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提供精子を用いた人工授精の話題


#日経COMEMO #NIKKEI

今朝(2020年1月14日)の日経新聞に提供精子を用いた人工授精の記事がでていました。ぼくも日常診療でこの件については多くの関わりがあるので、今回はこの話題について書きます。

以前は、AID (非配偶者間人工授精)と呼ばれていましたが、2018年の会告より、”提供精子を用いた人工授精”と呼ばれています。どういう治療法か簡単に説明すると、第三者の精液を子宮内に注入する治療法です。妊娠率は5~10%くらいです。(ちなみに、提供精子を用いた体外受精は認められていません。)配偶者の精子を用いた場合は、AIH (配偶者間人工授精)と呼ばれます。ただ、現場では、人工授精のことを、IUI (Intrauterine insemination)という用語で使われることが多いと思います。

今回は、あえてAIDとAIHいう言葉で説明を続けたいと思います。なぜ、AIDに関わりがあるかというと、男性不妊症と関係があります。男性不妊症の中で最も重篤な病態は無精子症です。それも、非閉塞性無精子症という、精巣内で精子を全く作っていないか、もしくは、精子が僅かしか作られていない病態です。治療は、micro TESE (顕微鏡下精巣内精子採取術)を行なうのですが、精子を採取できる割合は約30%程度と決して高率ではありません。そのため、この治療で精子が採取できなかった場合の次の治療のオプションとして、AIDが挙げられます。(里親制度・特別養子縁組制度というのもありますが、今回は割愛します。)

micro TESEを施行して精子が採取できなかったときに、患者さんと奥さまに「精子が採取できなかった。」と伝えるときは、毎回、胸が締め付けられる思いです。その際に、AIDに関して説明も行います。多くの患者さんは、再び、ぼくの外来を受診することはありません。ただし、数組のカップルが後日にAIDに関して紹介状を作成してほしいと予約が入ります。AIDに関しての紹介状は、初診時からの経過とmicro TESEで精子が採取できなかった旨の詳細を記入し、患者さんにお渡ししています。ぼくはAIDをお願いする立場なので、これ以上は分かりません。後日に、AIDの相談で受診された旨の返事が郵送で届きます。

AIDで何が問題かというと、様々な問題がありますが、簡単に説明すると、①ドナー(提供精子)不足、②告知の問題、③出自を知る権利の3点だと思います。

日本産婦人科学会に登録されているAIDの施設は下記の12か所です。

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どこの施設もドナー不足の問題があり、今朝の新聞に出ているような、アンダーグラウンドの精子取引の問題が浮き彫りになっていると思います。

ただ、専門家として声を大にして言いたいのは、感染症のリスクです。登録施設では、梅毒・B型肝炎・C型肝炎・HIV・クラミジアの感染症チェックをしっかり行なっています。個人からの精子取引は絶対に手を出してはいけません。この件で、とりかえしのつかない感染症になったらどうしますか?また、新聞にも出ていましたが、①未婚の女性が挙児を希望した場合、②LGBTのカップルが挙児を希望した場合は、この12か所の施設では、AIDは施行できません。あくまで、無精子症が前提だからです。

この方々が挙児を希望した場合はどうすればいいのでしょうか?海外に目を向けると精子バンクというのがあります。世界最大の精子バンクは、デンマークに本社があるCryosという会社です。海外の方はこのような精子バンクから精子ドナーを提供されているものと思われます。

AIDに関しては、現状の法律が追い付いていない状況です。しっかりとした法整備をしないと、このアンダーグラウンドの精子取引の問題はまだまだ続くと思います。ぜひ、精子取引に手を出す前に、まずは専門家に相談しましょう。

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