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107.どうしよう、どうしよう、どうしよう。

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。例の感染症に帰国の背を押されて4ヶ月滞在したグルノーブルの街を後にしたわたしたち。レンタカーを返し、リヨン空港へ向かおうとするが・・・?


大急ぎでグルノーブルを出て、リヨン空港の近くのレンタカー会社に車を返す。荷物を下ろしながら、日本に帰って楽しもうと思ってたくさん購入したチーズをごっそり忘れてきたことに気がつき、絶叫した夫。

しかし、そんなことに悩んでいる時間もなく、リヨン空港を出発する時間が刻一刻と迫ってくる。わたしたちは荷物をガラガラ引きながら、レンタカー会社に隣接した空港行きのシャトルバス乗り場の停留所に並ぶ。こんなに世間は混沌としているのに、そんなことを知らないかのように空は青くからりと晴れて、陽射しの中に日本とはちょっと違った春の匂いが混じり始めている。

あぁ、この国とも、いよいよお別れか。

そんな気持ちで空を眺める。あたりはしーんと静まり返っている。そう、しーんと。しーんと・・ん?なんでこんなに人がいないんだろう?そして、なんでこんなにバスが来ないんだろう?

ちょうどわたしたちがここへ到着したばかりの頃、バスが一ついってしまったせいか、それからは全然新しいバスがやってくる気配がない。時間的に少し余裕を持って出てきたはずが、青空の下の待ち時間でどんどんそのヴァッファーが削られていくという不穏さ。おかしい。どうして来ないんだ。

ここはフランスという国。日本ではあり得ないが、予定されていたバスが寸前で「今日はストライキするので運行しません」みたいなことが平気で起こるのだ。もしや、今もバスが来ると信じて待っているけれど、これも・・もしや・・?

帰国の哀愁に浸り、あんなに清々しい気分でバスを待っていたのに、急に変な汗をかき始めた。夫もどうしようどうしようと、あちこち現状確認のために歩き回る。彼が遠くに行ってしまうと「え、ちょっと!この間にバスが来ちゃったらどうするのよ!」と不安になるわたし。タクシーを拾う?でもこんなところでタクシーは走っているだろうか?どうしよう、どうしよう・・。

体の感覚が抜けて、どんどん冷たくなってくる。その間、夫はどんどん遠くへ行ってしまって、わたしの体は「どうしよう」にすっかり占拠されてしまう。このままバスが来なかったらどうしよう。飛行機に乗れなかったらどうしよう。そしたら小さな子供を抱えて、どこで待機したらいいんだろう。今ホテルなんてとれないし・・。そもそも、今どんどん空路が閉鎖されている中で、この便を逃してしまったら、しばらく日本に帰る手立てがないんじゃないだろうか?そしたらどこでどんな風に暮らしたらいいの?夫の仕事はどうする?お金は足りるんだろうか?

もし、この国でコロナになったら・・
どうしよう・・!

今そんなことを考えても仕方ないのはわかっていても、「どうしよう」が堂々巡りをして不安という不安掻き出してくる。考えつくところまで考えたらストンと力が抜けた。「パパ、どこまで行っちゃうのかな」小さな娘の手を握って、なすすべもなく夫を目で追っていると、「来た来た!!」と夫が走って帰って来た。
彼の背後からこちらへ向かってくるバスを見た時、タイタニックから投げ出されて板に捕まり冷たい海を漂流していたローズの元に助け舟がやってきた・・ような光景が頭の中を巡り、声にならない安堵の声が漏れた。

時計を見るとさほど時間が経っていないことに驚いたが、バスを待つこの時間は永遠のように長く感じられた。バスに乗り込むと乗客は私たちだけ。運転手はバスン!と乱雑にドアを閉めると、リヨン空港へと出発した。やれやれ。出だしからなかなか、ハードな出発でした。いや、まだ出発はしていないのか。

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