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歩行者死亡事故ゼロを実現したオスロとヘルシンキ

case|事例

交通安全のために、オスロとヘルシンキは、制限速度の引き下げや道路空間の再配分、路上駐車マスの撤去などを進めてきたが、その効果があらわれ始めている。オスロは、人口68万人を誇る都市であるが、歩行者と自転車の死亡事故件数はゼロで、ノルウェー全体でも16歳以下の交通死亡事故はない。ヘルシンキは、統計が開始された1960年以来、年間平均して20件から30件ほどの交通死亡事故があったが、昨年ついに歩行者の交通事故死亡者数がゼロとなった。

ノルウェイの交通安全団体は、交通安全の実現には自動車の所要時間がよりかかるようにネットワークを設計したり、通行料金を課したりと自動車の利用をしにくくすることに尽きると話す。事実、両市ともに自動車利用の制限を強めている。

オスロは、労働党と緑の党の下、2017年にロードプライシングの通行料金を70%値上げした。その結果、自動車通行量が6%減少した。そのほかに駐車料金も都心は50%、それ以外は20%の値上げが実施された。また、道路空間の再配分も行われており、数千台分の路上駐車マスを撤去することで延べ35マイル(約56km)に及ぶ新たな自転車レーンが整備された。制限速度も30km/hに引き下げられ、学校周辺の運転を禁止するハートゾーンという制度も新たに導入された。ハートゾーンは現在試験運用中で、今後4年間で100ヶ所に導入される予定となっている。オスロ市の副市長は「市民からの反対もあるが、慣れるまで待つことが重要だ。市民は成果が出れば理解する。」と粘り強く対話を続ける考えを示している。

ヘルシンキもオスロと同様に自動車交通量を減らす施策を続けている。数十年にわたって制限速度を引き下げてきたが、昨年さらに引き下げられ、ほとんどの住宅街と都心は30km/h、郊外の幹線道路は50km/h、都心の幹線道路は40km/hとなっている。ヘルシンキ市の副市長は「速度だけの問題ではないが、速度が最も交通安全に影響を与える重要な要因だ。」と話す。また、ヘルシンキも、自動車を優先せず歩行者と自転車、自動車のバランスを考慮したうえで道路空間の再配分を実施している。1990年代以降、バンプやラウンドアバウトを導入し、速度を抑制する取り組みを継続している。

オスロとヘルシンキをもってしても、交通安全をゼロにするnet Zeroの実現は容易ではない。両市ともに歩行者の交通死亡事故ゼロは実現したが、昨年度、自動車の死亡事故、オスロで1件、ヘルシンキで3件、発生している。オスロ市の副市長は、net Zeroの実現に向けて、学校での交通安全教育や運転免許試験の厳格化など、市民に対する教育が重要だとの考えを示している。

case|知見

  • 福岡市の交通事故の発生状況を調べてみると、令和3年の死亡者数が16人で、うち歩行者が2人と、死亡事故の定義が異なるかもしれませんが、オスロやヘルシンキと比しても遜色ない水準でした。(日本の交通事故による死亡は、事故発生から24時間以内に死者を出した事故と定義されている。)

  • 水準は遜色ないとはいえ、オスロとヘルシンキの道路空間再配分の取り組みや速度抑制の取り組みは学ぶべき点が多いように思います。生活道路の抜け道としての利用や速度超過は日本でも交通安全上の課題と思います。

  • かつて、日本でもゾーン30やコミュニティ道路など生活道路の施策が重点的に行われてきました。低速ゾーンの導入や歩車共存道路のアップグレードなどホコミチと併せて考えられると都市空間が豊かになりそうですね。