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印度唐辛子紀行

こんにちは!鰤子です~!

 気づけばお盆!信州はここからどんどん涼しくなっていって、残暑も何もなくあっという間に上着を着る季節に…。残暑が厳しい西日本が懐かしいですね!
 日本では唐辛子はあまり人気がないのかと思いきや、信州では唐辛子味噌があったり、一部地域では地味に生活に溶け込んでいたりもします。しかし大多数の日本人にとってはあまり馴染みがないものなので、したがって取扱いに関してもネイティブ的な感覚を持ち合わせてはいません。インド料理でもその他エスニック料理と呼ばれる類の料理でも唐辛子はよく使う印象ですが、果たして現地人はどういうノリで唐辛子と付き合っているのでしょうか~!今回はインド料理での唐辛子についでです!ほいじゃまずは歴史から~


唐辛子の歴史

 唐辛子がインドに伝わった正確な時期は人によって言うことが若干違うのですが、16世紀のいずれかのタイミングでポルトガルからインドに伝えられました。ただ唐辛子が最初に到着した場所に関しては、ゴアであるともケララ州のコーリコードであるとも言われており、それから400年以上経った今となってはどの説が正しいとも言いづらい状況ではあります。しかし唐辛子をインドに持ち込んだのはトマトと同じくポルトガルであるということは確かなので、であれば唐辛子はトマトと同じ時期にゴアに持ち込まれたのではないかと思ってしまいますね。ただ、ややこしいことにバスコ・ダ・ガマが初めてインドに上陸したというその場所は、コーリコードという記録があるそうで、そのときには彼らは手ぶらだったのでしょうか…それとも唐辛子をそのときにインドに持ち込んだのでしょうか。そこが確定的ではないために、インドに唐辛子が伝わった時期と場所が諸説あるような状態になっているようです。また、あまり注目されていない食材たちですがパパイヤ、パイナップル、ピーナッツも全て同時期に中南米からポルトガルによってインドにもたらされたのだそうです。

品種

 唐辛子は世界中で400種を超える品種が栽培されているそうです。インド国内だけでも、正確な数は分かりませんが相当な種類の品種が栽培されていて、カシミールのカシミールチリやパンジャブのパンジャブチリなど特定の地域独自の品種も多数存在しています。またインド国内に存在する唐辛子の品種を数えようとしたときにややこしいのは、例えばカシミールチリのように、カシミールのカシミールチリとゴアなどの西および南インド各州で手に入るカシミールチリのように、同じ名前でも実質は違う品種と言わざるを得ないほど、同じ名前で違うものがあったりするところです。元は同じ種から育った唐辛子だったのかも知れませんが、何代も何代も時間を重ねるうちにお互いに違ってきたのかも知れません。というわけですので、インド国内にどれほどの数の唐辛子の品種が存在しているのか、正確な品種の数を数えることは難しい、というかむしろ数を数えようとすること自体には意味がないことなのかもしません。
 余談ですが、インド国内でも自分が住んでいる地域から遠方の地方の固有品種の唐辛子を手に入れるのは簡単ではないそうで、料理好きな人は人脈やネットをフル活用して自分が欲しい唐辛子を頑張って取り寄せて手に入れて、料理を作るのだそうです(*インド料理の中には使用する唐辛子の品種が指定されているものもあります。それくらい唐辛子と一口に言っても味も辛みも香りも、使ったときの色味も違うんですね)。しかしなんでインドにそんなに色んな種類の唐辛子が存在しているのかと疑問に思うところでもありますが、唐辛子のふるさとの中南米でも相当な種類の唐辛子がもともと存在しているので、それこそ色々な品種の唐辛子の種が、当初よりポルトガルによってもたらされていたのかもしれません。

唐辛子の利用方法

 ここからこの記事ではインド料理と、インド料理の中の東インド料理と密接な関係にあるダッカ以西のバングラ料理(以下、簡単にバングラ料理と書きます!)での緑唐辛子と赤唐辛子の使用について書いていきます!

 これらの料理では唐辛子は実の部分を主に料理に使用します。唐辛子の実は最初はどれも緑色をしていますが、その多くは熟していくと真っ赤な色に変色していき、南アジアでは未熟な状態の緑唐辛子と完熟した赤唐辛子の二つを使い分けます。

 というわけで!ここから本題なのですが、インドとバングラでの唐辛子の使い方は以下のようにまとめることができます。

○緑唐辛子→生のまま使う
○赤唐辛子→乾燥させて鞘のまま、もしくは粉末などに加工して使う(*赤唐辛子は生の状態で使うことはほぼありません!)

 パッと見た感じは超簡単ですね!しかしなぜインドでは、緑唐辛子は生で使って、赤唐辛子は乾燥させてそのままもしくは粉末の状態で使うということで唐辛子の利用方法が定着したのか、それが実はよく分からないのです。グリーンチリはほっとくと赤くなってしまうので、これを緑の状態のままパウダーに加工することは容易ではありませんから、グリーンチリパウダーが流行らないことは分かるのですが…。
 実際のところ、インドで生の赤唐辛子を使うのはあったとしても南インドの地方料理であるかないかレベルの珍しさなので、基本的に生の赤唐辛子はインドでは使わないないものと考えていただいて構いません。ただここでインド料理に”絶対ないとかそういうのは言い切れない”とか言い始めると話が前に進まないので、「ない」として話を進めていきますね!いくらカオスなインドの料理でも、あるとかないとか、言いきれることは言い切れます!現代のアレンジレシピで生の赤唐辛子が登場することはあるでしょうけど。バングラ料理に関しては、ダッカ以西の料理はインド料理と共通点が多いため唐辛子の使い方は基本的にはインド料理に準ずると考えてもらえれば大丈夫で、バングラ北部、東部、南東部の料理はかなり東南アジア食が出てくるため、生の赤唐辛子の出番もきっとあることと想像します。また、ダッカも東南アジアと南アジアの境目に位置しているような場所にあるので、ダッカやその周辺では料理に生の赤唐辛子が使われることも普通にあると思います。バングラ料理に関してはまたそのうちフィールドワークに行ってきちんと調べてきて記事にまとめますね!
 ちなみにこれも余談ですが、インドネシアはインドとは真逆で、フレッシュの緑唐辛子も使いますが、炒め物にも煮込みにも、より頻度よくたくさん使うのはフレッシュの赤唐辛子なのです。

