透香

やわらかくて、愛しくて堪らないあなた。 果てしない想いの先で、迷子になったときにはこ…

透香

やわらかくて、愛しくて堪らないあなた。 果てしない想いの先で、迷子になったときにはこちらへ。 このnoteでは、元報道記者が、あなたの繊細な心に息を吹き込みます。 ー文芸思潮新人賞佳作/引きこもり文学賞大賞ー (書評家/文筆家)

最近の記事

現実を生きること、言葉を生きること―東京都同情塔書評(考察・感想)

 東京都同情塔の主人公の語りは、かなり特徴的だ。まず一つの言葉を使ったら、その言葉がどう受け取られるか配慮を始め、エラーの排除と納得に向かって永遠と考え続けていく。 といった具合だ。この兆候は、サラが設計している塔に「シンパシータワートーキョー」という名前が付けられたと知ったときから始まる。ただの「塔」でしかなく、それ以上でもそれ以下でもなかったものが、言葉が与えられた瞬間に様々な意味を持ち始めるのだ。  彼女の語りが特徴的な理由、それは一見、彼女が言葉の世界で迷子にな

    • 井戸川射子さん『共に明るい』ー言葉にならない何かの尊さー(書評)

       言葉は世界のほんの一面に過ぎず、見えているものも氷山の一角でしかない。言葉によって表される前にただ世界は存在し、その中でそれぞれ自我をもった人と人が、見える影響や見えない影響を与え合って生きている。それだけのことであり、人は孤独でもないし言葉によって痛いほど繋がってもいない。言葉の力で定義された一つの形でないからといって関係性が偽物というわけでもない。そういった曖昧さに、本書は光を当てる。  本書に描かれているものを、私は簡単に要約することができない。むしろ、要約しないこと

      • 心が揺れたら、ぜんぶ恋。

        心が揺れる。上に舞い上がったり、下に突き落とされたり、横に揺さぶられたり。色々な揺れ方がある。パーマをかけたばかりの髪の毛の先がくるりと上を向いていたり、澄んだ茶色の目の奥に涙が溜まっているのを見つけたり。安穏と生きていたら不意に思いっきり殴られたり、かと思えば温かく包み込まれたり。生きるということは揺れるということなのではないかと思うほど、無防備な心でいると人々は私たちを揺らしにかかってくる。 色々な揺れがある中で、どれが恋で恋じゃないとか、どれが愛であいじゃないとか、そ

        • 感情は、消えない。鈍感なふりを続けないで。

           どこかで感じた感情は、いつかそれを消化する必要がある。例えそれが職場であげたかったはずの怒声だったとしても、恋人の前で流したかったはずの涙だったとしても。私たちはいつでも、強固に顔面に張り付けた社会的な仮面を守るために、その場や状況に応じた感情以外見せないよう無意識のうちに努力している。だれもが、上司の前でいきなり起こり出したり泣き出したりしないよう普段は気をつかっているし、恋人の前でも常に甘え100パーセントとはいかないものかもしれない。人と関わると、多少なりとも相手への

        現実を生きること、言葉を生きること―東京都同情塔書評(考察・感想)

          気づかぬうちに失った感情のさまざま

           運動会の日の感情を覚えていますか。汗で体操服が張り付き、砂埃が舞い上がっているのを感じながら、隣のクラスの気になる男の子を目で追いかけているときの高揚感と切なさ。試験会場の寒さと、温かさだけではないものが詰まっているらしいカイロ。握ると指が震えた。おばあちゃんと食べた焼き芋の熱さ。時計などない時間が流れていると思った。  時間に追われる毎日の中で、失った感情たちはいったいどこにいったのだろうか。自分の中で一大イベントであったはずの感情は探しても簡単には見つからないどこかに

          気づかぬうちに失った感情のさまざま