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ジェントリフィケーションを回避するためには地域を巻き込んだプレイスキーピングが重要

case | 事例

アメリカ全土の多くのコミュニティが、新しい住民や企業の進出によって歴史的アイデンティティを失い、従前の住民の居場所が奪われ、コミュニティの構造が変わったりする危機に瀕している。このプロセスはジェントリフィケーション(高級化)として知られており、近隣の「アップグレード」は新たな活力、多様性、機会をもたらすが、既存の住民や企業が強制的に追い出される失敗も伴う。米国の現政権による地域開発補助金の増額は、新たな開発を誘導すると同時に各地のジェントリフィケーションにもつながるだろう。

人々が繁栄できる公正な場所とは何か?の問いかけに対する都市プランナーの答えは、アクセスしやすい交通機関、多様な住宅ストック、良い学校と就業先など多くの要素が一体となって機能している場所であり、そこには訪問者や住民が集い、つながり、楽しみ、創造的に関わり、想像力を広げ、挑戦する体験を見出すことができる場所である。このような「人々が住み、働き、遊び、学びたくなる」空間を創造することがプレイスメイキングと定義されているが、経済活性化の手法として始まったプレイスメイキングは、芸術文化戦略と結びつけられたクリエイティブ・プレイスメイキングや、プレイスキーピングと称される、持続可能性や住民や通勤者のニーズなど繊細な社会的インパクトも念頭に置く考えに発展してきている。

プレイスキーピングはコミュニティの構成要素にとって何が重要かを学び、それをどのように活性化プロジェクトに織り込んでいくかを重視するものであるが、カリフォルニア州オークランドでは、街路の安全性と公共空間を活性化させ、地域社会を巻き込むためにアートやデザインを活用しているが、同市の前市長は「プレイスキーピングとは、すでにその空間に住んでいる住民を巻き込み、彼らが住んでいる場所の物語や文化を保存できるようにすること」と語っている。ニューアークでは、アマゾンの子会社が地元の利害関係者とアーティストとのパートナーシップで地域の歴史を壁画で残すプロジェクトを進めている。ピッツバーグでは、アリーナや歴史的劇場の改修など、地域社会と開発業者が共同で大規模な活性化プロジェクトを形成する機会を、地域社会便益協定(地域社会のグループや利害関係者を、共有の計画のテーブルに着かせるための契約)により実現している。ボストン市長は、都心再生にあたってプレイスキーピングも1つの手法にダウンタウンのアイデンティティを重視することを示している。

insight | 知見

  • 寡聞にしてプレイスキーピングという言葉を知らなかったのですが、随分昔から議論されてきた公共空間の長期的なマネジメントの考え方なんですね。

  • 既存の住民や企業が追い出されるようなジェントリフィケーションが起こらないようにするためには、プレイスメイキングと合わせて、その公共空間のマネジメントに既存の地域社会を巻き込むことが1つの方法だという論旨だと思います。(記事の筆者がアーティストなので、事例としてはアートで地域を巻き込むものが中心になっています)

  • 福岡都心では一斉に大規模な再開発が進んでおり、新築のビルに過去にはない店舗や企業が入居していくことが考えられます。新しい公共空間も再開発に伴い生まれてきますが、都心地域のアイデンティティを残していけるような公共空間のマネジメントが試されます。