見出し画像

「何月に家を借りると安く借りられるだろう?(1)」

インターネット上で情報を調べてみると、「1月から3月は家賃が高い」そうだ。信頼できそうなデータとして「消費者物価調査」の中に「民営家賃」という項目がある(No.47)。これを調べてみることにしよう。

民営家賃は、物価の計算に用いられるラスパイレス連鎖指数

での計算において全項目の中の4.51%のウェイトを占める、大きな項目だ。(pは個々の財の価格、qは購入数量、tは時点、jは財の種類を示す。)今回参照したバージョンでは基準年は2020年である。


家賃について調べる前に、まずは物価全体「総合」の値動きを調べてみよう。物価調査は、公表されているデータが1970年からなので、計52年分のデータになっている。

画像1

常識的な話として、物価はバブル期までは値上がりを続け、バブル崩壊で値下がり、その後はほとんど横ばいで、アベノミクス期に少し上向いたようだ。アベノミクス期というのは政策の成果のようにも思えるし、単に東日本大震災で大量のストックが破壊されたのを埋め合わせるためにフロー生産が増加しただけのようにも思えるが、そのへんの判断は将来の歴史家に任せるとしよう。

この指数をもとに「自己相関係数」というものを計算して周期変動を調べることができ、その変動をまとめたグラフのことを一般的に「コレログラム」と呼んでいる。
次の式のrが自己相関係数で、時間差hの関数になっている。

時刻t、価格y、yバーは期間平均、hがタイムラグである。C0はyの分散となる。自己相関係数は、最大値が100%で、モノが×ヶ月前とよく似た値動きをする場合、×ヶ月の値が100%に近くなる。

画像2

さて、50年間の物価総合の指数でそのままコレログラムを書いてみたがあまり面白くない。単に、時間が経つほど相関が弱まっているだけの結果になる。去年の値段よりも先月の値段の方が今月の値段に近い…当たり前の結果だ。要するにこれは、全体の傾向の影響が大きすぎて、月別の変動が見えてきていないと思われる。なので各月の「前月との差」を算出して比較することにする。数表は、計算1回1回につき3万6千個くらいの数字が並ぶ表になり膨大なので記事にはグラフしか載せないことにする。

画像3

すると、今度はハッキリとパターンが見えてきた。物価変動には12ヶ月周期の大きな波と、6ヶ月周期の少し小さめの波があることが見て取れる。

画像4

念のため60ヶ月分のコレログラムを作成してみた。やはり24ヶ月・36ヶ月など、12ヶ月ごとに、「似た値動き」をしていることが見て取れる。
確かめるために、次のようなグラフを描いてみる。

画像5

2001年1月から2020年12月までの物価指数から月別の平均を取ったグラフだ。まだ少し見づらいように思うので全体平均との差を取ってみる。

画像6

上記のグラフの、平均からの差を拡大したグラフだ。
これで物価の月別の傾向がハッキリ分かる。どうやら日本は真冬と真夏に物価が安いようだ。念のため、期間を1971年から2020年までの「50年間」に変えて、同じく物価の月別平均を調べてみる。

画像7

ぱっと見ではそんなに違わない。しかし、2つのグラフを比較すると、真夏に物価が下がるのは別に日本の伝統ではなく最近の傾向であることが見て取れる。50年前の日本は今よりもずいぶんと涼しかったからだろうか。逆に50年間のグラフの方は年末にかけての値上がりが大きい。昭和の時代はさぞかし「年末は商売のかき入れどき」だったのであろう。もちろん、こうした理由の考察はデータ分析から導かれるものではなく、あくまで話のタネである。

次に、値上がり・値下がりする月を抜き出してみる。
値上がりすることと値段が高いことは同じように聞こえて、違うものだ。先に値上がりした結果、あとで値段が高くなるのであって、物価が上がる月と物価が高い月は同じ意味ではない。物価の差分(可能なら一階微分)を取ることで「値上がりする月」がいつなのかが分かる。

画像8

すると、6月7月と、11月12月に値下がりする結果として、真夏と真冬に物価が安くなっていたようだ。

画像9

こちらは念のため同じものの直近10年間を抜き出してみたのだがおおまかに真夏と真冬に向けてモノが安くなる傾向は変わっていないものの、だんだん秋の値上がりの時期が9月から8月に前倒しになってきて、一方で冬の値下がりの時期が1月に後ろ倒しになっているようだ。

こうした変動が起きるのは、日本には四季があるからだろうか?余談だが、ハワイは一年中同じような気候だと聞く。とはいえハワイは北米の季節変化を反映して物価変動しそうに思われる。日本だと小笠原諸島や八丈島は一年中似たような気候だが、はたして物価変動は小さいのだろうか?ひたすら一年中物価が高いというイメージしかないのだが…。

繰り返すが、こうした考察はデータ分析から導かれるものではない。とはいえ、こうした仮説を立てて、もしそれを確かめる方法を考えようとするなら、それは科学的な態度だと私は思う。数式を並べることと科学的であることとを混同してはいけない。


と云いつつ、オマケとして、今回のデータN=600カ月(50年分)を離散フーリエ変換したものを載せてみる。

画像10

50年間に50回(=12ヶ月に1回)のところに強い波があることが見て取れる

・・・というところで「何月に家賃が安いか」という疑問は次回に後回しにして今回の稿をおしまいにする。続きはまた次回。

(リビングコーポレーション 経営企画室 yy)