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ウェールズは英国連邦ではじめて市街地の制限速度を20mphに引き下げる

case|事例

ウェールズ政府は、交通事故死および騒音被害の削減と徒歩・自転車の利用促進を目的に、市街地の道路の制限速度を30mph(48km/h)から20mph(32km/h)へ引き下げる。国内の道路総延長35,171kmのうち、12,500kmが制限速度の引き下げ対象となり、全区間の35%を占める。国全体を対象とする制限速度の引き下げは、英国連邦内で初めてとなる。2022年にウェールズ国内で発生した死亡・重傷事故1,014件のうち、約40%が制限速度30mphの道路で発生しているが、制限速度の引き下げによって制動距離や空走距離が短くなるために交通事故の発生抑止が期待できる。

制限速度の引き下げの実施は、これまで国内で大きな論争となっていた。環境団体や交通安全団体は賛意を示していたが、自動車擁護派からは所要時間がかさむことによって経済損失が発生することなどを理由に強い反対があった。また、学校や病院周辺に限定すべきとの声もあった。しかし、ウェールズ政府は、全体として公共の福祉を高め、公的な便益の方が大きいと判断し導入を決断した。制限速度の引き下げは、道路標識の切り替えなどで3,250万ポンド(約59億円)がかかると想定されているが、交通事故の減少などによる国民保険サービスの拠出減や緊急サービスの出動減で、公的負担が9,200万ポンド(約168億円)軽減できると試算されている。

制限速度の違反に対しては、最低100ポンド(約18,000円)の罰金と3点のペナルティポイントが課されるが、今後12カ月間はドライバーへの教育の期間として、警察官に取り締まりの裁量権が与えられ、重大な違反以外は違反者に対して教育と啓発に留めることも許可されている。

速度制限の引き下げは、国連でも20mphを制限速度の標準とすべきと推奨されており、英国王立事故防止協会でも安価で効果の大きい交通静穏化の手段として推奨されている。スペインは2019年に19mph(30km/h)への速度制限の引き下げを実施しており、ウェールズはそれに続くことになる。

insight|知見

  • 日本では、ゾーン30や古くはコミュニティ道路などで住宅地内や市街地内の速度抑制が実施されてきましたが、国全体の道路延長の35%で制限速度を引き下げるというのは、すごいインパクトになりそうです。

  • 制動距離や空走距離の短縮による事故の抑制ももちろんですが、限られた道路幅員の中で、歩行者や自転車、自転車といった様々な速度の交通が安全・安心に空間を共有するためには、自動車の速度抑制も有効な手段だなと思いました。幹線道路ではなく、住宅地内や市街地内の道路で、ホコミチなどと併せて実施できると公共空間の使い方が豊かになりそうだなと思いました。