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なぜ健康とウェルビーイングが都市計画の中心に据えられるべきなのか

case|事例

19世紀のコレラをはじめとする感染症は、清潔な飲料水の供給や下水道の整備、ゴミの収集が、都市を健康な生活が送れる場にするために重要であることを教えてくれた。今、新たに日々の都市環境と健康との関係に目を向けさせる研究成果が得られ始めている。

ケンブリッジ大学のクライス博士は「現在の都市計画・交通計画は大気汚染によって呼吸器系に大きな負担をかけているが、それらは予防可能だ。」と述べている。彼女らの研究では、LEZ(Loe Emission Zone)をはじめ環境性能の悪い自動車などに利用の制限をかけている320事例を調査し、その効果を分析している。結果、ロンドンではLEZの実施などで大気汚染レベルが6%から9%減少し、バルセロナではスーパーブロックの実施で大気汚染レベルが25%減少したことが示されている。そのほか、関連してインペリアル・カレッジ・ロンドンはLEZの効果検証を行っている。LEZが施された8地区のうち5地区で心臓と呼吸器の疾患が有意に減少していることが明らかにされている。また肺の疾患については、対象の5事例のうち2事例で明確な改善が見られ、他の事例では明らかな劣化がなかったことが確認されている。

クライス博士の共同研究者であるISGlobal(バルセロナ)のニューウェンハイセン教授は「大気汚染の改善は技術的なソリューションに注目しがちで、公共交通や徒歩、自転車の利用促進から得られる健康上の便益は見逃されがち。」だと述べる。実際に、英国で5年間26万人を対象にした論文では、通勤に自転車を用いている人はより健康で長寿の傾向があり、心臓疾患の割合も低いという結果が得られている。

学校や病院、公園、パブ、レストランなどの立地を公的な投資によって、公共交通沿線や自転車・徒歩圏内に誘導することは、自転車や徒歩、公共交通の利用促進につながるし、それによる健康上の便益も確度が高く見込める。これは15分都市のコンセプトにも通じる。

insight|知見

  • 「ウェルビーイング」という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、概念の幅も広くて具体的にどういうことか十分に理解できていませんでした。

  • 今回の記事で紹介されている論文のように、健康増進や疾患予防の効果が定量的に示されると、ウェルビーイングへの理解が深まり、都市計画とウェルビーイングの関係も腑に落ちます。また市民の行動変容も進みやすくなるように思います。

  • 福岡でも、ウェルビーイングな街を!とか生活の質の向上!のようなビジョンに対して、具体的にどういう施策が紐づき、どういう効果が期待できるのかを示せると、ビジョンの実現が進むように思いました。