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リビングラボの実践ガイドツールを深掘りしてみる

リビングラボの実践ガイドツールのあるべき姿とは?

ここ最近、日本国内において、リビングラボを立ち上げようとする動きが増えているように思います。ただ、リビングラボは非常に広い意味やアプローチを含む曖昧なコンセプトなので、いざ、「リビングラボを始めよう!」と思い立っても、何をしたらいいのかか明確にならず、モヤモヤと悩んでしまう人も少なくないかもしれません。(実際、ここ最近、そういった類のご相談がすごく増えています。)
そこで今回は、リビングラボの立ち上げや実践を支援するための「実践ガイドツール」のあるべき姿について考えてみたいと思います。

既存の実践ガイドツールのマッピング

私は、2018年(前職時代)に、LLLのメンバーでもある安岡さんと一緒に「リビングラボの手引き(Living Lab Pracrice Book)」を作成しました。これは、リビングラボの実践者との対話の中から抽出した30の「コツ」を、パターンとして記述したもので、リビングラボの実践ガイドツールのひとつの形態だと言えます。
ただ、我々が過去に作成したツール以外にも、様々な形態やフォーカスのガイドツールがあるはず…。ということで、まずは、国内外でこれまでに開発されている「実践ガイドツール」にはどのようなものがあるかを、幅広く調査してみました。

調査結果のひとつとして、既存の実践ガイドツールをマッピングしてみました。その結果を、図1に示します。
このマップの縦軸は、ツールが提供する知識の「抽象度」を表しています。上の方は「全体的」で、リビングラボの実践の原則(Principle)や大まかなアプローチなど、リビングラボ実践の全体について言及しているものがマッピングされます。下の方には、リビングラボを実践する際に用いる共創手法やワークショッププログラムなど、「具体的」な知見を提供するものがマッピングされます。
マップの横軸は、ツールが提供する知識の「分野依存性」を表しています。左には、〇〇分野のリビングラボ実践を支援するツールなどといったような、「分野特化型」のツールがマッピングされます。一方、右側には、特定の分野に依存しない(=様々な分野のリビングラボの幅広く活用することを目的に開発された)、いわば「汎用的」なツールがマッピングされます。

図1:リビングラボの実践ガイドツールのマップ

以下では、このマップの4つの象限のそれぞれに対して、どんな既存ツールがあったかを簡単に紹介します。なお、本記事は、これまでに開発されている実践ガイドツールの一部を紹介するものであり、全てのツールを網羅的に取り上げているものではありません。その点、ご注意ください。

①右上:汎用的×全体的

「汎用的」かつ「全体的」なガイドツールがマッピングされている領域です。海外のものを2つ、国内のものを3つ紹介します。

1-1) GUIDELINES FOR LIVING LABS IN CLIMATE SERVICES
プロジェクトを通じてわかった、リビングラボを進めるためのポイントをガイドラインとして記述。網羅的な観点というよりも、特に重要なリコメンデーションをまとめている。

1-2) The LL Methodology Handbook (FormIT)
5つのフェーズ(Planning、Concept design、Prototype design、Innovation design、Commercialization)から成るリビングラボの典型プロセスを説明。各フェーズに対して、推進者/デザイナが考慮すべきことが、チェックリスト形式で掲載されている。

1-3) リビングラボ導入ガイドブック
METIによる委託調査事業で作成されたガイドブック。リビングラボの概念を大まかに説明するとと共に、立ち上げの際のステップを掲載。国内の事例調査にもとづき、リビングラボ実践の際の障壁などに対するTipsも紹介。

1-4) 日野リビングラボガイド
リビングラボの基本的な進め方や参加にあたっての注意点や心構えを説明。参加する市民や企業にとっての価値(参加のメリット)についても記載している。

1-5) リビングラボの手引き(Practice book)
リビングラボ実践のための「パターンランゲージ」。日本と北欧のリビングラボ実践者から抽出したノウハウを、30個のコツにまとめ、イラストと共に構造的に記載。

②右下:汎用的×具体的


「汎用的」かつ「具体的」なガイドツールがマッピングされている領域です。海外のものを2つ紹介します。

2-1) UNaLab Toolkit for Co-creation
Need findings、Ideation、Strategy、Experimentation、Feedbackという5つのカテゴリにおける各種手法(ワークショップ手法やデザインゲーム手法など)を紹介。各手法は、フォーマット、時間、参加者数などで分類されており、検索しやすくなっている。

2-2) SISCODE Toolbox for Co-creation Journeys
Analyze the context、Reframe the problem、Envision alternatives、Prototype and experimentの4つのフェーズにおける検討を行うためのワークシートを提供。印刷すれば、そのままワークショップやミーティングで活用できる形式で整理されている。

③左上:分野特化型×全体的

「分野特化型」かつ「全体的」なガイドツールがマッピングされている領域です。海外のものを2つ紹介します。

3/4-1) LL Methodology Handbook (U4IoT)
IoTサービスに特化したリビングラボのプロセス(IoT Concept Phase→IoT service prototype phase→IoT innovation phase)を解説。複数の事例も紹介。

3-2) LL Handbook for NBS-ULL
Urban Living Labの実践という文脈における、市民のエンゲージメント向上、リビングラボの立ち上げ方、直面しやすい障壁(落とし穴)など、実践者向けの情報を整理して掲載。

④左下:分野特化型×具体的

「分野特化型」かつ「具体的」なガイドツールがマッピングされている領域です。海外のものを1つ紹介しますが、[C]で紹介したツールと同一のものです。

3/4-1) LL Methodology Handbook
上記のように、IoTサービスに特化したリビングラボのプロセスを解説しているが、全体的なプロセスモデルに加えて、プロジェクトを通じて開発した様々な具体ツール/フレームワークも紹介。

実践ガイドツールを調査してみて

このように、リビングラボの立ち上げや実践を支援するための「実践ガイドツール」には様々な形態・粒度のものがあることが分かりました。日野リビングラボガイド(1-4)のように、リビングラボに参加する際の「心構え」を伝えるものもあれば、SISCODE Toolbox for Co-creation Journeys(2-2)のように、印刷すればそのままワークショップで利用できるような実践的なツールもありました。
リビングラボは、生活者や地域との関係性の中で成り立つデザインアプローチであり、そのやり方(プロセス)の全てをきれいに言語化できるわけではありません。ただ、だからと言って、実践のための知見の言語化や構造化、整理を完全に諦めてしまうのは、もったいなすぎます。とても労力はかかりますが、プロジェクトから得られた知見を整理して他の実践者や研究者に向けて共有することで、少しずつでも(社会全体として)知見の蓄積やアップデートを行っていくことが重要です。
その意味で、今回の記事で紹介した各種ツールは、先人たちがリビングラボ実践のための知見を整理・構造化してきた結果であり、重要な成果です。

我々は、こういった既存のツールも参考にしながらも、『日本におけるリビングラボの活用や発展という文脈において、様々な実践者/運営者を支援するために、特にどういった形式のツールを開発していけばいいのか?』ということを考えていきながら、日本におけるリビングラボアプローチの活用をさらに一歩進めるための支援ツールを考えていきたいと思います。そのための取り組みはいくつか行っているので、次回以降の記事で紹介したいと思います。

Author: Fumiya Akasaka (AIST)


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