#6 銀河の犬と水玉~曼珠沙華の伝言~
第3章 少女L
女の子
初めての女の子は興味深い行動が多い。
人間同様、幼い頃から「女」なのである。
ジュビ子は、何か思い通りにいかなかったり、嫌なことをされた時は……
例えば散歩をねだったのにアスファルトがまだ熱いからと連れて行って貰えなかった時
もっと遊びたいのに「今日はこれでおしまい」と遊んでくれなかった時
狙った獲物(追いかけた虫)に逃げられた時
甘えてみたのに忙しく構ってもらえなかった時
などなどはスタスタと近くに寄ってきて、目の前でクルっと背中を向けて丸まって不貞寝してみせるのだった。
話しかけたり撫でようとしてももう遅いのだった。時には唸ってその手を退けるのだ。
それでいて「私、怒ってます」アピールはしたいのだ。
放置されたら更に機嫌が悪くなるのだ。
「どうしたの?」と声をかけても「フンっ!」と顔を背けるのだ。
時には鼻息で「フンっ」と鳴らすのだ。
まだこんなにも小さいのに、しっかりと女なんだなぁ…と思ったものだった。
そして表情がコロコロ変わる所も。
人の会話をよく聞いている所も。
言葉を覚えるのが早いところも。
11個の言葉
散歩をしていてすれ違ったオジサンに話しかけられた事がある。
「犬は11個の言葉を覚えられるんだよ」
11個……飼い主の名前も含めてだろうか?
①ごはん
②さんぽ
③おやつ
④かわいい
⑤おりこう
⑥おはよう
⑦おやすみ
⑧お家
⑨ブーブ(車)
⑩行ってきます
⑪ただいま
こんな所だろうか……
近所のアイドル、ジュビ子
私は人嫌いであまり人とは関わらない方であったが、お散歩をしているとやたらと声をかけられた。
ジュビ子がいると不思議と知らない人でも会話が出来た。
ジュビ子は近所のアイドルだったので、たちまち色んな人がジュビ子に会いに来たのだった。
ジュビ子の基準は不思議なことに、犬好きとか関係なく、素っ気ない態度を貫く人と、寄っていく人と、吠える人と、無反応な人と、様々な対応だった。
全体的にはビビりで人見知りなので、すぐに触らせる事も寄り付く事も滅多になかった。
珍しく触らせてる人がいるな、と思って聞いてみると、毎日家の前を通る時に話しかけているので、やっと寄ってきてくれるようになった。
と言う声や、飼い主さんが一緒にお庭にいる時は寄ってきてくれるけど、わんちゃん一人の時は知らんぷりされちゃうの。という声も聞いた。
お散歩の犬に対しても、追いかけていって吠えまくる犬と、全く無視な犬と、本当に珍しく尻尾を振って近づいて行く犬と、様々だった。
犬の世界にもいけ好かないヤツってのはいるのだろうし、馬が合わないヤツもいるのだろう。
ご近所のSさんは、人見知りなジュビ子がかわいいと絶賛してくれていた。
御家族にもお話しているとの事だった。
簡単になびかないジュビ子が、少しでも寄ってきてくれたらとても嬉しくて、誰にでも愛想を振り撒いたり媚びたりしない所がいいのよ。 そこが大好きなの。と言っていた。
でもSさんも「ジュピ」と呼んでいた。
「ぴ」と発音する、ぴ族の一人だった。
バリの女神から聞くメッセージ
名前に関しては、人間でも名前によって体が弱くなるとか、こういうタイプになる、というような迷信めいたものが囁かれているが、犬はどうなのだろう?
単なる占いではなく、なんだか知らないがものすごく凄そうな人にみてもらおう、と決めた。
それは東京のとある場所のバラ園に住む「バリで女神をしていた人」だった。
そこだけ聞くと胡散臭いだろうか?
「は?」と言われそうだが、それ以上でもそれ以下でもなく、バリで女神をしていた人、今はバラ園に住む魔女とも言われていた。
前世の繋がりや守護霊がわかります、という能力のある方だった。
数万円で予約を取り、私が聞きたかった事とは
「犬の名前はジュビアでいいのか本人に確認して欲しい」
それがメインだった。
本人はなんて呼ばれたいのだろうか?好きな名前があるのだろうか?
「名前に関しては特に不満もないみたい。ジュビアでいいみたいよ。」
ほっとしていると
「そんな事よりあなた、守護霊が大変だって言ってるわよ。」と、そこから家の事情を話す事となった。
浄化
私の家の前の道を挟んだ奥にはお墓があった。
そして徒歩5分で行ける小学校は、昔、防空壕だった所を体育館にしたという噂があり、「七不思議」が存在していた。
土地柄的に、近所の住所も練兵場のような場所であったりして、昔から何かと霊障が起きていた。
そして、占い関係の人にはいつも何も言っていないのに、父方の実家の住所を当てられて、漢字が読めない為に「こう書く漢字はなんて言うの?なんなの?」と聞かれて、「父方の実家の地名です」と答えると「その文字が浮かんできて苦しい」と言われる事が何度もあった。
一度はその地名を口にしただけで咳と涙が止まらなくなり、「ものすごい嫌な空気よ、私嫌だったのよ、この文字を口にするの」と泣きながら教えてくれた水晶占いの先生もいた。
不思議な体験や怖い体験も家の中でも何度も起こっていた。
ジュビ子が来てからずっと雨が降っていた訳を初めて聞かされた。
「この子がね、土地を浄化してくれてるわ。浄化の雨を降らせてくれてるんだけどね。まあ、相当酷いから何週間もかかったでしょう」と笑われたのだった。
そしてお墓から来る蛇もジュビ子が怖いもの知らずで玩具にして口にくわえて振り回して遊んでいた。
ドブネズミも出ていたがジュビ子が追いかけるようになり、いつしか蛇もドブネズミも来なくなった。
そしていつの間にか霊障も起きなくなっていた。
ジュビ子が永眠して一ヶ月。
月命日に、私は久しぶりに庭に出た。
ジュビ子が良く居た場所にお線香をあげた。
いつもは家の仏壇であげているのだが、この日は朝からトイプードルの高い声でわんわんと鳴いてるのが聞こえた。
いつも散歩をする時にジュビ子に吠えてくるわんちゃんの声だった。
ジュビ子がいる!!
