、大きな単位だと世界にいろいろ起こっているし…。レミゼから続けて作品を見ているので余計に思いました。

それにしても、今回一番驚いたのは相葉さんの歌の進化だったかもしれません。私が最初に見たのは『グレイト・ギャツビー』で、そこからはほぼレミゼという感じだったので、普通にうまいとは思ってましたけど、ちょっとムラがあるところもあるよな〜と思ってたし、今回曲も難しそうだから大丈夫かなあと若干心配してたところもあったのに(ごめんなさい)すごいよかったです。「愛しい人(Dear One)」の柔らかな声も良いし、「嘆きの壁2(Over the Wall)」の「鼠と飯を分け合い〜」の力強さ、「嘆きの壁3(Marta)」のゲロ甘さ(ほめてる)、「彼のためなら何だって(Anything For Him)」の最後の「何だって〜♪」の声の伸びよ。

特に2幕の「あしたこそは(The Day After That)」はやばかった…。オリジナルキャストの歌唱を聴いていると男らしさ包容力…みたいなとこが強いけど、相葉さんの歌声って力強いのに若々しくて、自分を追い詰めるように高まっていくじゃないですか。あれ聞いてるとハーメルンの笛吹きに導かれるような、ふらふらと脳が持って行かれる感覚があって、こわ〜と思っています。なんかトランスして天啓を得そうになる…。元々特徴的な声をなさっていたのかと思いますが、それを磨くとこうなるのか。いやしかしここ数年で考えても、たぶんテニミュの時から考えても、みんな「歌がうまくなったね」と言うだろうから、ご本人の努力すごかったんだろうな。と思いつつ、努力だけでいけるなら世の中もっとミュージカル俳優だらけになってるだろうから、いろいろ「持ってる」人なんだなあ。

この歌の時の相葉さんも舞台映えの権化…ここは紗幕が上がっているから「映画」に入っているところでもあるんですよね。相葉バレンティンでもあり、相葉ゴリザーでもあるんかなと見ていました。私も世界に怒りを覚えることがよくあるので、そういった意味でも、モリーナと同様に持っていかれる場面でした。アンジョに重なる部分も違う部分もあるのですが、検索して他バージョンの映像を見るとここまで「ワン・デイ・モア」みがあるのは今回だけでは!?となったので、そこは演出で狙っていたのかどうか気になるところです。

もっとさくっと感想を書こうと思っていたのに結局だらだらと…これから相葉バレンティン東京楽に行ってきます。

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