あっちもそっちもこっちも危険がいっぱい

ただ毎日をのんびりだらりと過ごしているだけの私のようなゴキブリすら目もくれない最下層に属する堕落した最低なゴミ虫人間（我ながらひどい言われようだ）でも、日常生活の中で危険に直面することはあるだろう。
危険とはどこに潜んでいるかわからないものだ。「まさか！」というところで転んでしまったり、「またか！」と言いながら転んでしまったり、「ありえない」と思っていたら事故にあってしまったり、「こんなところに？」というところから百円玉が出てきたりする。

なので、誰しもがいつ何時も注意を怠ることなく、安全に気を配って日々の生活を送っていかなければならない。

日常に潜む危険として、もっとも注意しなければならないのは、車の運転だろう。些細な注意不足が大きな危険となってしまう。

私も含め、運転免許をお持ちの皆様は、道路を走行中、いつでも両手で印を結んだ忍者がどろんと道路上に忽然と姿を現すかもしれないと思いながらハンドルを握っているのである。
このことを「かもしれない運転」と呼ぶ。
どんな危険が起こってもいいように、「～～かもしれない」とあらかじめ危険を想定しておくことが大切だ。

私なんかはこれを徹底している。
まず、駐車場に止めてある車に乗り込むため、キーを用意したほうがいいかもしれない、と考える。
用意したキーがうまく動かないかもしれない。そうすると車に乗れないかもしれない。窓をかち割るためにハンマーを用意しておいたほうがいいかもしれない。耐久性に優れた車ならハンマーで叩いたくらいでは窓は割れないかもしれない。それならダイナマイトを用意して駐車場に向かったほうがいいかもしれない。
一歩外に出たらスナイパーが私を狙っているかもしれない。対抗できるようにこちらも拳銃やロケットランチャーを装備して出かけた方がいいかもしれない。
このまま外に出たら銃刀法違反で捕まるかもしれない。
しかたなく私は装備をといて出かけることにする。

もしかしたら今日は肌寒いかもしれない。一枚上着を羽織ったほうがいいかもしれない。
それでもまだ寒いような気がする。もしかしたらさっき装備をといたときにズボンも一緒に脱げたのかもしれない。もしかしたら最初からはいていなかったのかもしれない。

いったい何をやっているのだ。もしかしたらこのまま出かけないのかもしれない。

車に乗ってからも気は抜けない。エンジンをかけた途端、車が爆発するかもしれないし、仮に問題なく車が走り出したとしても、左折した先の道でドラゴンが口を開けて私の車を飲み込もうとしてくるかもしれない。

危険が身に迫るのは、なにも運転中に限った話ではない。
以下にいくつかのモデルケースをあげておこう。皆様の安全に寄与することを願って。

ケース①　道端でドラキュラに出くわすかもしれない

仕事に疲れた金曜の夜。普段の鬱憤を晴らすために一杯だけのつもりで居酒屋に寄る。たまたま出くわした同期の仲間と盛り上がり、気がつけば終電もない時間になっていた。
「歩いたほうが酔いもさめるさ」
そう言って歩き始めたあなたは、通りからネオンライトが少なくなっていくにつれ、背後に不気味な気配を感じるようになる。
恐る恐る振り返ってみると、なんとそこには長い牙をむき出しにしたドラキュラが。
「ぎゃあああああああ」と悲鳴をあげ、あなたはカバンからニンニクを取り出す。こんなときのためにいつでも持ち歩いておいて大正解だ。がぶがぶと生ニンニクに食らいつき、ドラキュラに向かって「はぁ～」と息を吐きかける。
するとドラキュラは顔をしかめ、言う。
「……君、胃が悪いよ。絶対。病院行ったほうがいい。うん。この臭いは胃だよ。胃が悪い人の臭いだよ」

ケース②　うっかり落とし穴に落ちてしまうかもしれない

私が子どもの頃と比べるとちょっと考えられないほどの進歩だなと思うのが、いまや小学校の授業で正しい落とし穴の掘り方や落とし穴に落ちない歩き方を徹底して指導しているというところだ。
昔は登校中に穴に落っこち、泥だらけのまま学校に来てしまうなんていうのもよく見かけるあるあるネタだった。そうやって穴に落ちて落ちて落ち続けることで、正しい歩き方というのが身についていくのだ。
今一度、基礎を確認しておこう。明日の出勤時、落とし穴に落っこちないためにも。
・なるべく道の端を歩く。（落とし穴は広いところに掘られるもの。できれば壁伝いに歩くのが一番安全だろう）
・地面の色がうっすらと変わっていたら要注意。（どんなに完璧な穴を目指しても穴と穴以外の道とでは見た目が異なる。それを見落とさないこと）
・昨日までなかった土の山があちこちにある。（雑な穴掘り業者は掘った土をその場に残していくこともある。これを見かけたときは、多少面倒に感じても迂回すべし）

いや、どこの国の誰の話、これ。
必修科目に落とし穴ある学校、卒業した人、誰。
で、ドラキュラのときのあの人、なんでカバンにニンニクいつでも入ってるの。