私は階段を急いで降りて外に出たけれど、ジュビ子は居なかった。
庭で様子を見ていた父親が、トイプードルが、ジュビ子に「出てこい」って門によりかかって吠えていた、と言った。
いつもの玄関にいるのだ。
ジュビ子がそこに見えたから吠えたんだ。
ジュビ子がそこにいるなら、ご飯はそこにあげないと……そう思って、玄関でもお線香を焚いたのだ。
それから最後に倒れていた場所を見に行くと、もう曼珠沙華は咲いてなかったが、その近くに黄色の実がなっている木があった。
そんな木があった事すら知らなかった。
私は庭に何の興味もなかったのだ。
家に入り、その木が何かと聞いてみると、柚子だった。
木が育ってから20年も実がならなかったのに急にいつの間にか実がなるようになったんだと言っていた。
それも、ジュビ子が浄化をしてくれたからだろうか。
この土地を、再生してくれたのだろうか。
その時、ジュビ子がこの家にしてくれた大きな力を改めて知るのだった。
ずっとずっと、守ってくれていたのだ。
そして女神が言っていた事を後から思い出した。
守護
朝からジュビ子が変なポーズをして気を引いてる時があった。
「どうしたの?何やってるの?」
見たことも無いビックリするような、仰向けで何か踊りを踊ってるようなポーズをしてはリードが脚に絡まり、そのまま立ち上がったら危ないので、もう出勤の時間なのに…と思いながらも、可愛すぎて離れられない!このまま休んでしまいたい!とリードの絡まりを外しながらナデナデしていたら完全にいつものバスに乗り遅れたのだった。
その5分か10分後にもバスは来るのだが、その一本の差で降車してからダッシュをしないと遅刻になるのだった。
ジュビ子が可愛かったから仕方ない。
今日は朝からダッシュするか。
そうしてダッシュにより何とか遅刻を免れた私が会社に着くと
「良かった!!いつものバスに乗らなかったの?」
と声をかけられた。
いつものバスには近所の先輩が前のバス停から乗ってきており、朝は一緒になる事が多いので、乗ってこない=遅刻か?と直ぐにバレてしまうのであった。
「ちょっと犬を撫でてたら乗り遅れまして……」と答えると
「そのバス、事故にあったんだよ!Fさんから連絡あって、とりあえず病院に行くって。首がむち打ちみたいになったみたいで…」と言われ、そのニュースはテレビでも大きく取り上げられていて、大通りで事故にあい、衝撃で乗客の何人かが軽傷だと。
バスはそのままで乗客を降ろして移動となっていた。
いつもなら私が乗っていたバス。
あの時ジュビ子が仰向けのタコ踊りみたいな事をしなければ私も乗っていた。
後にFさんは首にカラーをして出勤してきた。
そしてジュビ子のパワーはそれだけに留まらず、家族間の空気をも調和して浄化してくれていたのだった。
外飼いから室内犬へ
父親が定年退職して家にいるようになるまで、ジュビ子は父には懐かなかった。
「帰ってきても尻尾も振らねぇ!」
と父が可愛くないと言っていたので、私はジュビ子にお願いしてみた。
父親と仲良くなってね。そうしたらお家に入れていいって言うかもしれないよ。
ジュビ子が初めて室内に上がったのは、ワクチンが合わなかったのか打たれて家に帰る途中から様子がおかしくなり、ぐったりして吐きたそうにしているので動物病院へ電話してもテープが流れており、緊急の連絡先だと渡された番号は何度かけても違う家にかかり、私が慌てて番号を間違えているのでは?と何度も慎重に確認してかけ直したがその全部が同じ人にかかり、かなり怒られてしまった。
急いで病院に戻りドアを叩いてももう閉まっていて開けてくれず、電話も繋がらず、初めて家の廊下に毛布を敷いて、寝かせたのだった。
それから具合が良くなるまで家にあげていたのだ。
これを機に病院を変えたらとても良い獣医さんに巡り会える事となった。
初めは茶の間には絶対入れるな、ご飯を食べる所だから。と断固、入室を許してくれなかったものの、ジュビ子は父親に尻尾を振るようになり近づくようになった頃、父親が定年退職でずっと家にいるようになったので、ジュビ子は昼寝の時間も一緒にベッタリしたまま動かずにいてくれる父親とすぐに仲良くなり、今までは私の横で寝ていたのに、私は会社から帰ってきてもご飯やお風呂ですぐに動くからゆっくりベッタリできる父親の傍ばかり行くようになっていた。
そしてあっという間に父はジュビ子と仲良くなっていた。
そしてもちろん、家の中がジュビ子の居場所となっていた。
会話もなかった家族の間に、昼間ジュビ子が何をしていたとか、ジュビ子に会いに誰が来たとか、どこのわんちゃんと仲が良いとか、ジュビ子の話だけで会話をするようになり、私は二階の自分の部屋にこもりきりだったのに、ジュビ子のいる茶の間に長い時間居ようと務めた。
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