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いつも私のために働いてくれている眼鏡に感謝を込めて

今から私は自分の弱点をさらけ出そうと思う。これは非常に勇気ある行動だ。と誰かに褒めてもらいたい。だってそうでしょう。ここに弱い所を書き記すことで、今後、敵側は私に対する攻撃を仕掛けやすくなるわけだから。今頃、敵のアジトはざわついていることでしょう。ただちに戦隊を組み、武具を身に着け、よく手指を消毒したうえで、突撃の準備をしているに違いない。

だがそんな小さなことは気にせず、私は書き連ねる。なぜなら別に命を狙われてなどいないからだ。敵の存在は、暇なときに一人で繰り広げる妄想一大サーガの中の登場人物に過ぎない。


私は目が悪い。
こう書いただけで十分に意味は伝わったと思うが、一応、ことわりを入れておこう。
目が悪いというのは、別に目の形がいびつだったり、冷蔵庫に入れ忘れて悪くなっちゃった、もう食べられないねこれっていうことではない。
さらに念を押すと、目が万引きをしてきたり、駐車違反をしてみたり、妻が買ってきたカプリコを勝手に食べてしまったりしたわけでもない。要するにこの場合の「目が悪い」は「あいつ、悪い奴だな~」という意味ではないということだ。これで完全におわかりいただけたことだろう。え? まだ足りない? それでは、正直に白状しますが、カプリコを食べたのは目ではなく、私の口でした。

視力の話だ。
それも左目が非常に悪い。小学校に在籍していた当時(私はマンチェスターユナイテッドに在籍していたことはないが、なんと小学校には在籍していたのだ)、視力検査では抜群の成績をおさめていた。どの教科も全て通知表には【もう少し】がつけられていた私も、視力検査だけは【大変よくできました】だ。右も左もA。数値でいえば、両目ともに2.0だった。
だからといって、当時の私の視力が本当に2.0だなんて思わないでいただきたい。検査の上限が2.0だっただけで、本当はもっとあった可能性もある。

検査官「これは」
私「右」
検査官「これは」
私「右」
検査官「これは」
私「右……ねえ、右ばっか出してマンネリしちゃうじゃん!」


なにこれ。急に何の会話が挿入されてんの。


「限界を超えろ」なんてフレーズを耳にすることもあるので、2.0との判定が出たあとも、ここぞとばかりに私は主張した。
検査官「はい。どちらも2.0ですね。次の方」
私「ちょっと待ったぁ!」
検査官「どうしました?」
私「……下がりな」
検査官「はい?」
私「もっと下がれって言っているのさ……。目にモノ見せてやるぜ……」
検査官「いや、見るのは君だから」
私「いいから下がりなって」
検査官「いや、下がるなら君でしょう。こっちは机やらなんやらいろいろあるんだから……」
私はしぶしぶ後退する。
検査官「もっともっと。まだ下がれる。もっともっと。はい、そこで右に曲がって。はい、靴を履き替えて。はい、さようなら」


とにかく、私は学生時代の全ての科目の中でもっとも視力検査に自信があった。視力検査に比べたら、学力検査なんて目もあてられない。(はいはい、目だけにね)

そんな私の自信が砕け散ったのは、たしか、高校入学時の視力検査だった。

右目の検査はいつも通り余裕でクリア。事態が急変したのは、左目の検査のときだ。

右目を隠した途端、「あれれれれ~? 靄がかかっちゃったよぉ? 何も見えないよぉ?」という状態だ。

検査する側や順番を待っていた同級生たちもざわつき始める。
右目のときにはすらすら答えて楽勝ムードの漂っていた私が、急に「わかりません」の一点張りなのだ。「こいつ、ふざけてるな」と思った人もいただろう。失笑が漏れ聞こえたほどだ。だがこちらとしてはもうパニック。右目を隠したまま「パニパニ、パニパニ、パニパニパニック」と言うほかに道はないではないか。

結果、私は右目2.0で左目0.1というバカみたいな検査結果を叩きだした。

そう言われて納得することもあった。
私は右投げ右打ちの内野手なのだが(私はニューヨークヤンキースに在籍していたことはなく、かつ、子どもわんぱくファイターズにも在籍していたことはないのだ。要するに野球は未経験なのだ。ついでにサッカーも未経験だ)、ピッチャーの投げるボールが全然見えないと思うことが何度かあったのだ。
公園でやる遊びの、人数合わせの接待野球だったのだが、誰が投げても魔球を投げられているかのようだった。最近の中学生はみなナックルボーラーなのかと感心したものだ。

つまり、右バッターボックスに立つと、ピッチャーが投げるボールを左目で見ることになる。私の左目は0.1。それも2.0だと本人は思い込んでいる0.1だ。ことごとく空振り三振を喫した。
いや、待て。それは視力のせいではなく、運動神経の問題ではないか? と指摘しようとしたそこのあなた。今すぐ上唇と下唇をアロンアルファでくっつけなさい。


普段の生活では、私の脳は右目で見えているものが全てだと思い込んでいたようで、不便に感じることはなかった。検査の結果を受けて、両目で見る、右目を閉じて見るを繰り返して見ると、左目の視力の悪さは明らかだった。右目をつむるかつむらないかで、見える世界がまるで違うのだ。「おぉ、カレンダーの数字すら見えない」と笑った、笑った。
いろんな位置からいろんなものを見て確認した。あれも見えない、これも見えない。ついでに自分の将来も見えない。

こんなヘンテコな目になった原因にも、実は思い当たる節があった。

いつもソファに座りながらテレビを見ていたのだが、私が座る位置からテレビは左方向にある。必ずそこに座っていた。テレビを見るときは常に首を少し左に傾け、左目ばかりを酷使していた。
多分、そのせいだと思う。
それではないとしたら、あれか?
テストでわからない問題が出たときに、まばたきを強く三回繰り返すことで、解答欄に答えが浮き上がって見えてくる妖術を身につけたときに、師匠の魔導士が説明していた副作用とやらをよく聞いていなかったからか? あれか? あれのせいなのか?


いずれにせよ、私は眼鏡をかけることとなった。
眼鏡屋さんでも軽くバカにされた。
「いやあ、左目が悪すぎるんでね、片方だけレンズが分厚くなっちゃいますよ(半笑)」

そうしてできた眼鏡を毎日かけたせいか、レンズの重みに耐えきれなくなった私の顔は、いつも少し左に傾いている。
そんなバカな。なんだこのオチ。おあとがよろしいようで。よろしくないわ。
と、二人の私がケンカを始めちゃったので、今日はここまで。

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