公共空間で女性と女児の安全を確保するための新たな計画ハンドブック
case | 事例
ロンドンレガシー開発公社(LLDC, 2012年のロンドン五輪会場の再生を担うロンドン市の財団。公園、住宅コミュニティや商業地区の整備を進めている)は、国際的な総合エンジニアリング企業であるARUP社の支援を受け、自治体、開発者、設計者向けのハンドブック「女性と女児のために機能する場所の創造」を発表した。
このハンドブックは、女性や女児のニーズが考慮されないことが多かった従来の都市のデザインや、都市計画に組み込まれたジェンダーの偏見に対処するための広範な協議と研究の成果でもある。ハンドブックには、3年にわたる熱心な調査が費やされている。LLDCは、この種のガイドラインを策定した英国初の地方計画当局となった。2021年以来、LLDCはジェンダーに配慮したデザインと計画を進めてきたが、その知識と実践をハンドブックにまとめ、都市計画者、開発者、建築家、その他の関係者が、プロジェクトの立ち上げから実施、長期的な管理まで、計画、設計、意思決定プロセスにおいてジェンダーに配慮したアプローチが適用されるようにするためのステップが示されている。
女性と女児の安全をデザインに取り入れるための主な提言には、
すべてのプロジェクトや意思決定において、ジェンダーを包括したプロセスを実施するための明確な組織的コミットメントを確立すること。
これらのコミットメントの継続性と効果的な実施を確保するためのメカニズムやガバナンスの枠組みを構築すること。
参加者主導のアプローチを通じて、女性と女児の生活体験の理解に基づいて意思決定、戦略、設計に反映させること。そのためには、エビデンスに基づく調査から、プロジェクト固有のレベルでの地域の状況把握まで、多段階のデータ収集が必要である。
教育、社会サービス、警察など、主要な利害関係者とのセクター横断的に協力を進め、全体的なアプローチを採用すること。
影響や成功事例を観察し、課題、再現性、発見した傾向など、優れた前例を踏襲できるために役立つデータを収集すること。
LLDCの主任計画官は「包摂的で、健康的で、子どもにやさしく、社会的に豊かで、誰にとっても安全な環境をもたらすような計画政策や開発プロセスの導入に長期的に取り組む必要がある。それは、女性と女児の生活を改善し、保護し、力づけると同時に、気候変動、持続可能な開発、経済成長に取り組む都市の可能性を高めるものだ」と語っている。
insight | 知見
ハンドブックの冒頭、女性(women)と女児(girls)の定義の部分で、多様なジェンダーの人々も含むと記されていますので、このハンドブックはタイトル通りというよりは、「女性や女児を含むすべての人にとって公平な場所を設計するためのハンドブック」を意図していると思います。
日本は特に政治と経済においては男性中心の社会であることから、都市計画に関わる法律の策定から、都市計画そのものの採択、地域の個別の開発や具体的な設計の検討まで、恐らくほとんどが多数派の男性が意思決定を主導してきていると思います。その意思決定の構造を仕組みから変えていかないといけない、と、このハンドブックは指摘しています。