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カワノナリタチ 6、ヤマミズノカミとハジマリノキミ (オ)

怒り心頭で、どうしてくれようと水がぬるくなる。
いや、だめだ。無駄な力を使わずここを去ることだけを考える。
再度、カワノハジマリを作るには大きな力が必要だ。
泉のふちまでハジマリノキミを迎えに行った。

キャ、ア、ア、

たすけてぇ

いたいいたいいたいいたい

耳を塞いで、小さなカミの悲鳴に目を閉じる。

カミはヨキヒトに命を奪われると転輪りんてん(再生)できる。
だが、イタミビトに命を狩られると転輪出来ない。死んでしまう。
人間が森の奥まで侵略するのは自由だ。
だけど、カミはどんどん減って、すでに空には神気が満ちていない。
運良く転輪できたにしても、それだけ時間がかかる。
すでにイタミビトの多いこの世界は、僕らには住みにくくなっていた。

「ハジマリノキミ!ハジマリノキミ!早く!早く!」

声を上げて呼んだ。
呼び合うと、彼はすぐに近くに来る。

「ヤマミズノカミ!」

声がして、ホッと胸をなで下ろした。
姿が見えて、苦笑して互いに手を伸ばす。
触れたらすぐに取り込もう。
それは一瞬で終わる。

互いに手を伸ばし、
指先が触れようとした瞬間だった。

ド、ザーーンッ!

突然、ハジマリノキミの上に、大きなイシが落ちてきた。
キミの姿がイシに消え、僕は起きた波にはね除けられた。

「キミ!キミーー!!ハジマリノキミーーー!!」

必死で呼んで、呼んで、呼んで、

「ハジマリノキミー!ハジマリノキミーーー!!

ハレニギノハジマリノキミーーー!!」

呼んで、呼んで、呼んで、

「僕はここだよ! 僕は! 僕は……
僕の 僕の、大切な、 ハジマリノキミ…… 」

泣きながら呼んで、呼んで、呼んで、呼んだ。

イタミビトが石を積み重ね、石の向こうに土をかぶせる。
それは、ハジマリノカワを埋める行為だった。

「やめて、やめて!やめてくれ!
やめてーーー!!」

耳をつんざく悲鳴が上がる。
形容しがたい沢山の悲鳴が僕の身体をグサグサとつらぬいて、僕はそれで死んでしまうのでは無いかと思うほどだった。

「助けて、誰か、助けて、
ヤマノカミ、ヤマノカミ、
僕の、ハジマリノキミが、
ああ、僕の大切な、キミが、
ハジマリノキミが埋められてしまう、
ハジマリノキミが、死んでしまう……」

タキのように涙があふれ、悲しい水が泉を青く青く透き通った色に染める。
死んで行くカミたちの悲鳴と怨嗟の声の中、何度呼んでもハジマリノキミの優しい声も、美しい姿もそこには現れなかった。
イタミビトたちは、ハジマリノカワをどんどん埋めて、踏み固めていく。
全てが埋められたとき、あたりはイタミビトの声と笑い声が響き、カミたちの声は不思議なほどに静かになった。

手を伸ばしてもキミの姿は無く、声も返ってこない。

ハジマリノカワへの流れが断たれ、僕は呆然とイシを見上げた。

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