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二回目のワクチン接種が無事に終わったので、一応、どんなんだったかここにまとめておこう

拝啓
時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます

去る11月1日月曜日、この日は2021年が明けてちょうど305日目。灯台記念日や計量記念日といわれ、ごく一般的な文化的感覚をお持ちの方は灯台の下に集まり、頭上に両手で三角形を作り、「バッカルコーン!」や「たけのこたけのこニョッキッキ!」などと叫んでいる日に、私は灯台へも行かず、ワクチンを接種しに行ってまいりました。

この日のワクチンは二回目。一回目がよほど好評だったのか、続編が決まったというわけです。
集団接種会場だったため、ぞろぞろと行列を進みます。並んでいる間にメニューだけ先に渡されて何ラーメンを注文するか決めておきたいなと思っていたのですが、誰も私にメニュー表をくれませんでした。

予診票と接種券を提出し、受付を済ませます。
不意に、身分証の提示を求められ、私は焦ります。カードケースの中にはカードダスで当たった孫悟空のキラカードしか入っていなかったからです。係員もまさか私が孫悟空だとは信じてくれないでしょう。仕方なく、お財布の中にあった運転免許証を提出することにしました。

さらに列の先へ先へ進んで行くと、また別の係員が私の前に立ちはだかります。
「わーはっはっはっ! ここを通りたければ熱を測って行け!」と武蔵坊弁慶のような威圧感で迫ってきましたが、私は返す刀で相手を切りつけてやるなんて乱暴なことはせず、おとなしく左手を上げ、脇を差し出すことにしました。すると「おでこです」と言われました。

体温に異常はなく、次のステージへ進みます。
あれ、おかしいな、と思い、私は訊ねます。
「身長はいいんですか」
「はい?」
「身長です。ほら、背の低い子は乗れないでしょう?」
どうやらこの人、ジェットコースターと勘違いしているようです。長い行列を並んできましたから致し方ありません。

続いて問診です。
事前に記入した予診票をチェックされ、体調に問題がないか確認されます。特に調子の悪いところはありませんが、先ほどから背中がかゆいです、と伝えましたところ、それだけはご勘弁くださいと言われるかと思いきや、どうぞご自由にとのことです。

正直、こんな問診なんてノープロブレムで次の試練へ通過できるだろうと高をくくっておりましたが、どうやらここで問題が発生したようです。
「この予診票ですが……」と困ったような声音で言われてしまいます。会場内に警告音が響き渡り、赤いランプが明滅し、銃を構えた警備員が私を取り囲むという事態を一通り妄想していると、「筆跡が薄すぎて複写できていませんので、上からなぞってもいいですか」とのこと。
どうやら私にはペンを握って字を書くという力も残されていなかったようです。こんな状態でワクチンなど接種して大丈夫でしょうか。打つべきはワクチンではなく、ニンニク注射ではないでしょうか。
私の予診票をまったく別の係員が記入するというおかしなことになっていましたが、私はおとなしくただ成り行きを見守る振りをしながら「カッコウの鳴き声に『カッコー』というカタカナ文字をあてたのはいったいどこの誰だろう」という非常に生産的かつ建設的な思索を脳内で繰り広げておりました。

その後、医師の事前問診を受け、いよいよ注射ズブッです。

ワクチンの量は3mgだとおっしゃっておりました。おそらくこの日は計量記念日だったので真面目に量ってくれたのでしょう。

二回目なので戸惑うこともありません。この先の展開は前回と同様。先生が私の腕に針をぶっ射し、私は右手に隠し持っていたピコピコハンマーで先生の頭を叩くというお決まりのあれです。

ただ一つ前回と異なっていたのは、注射後、腕に痛みを残さないためには「完全脱力」が必要だという話を、向かいのホームか路地裏の窓かで聞いたので、それを試したということです。
左腕から完全に力を抜き、まるで催眠術にかけられているかのように頭がぐわんぐわんと揺れ、椅子にも座っていられなくなり、床に寝そべったところでようやく羞恥心というものを思い出し、普通に座ることにしました。

無事に接種を終え、この後気になってくるのは、株価の動向や老後の年金問題です。いえ、「です」ではございません。気になるのはそんなことではなく、副反応の有無です。
先生は妙なリアリティをもった副反応予告をしてきます。
「いいですか。二回目となると、多くの人に副反応が見られます。ええ、そうです。私にはあなたの未来が見えています。近い将来、あなたのもとへ頭痛や発熱が意気揚々とやってきます。しかし、市販の頭痛薬や解熱剤で十分に対処できることでしょう。また、年内に引っ越しや転職は控えたほうがいいでしょう。一見、優れた話に思えても必ず裏があります」
私はおとなしくお話を傾聴しました。「なるほど。手相はどうでしょう。頭脳線が極端に短いのですが……」
先生は私の手のひらを見るやいなや「バカですね」と淀んだ雲を吹き飛ばすかのような清々しい一言を授けてくださりました。
それだけにとどまらず、私の身をよっぽど案じてくださったのか、さらに踏み込んだ副反応予告を繰り広げます。
「だいたい夜の九時から翌朝にかけて発熱症状に苛まれるがいいさ」
「がいいさ!?」
「失敬。そして頭痛に加え、接種部位の痛み、全身倦怠感、全身脱毛、悪寒に下痢、関節痛や成長痛などがあなたを襲うだろうさ」
いーっひっひっひ、ざまあみやがれ、と言われなかっただけありがたいことでございます。

結果として、先生のおっしゃっていたことはズバリ的中。
私は高熱に苦しめられ、熱が下がった後も、生え際が少し後退したように感じました。

しかし、一回目と比較しても、腕の痛みは嘘のようにございませんでした。
やはり完全脱力作戦が功を奏したようです。

ただ接種部位にひっかかりがあるような、脱いだり着たりがしづらいような、妙な感覚だけが残り、おかしいなと思って、今、見てみましたところ、注射針が腕に刺さったままでございました。はい、雑なオチでございます。

敬具

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