ゴアの個人商店
ゴア料理に使う食材が一手に並びます。右手前がタマリンド、その奥に
乾燥のカシミールチリ。他にもブラチャン、ジャガリーなどほぼ何でも揃います。
このように赤唐辛子は必ず乾燥させて使います。
グリーンチリはフレッシュのものが出回ります。
こういう市場にはフレッシュの赤唐辛子は出回りません。
インド、ではなくインドネシアの市場
手前は乾燥赤唐辛子。
奥に辛い品種の唐辛子で、これは両方混ぜて臼ですりつぶして使うもの。
左奥はインドネシアで人気の辛さ控えめフレッシュ赤唐辛子。色々な料理に使います。
ぴょろーん。
インドネシアで人気の唐辛子の一つ、Cabe Merah Kritingという品種です。
*Cabe Merah=赤唐辛子

 もしかしてインド料理でグリーンチリが使われるようになったのは割りと最近で、ほっとくと赤くなる唐辛子を赤くなったら乾燥させてると軽くなって持ち運びも簡単にできるし日持ちもするし加工もしやすいしという理由で、先に乾燥赤唐辛子の利用がインドでは広まったとか、そういうことなのかも知れませんね。私が以前知り合いのインド人シェフになぜインドでフレッシュのレッドチリは使わないのか、と聞いたところ「グリーンチリの方が体に良いから」という驚きの返しが来ました。ただ、唐辛子は緑から赤に熟すときと、赤をフレッシュから乾燥させるときに栄養成分に相当な変化が起きるようですね。しかしグリーンチリのほうが体にいいのかどうかは私はなんとも言えません…。栄養学とかそういうに専門的な知識がある方にはどう見えるのか分かりませんが。聞いた話ですが、例えばピーマン!熟した赤の方が栄養成分が豊富で、むしろ緑には含まれない栄養素があるとか言いますね!
 
 さて、ここからさらに詳しい唐辛子の話に入っていくのですが、ここで!これ以降は生の緑唐辛子はグリーンチリ、乾燥させた赤唐辛子はレッドチリ、それを粉末に加工したものをチリパウダーと表記することとしますね!ちなみに現地人の書いたヒンディー語レシピを見ると、グリーンチリはHari Mirchと表記されることが多く、特にフレッシュかどうかには言及されないことが多く(英語レシピではFresh Green Chiliと書かれることも多いです。)、グリーンチリと言えばフレッシュというのが少なくともヒンディー語圏では共通認識として持たれているようです。対してレッドチリの場合はLaal MirchもしくはSukhi Laal Mirch(Sukhi-乾燥した/させた)とどちらの表記も見つけることができます。ちなみにLaal Mirchとしか書かれていない場合でもフレッシュのレッドチリが使用されることはなく、一貫して乾燥させたレッドチリです。また英語表記の場合はDried Red ChiliもしくはDried Whole Chiliと書かれる場合がほとんどです。ここからはまずレッドチリの使い方を説明してレシピを紹介して、次にグリーンチリの使い方を説明してレシピを紹介して、の流れでいきます!

レッドチリの使い方

 インド料理とバングラ料理ではレッドチリの使い方は以下の5通りがあります。

①パウダー状に加工してチリパウダーにする
②鞘のままテンパリングに使う
③油で全体が黒くなるまで揚げてフライドチリにする
④フライドチリを手でほぐしフライドチリフレークにする
⑤真っ黒に燃やして炭にして手でほぐし、アチャールなどの香付けに使う

 地域差もありますが上記の中では①から⑤の順に、よく見る使われ方と言えそうです。乾燥レッドチリをそのままフレーク状に加工するドライドチリフレークも無いわけではないですが、あまり目にする使い方ではありません。またベンガル料理やバングラ料理ではチリパウダーの代わりに④のフライドチリフレークを使用する料理もあります。ちなみにフライドチリ自体が東インドやバングラで人気の使い方のようで、これもその正確な理由は分かりませんが、特にバングラではモンスーンの時期に湿気が問題となりやすいことが関係あるかも知れません。鷹の爪のように乾燥させた状態のものでも、日本の梅雨よりもずっと雨が降って湿気が多いような気候が続くので、乾燥レッドチリでも保存の場所や保存の仕方によっては湿気てカビが生えたり虫が付いたりしやすいんですね。そのため、既に乾燥させてあるレッドチリでも、それを更に油で揚げることでさらに保存性が高まる、もしくは保存性が問題となりやすい場所で保管されている可能性があるものに対して殺菌や消毒、殺虫の意味合いを持たせている可能性があります。

レシピ

 ここではレッドチリの②~⑤の使い方についてレシピを紹介していきます。

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