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『海がきこえる』

先日、渋谷のBunkamuraで『海がきこえる』を視聴した。ジブリ作品の1つとしてタイトルを聞いた事はあったが、視聴するのは初めてだった。 

作家・氷室冴子の原作小説を1993年にジブリの若手スタッフが映画化した作品。大学生になった主人公杜崎拓による、高校生時代に出会った武藤里伽子と思い出の回想を中心に物語は進む。

Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下



映画館で観ていて、90年代の景色・雰囲気が色鮮やかに切り取られているように強く感じた。実際には自分が過ごした年代とは異なるが、所々に描かれる東京の街並みが小さい頃に自分が見ていた景色と重なったことで当時の情景が目に浮かび、懐かしい気分になった。

登場人物も本作品の魅力を押し上げている。
拓と友人の松野の友情は厚く、松野が里伽子のことを気になっていると知った時の「女なんかにお前の良さは分かりゃせん」という拓のセリフはお気に入りだ。

里伽子の気性の荒さは、現実にいたら仲良くはなれない気もするが、その原因は可哀想だとは思う。高知にも東京にも自分の居場所がなくなってしまい、『ハムレット』で云う「世の中の関節が外れた」状態のようで、誰しもそのような時は余裕がないものである。自分の中で折り合いがついたのか、大学生になった里伽子は、もう大人になっていた。

一番驚いたシーンは、拓が里伽子に着いて東京まで行ってしまうシーンだった。自分だったら飛行機はおろか、新幹線でも着いて行く勇気が湧かなかったであろう。
ボーイミーツガール作品では往々にして、「外の世界」から来た少女の影響で、少年が通常なら出来ないであろう行動を取ることがある。本作品は「東京」という外の世界から来た里伽子の存在があった。
お気に入りのボーイミーツガール小説『さよなら妖精』(米澤穂信)には、「ユーゴスラビア」という外の世界から来た少女に影響を受け、同じく男子高校生の主人公が行動を起こそうとする場面がある。こちらは高知-東京間よりも距離が遠く、紛争地帯ということもあり少女に窘められてしまうのだが、本作品との共通点も多く、視聴中に想起された。

ChilledCow(現Lofi Girl)が『耳をすませば』のワンシーンを引用していたのは有名だが、改めて検索してみるとLo-Fiやchill Hip-Hopのアートワークに本作品も多く使用されていた。国内での知名度は他のジブリ作品よりも劣るが、海外にはそのような作品も見つけ出す人がいるのだと感性の高さに驚いた。

視聴した直後に、ひょんなことから高校の部活の仲間と同窓会を行うことになった。せっかくの機会だから、高校生時代の思い出に浸りたい。


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