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初美術館詣:【ヴァロットン−黒と白 展】限られた表現の中で浮き彫りになるもの

1月2日、今年は思い付いたことを片っ端から実行する年にしたいと、年始早々、寒さで縮こまる自分を奮い立てて、美術館に行ってきた。
訪問したのは、三菱一号館美術館の「ヴァロットン−黒と白 展」。令和5年の「初美術館詣」である。


展示会概要(公式サイトより抜粋)=======

2022年10月29日(土)〜2023年1月29日(日)
三菱一号館美術館

19 世紀末のパリで活躍したナビ派の画家フェリックス・ヴァロットン(1865 - 1925)は、黒一色の革新的 な木版画で名声を得ました。独特の視点と多様な表現、そして卓越したデザインセンスをもつヴァロットン 作品は、まるで解けない謎のように今でも私たちを魅了してやみません。中でも真骨頂ともいえるのが、木 版画です。 三菱一号館美術館は、世界有数のヴァロットン版画コレクションを誇ります。希少性の高い連作〈アンティ ミテ〉〈楽器〉〈万国博覧会〉〈これが戦争だ!〉の揃いのほか、約 180 点のコレクションを一挙初公開し ます。黒と白のみで作り出された世界に焦点をあて、未だ捉えきることができないヴァロットンの魅力に迫 ります。また、当館と 2009 年より姉妹館提携を行うトゥールーズ=ロートレック美術館開館 100 周年を記念 した、ロートレックとの特別関連展示も併せてお楽しみください。



西洋の版画の世界

版画の世界にも、木版画からドライポイントやエッチング、リトグラフなど、手法が様々あって、出せる線もそれぞれ異なる。ミュシャの有名なポスターはリトグラフらしい、など今回初めて知ることも多かった。
浮世絵やミュシャの絵画のような、多色刷りもある版画の世界の中で、今回の展示のほとんどは展示名にもあるように「黒と白」の単色木版画に縛られている。木版画は、木に絵を彫り、インクを塗ってスタンプのように紙に写す、いわゆる「版画」の手法で、他の手法に比べ線が太く、少ない線で単純化された作品も多い。雑誌の挿絵を中心としたモノクロの仕事が多かったためか、モノクロの世界でできる表現を模索したが故に磨かれたのであろう表現力の幅広さが全展示を通して興味深かった。


“彫り出されたのは、人間のドラマ”

今回の展示の副題である「彫り出されたのは、人間のドラマ」の通り、風刺画や街の人々の様子を描いた風俗画がテーマごとに多く展示されていた。人の様子を漫画の一コマのように描き出したり、人間関係のストーリーを想像を掻き立てられたりと見入ってしまう。同時期に同様のモチーフを彫り出したロートレック作品との比較展示も含め、全展示を見た彼の印象は、「人間不信のひねくれ者」だった。常に少し離れた目線で、他人をあくまで他人として淡々と、ニヒルに描いている。まるで、「誰も信用できない、人間は嫌いだ」というようだが、その観察眼はとても的確で、一歩引いて斜に構えて世の中を見つめていたからこその距離感が、風刺としてはちょうどよく、人々に支持されたのかもしれない。
それらの人間の業を描いた作品は一つに選べないくらい深いメッセージ性の込められていて、「アンティミテ」シリーズと「コレが戦争だ!」のシリーズは、その真骨頂と感じた。

アンティミテシリーズで一番目を引いた《お金(アンティミテ Ⅴ)》。
画面の 3 分の 2 が真っ黒という思い切ったレイアウトと女性の左側の細かい造形に見入ってしまう。
《塹壕(これが戦争だ!Ⅰ)》(1915年/フェリックス・ヴァロットン)。
大胆な構図で花火のように弾け飛ぶ土に目がいくが、タイトルの通り、画面下には塹壕に隠れる兵たちが描かれており、「戦争」を物語っている。
サイトより借用:http://kaiga-date.com/vallotton_noir_blanc-mimt/the_trench-felix_vallotton01


美しい「黒と白の世界」

個人的に好きだったのは、「愛書家」と複数の作品からなる「楽器シリーズ」。人を描いたものもバラエティがあっ て面白かったが、個人的には静物を描いた作品が可愛らしくて好きだった。


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