見出し画像

あと1cm大きいだけで

自分の感覚にジャストフィットするものというのは、そうそう巡り合えるものではない。
なにかにつけ、「あと少し小さければ収まったのに」や「もうちょっと長ければ足りたのに」や「五人乗りだったらみんなで行けたのに」や「もう少し大きければ着れたのに(この場合、もう少し自分が痩せていればという発想にはならない)」となってしまうことがもう少し少なければ良かったのに。

こんなこと、枚挙にいとまがない。

ついさっきもあまったおかずのお皿にラップをかけようとしたところ、残りわずか数センチの頼りないひらひらラップが細い縦長の箱からするりと出てきた。もう少しラップが残されていたら、お皿にぴったり足りたのに。

先日なんか、こんなこともあった。
偶然ホームセンターで見かけたタンスに一目ぼれをしてしまい、今現在、家にあるタンスとの入れ替えを検討。目測で高さや幅を確認。長年使用し、毎日開け閉めしているタンスだ。サイズは完全に理解している。店頭に並ぶNEWタンスをしげしげと観察。これなら今ある場所にぴったり収まるんじゃないかと思い、購入。
商品が家に届き、もともとあったタンスの位置に運んでみると、想定していた大きさより三十センチほど高く、横幅もかなりでかい。「もう少し小さければ良かったのに」なんていうレベルではない。まったくの別物だ。目測狂いすぎだ。なんでこんなタンス買っちゃったんだろ。ハサミを買いに文具店に行ったのに、気がついたらチェーンソーを買って帰っていたようなものだ。

他にもあとちょっと足りないなんてことはたくさんある。
コンセントが届かないなんてこともざらにあるし、自販機の下の百円玉に手が届かないなんてこともしょっちゅうだし、自販機の前に這いつくばり手を伸ばすという行為を恥ずかしいと感じるための羞恥心もあとちょっと足りていれば、公園で遊ぶ子供たちから白い目で見られることもなかったのに。

ところが、先日、見事ジャストフィットというあるものを見つけてしまった。

私には以前から一つ、悩みがあった。
それは、飼っている犬が、必ずおしっこをはみ出してしまうということだ。
小さな頃から何度教えても便器の淵におしっこを引っかけてしまい、「だから立ちションはダメなのよ。ちゃんと座ってやってもらわなきゃ」とたしなめ、水を流し忘れているときにも根気よく注意をし続け、なんと今ではウォシュレットまで使いこなせるようになりましたとさという妄想を抱いてしまうほど、我が家の犬は粗相を繰り返す。

だが、彼女の名誉のために記しておくが、決してだらしない性格なわけではない。ところかまわずジャージャージャー、おしっこばらまきジャージャージャーというわけでは決してない。
むしろ几帳面な性格なのだろうと推測される。
なぜなら、彼女はいつもトイレシートの隅を狙っておしっこをするのだ。シートのど真ん中にしてくれれば何も問題はないのだが、自らのお小水を汚物と認識しているのか、なるべく端を狙ってすることによって、結果として少しはみ出してしまうという事態に陥るわけだ。

この問題を解決してくれたのは……ある一枚のトイレシートだった……!(再現VTRのナレーション風に)

我が家のペットトイレは、真ん中をくり抜いた額縁のようなふたをトイレシートの上にかぶせることで、シートがずれたりしないようになっている。(「我が家の」とことわらなくとも、だいたいそうか。もし「我が家のペットトイレは大理石ざますよ、オホホホホ」という人がいたら今すぐこちらにお教えいただく必要など一切ございませんので、おとなしく口を閉じておいてください)

以前、使っていたレギュラータイプのシートは44cm×32cmという大きさだったのだが、先日、某有名ショッピングセンターに買い物に行ったところ、これよりわずか1cm大きい45cm×33cmのレギュラータイプが売っていた。若干とはいえ、サイズが異なるのにどちらもレギュラー。もはや何をもってレギュラーと呼ぶのかわからないが、「はい! はい! はい、はい、はい!」と叫びながら即購入。

家に帰り、ペットトイレにシートをはめる。罠をしかけ獲物を待つハンターの気持ちで、我が家の犬がトイレへ向かうのを待つ。

結論を言ってしまうと、見事、大成功。
このわずか1cmの違いで、おしっこが漏れるのを防ぐことができた。おかげで麓の村にまで洪水被害が行きわたることもなくなり、安定した野菜の栽培が可能になった。村人たちは感謝の気持ちを込め、もっとも氾濫がひどかったペットトイレの角地にトイレシートの銅像を建てることにした。あくまで原寸大の45cm×33cmの銅像を建てようとする村長と、村のシンボルとして巨大トイレシート像を建てたいという村人との間で激しい論争が繰り広げられた。そもそも原寸大にこだわるのは経費を削減し、浮いたお金であんなことやこんなことをしようと企んでいるのではないかとの指摘を受け、過去の使途不明金の追及にもあい、村長は退陣にまで追い込まれることになる。ことの経緯を詳しく知りたい方は、ペットトイレ村郷土資料館までご一報いただけると助かるのですが、そもそもそんな村はございませんのであしからず。


とにかく、わずか1cmの力に驚かされた。
本当は、他にもあと1cm大きさが変わるだけで全然違うっていうなにかについていろいろボケようと思っていたのだが、ペットトイレ村の農家さんに野菜を買いに行くという話をしていたことを思い出したので、今日はここまで。


この記事が参加している募集

#ペットとの暮らし

18,386件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?