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Vol.34 お誕生日プレゼントはマクロン大統領からのロックダウン宣言と、そして・・


忘れもしない。

2020年3月16日。

私の33歳のお誕生日プレゼントはまさかのマクロン大統領からのロックダウン宣言だった。


bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。

今日は、フランスで迎えた私のお誕生日について。

12月には夫の、

1月には娘のお誕生日をそれぞれ迎え、


3月は私のお誕生日。
帰国を目前に控え、この日は、フランス生活の集大成のようなもの。
着物を着て、旧市街のお魚料理が美味しいフレンチレストランへ出かけて、シャンパンを開け、そしてとびきり美味しいものを食べよう。

家にはお花を飾って、とびきり美味しいワインとチーズをつまみながら(飲んでばかりじゃないか笑)、現地での生活の苦労や幸せを存分に味わい、これまでの体験を温め合おう。なんて美しい妄想をしていたのですが・・。


2020年3月12日。
このあたりから雲行きが怪しくなってきた。
マクロン大統領が演説をし、学校が閉鎖になったのだ。

夕方職場から帰ってきた夫に、
「なんか、学校がお休みになるらしいよ」
と言われ、はじめてコロナウィルスというものが身近に迫ってきているものだと認識した。だけど、街の様子はいたって変わらず、普段通りの時間が流れていた。それにこの日のお昼、大学のキャンパスの芝生の上でたくさんの生徒と混じって日向ぼっこをしていたのだ。このアンヴィヴァレントな感じにうっすらと気味の悪さを覚えた。

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この気味の悪さが形を持ち始めたのが、
2020年3月14日の夜、21時頃のこと。

夫の職場の同僚から「今夜から飲食店の営業が停止になるらしいよ」
とお知らせをもらう。

・・え?なんですって!?

生活に最低限必要なものを扱うお店以外(薬局や食品店など)は、営業を停止するとのこと。

・・え?えええ?な、なんですって!!??

この時、当たり前に迎えると思っていた誕生日フレンチなんてものは、夢の彼方へと消えていった。

あまりの唐突感。
現地に暮らすフランス人でさえ、「一体これはどういうことなのだ!?」と頭を抱えていた。ましてや短期滞在中の私たち日本人には何が何だかさっぱりわからない。ここでは、完全に私たちは情報弱者なのだ。もはや、感じとるしかない。



2020年3月15日。
ビビりまくる私を尻目に、午前中、夫と娘が二人で街へ偵察へ出かけた。
帰ってきた彼らのその手には、綺麗なピンク色の薔薇が数本。
もうお店を開けられないからと、お花屋さんが道ゆく人にお花を配っていたそうだ。図らずも素敵なお花をゲット。

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少し元気になった。
午後は現状確認のため、ダメ元で、誕生日を過ごすはずだった旧市街のフレンチレストランまで歩いてみることに。

昨夜の政府からの通達を知ってか知らずか、まだ営業中のお店はあったけれど、ほとんどのレストランは閉まっていた。でも食品在庫の整理だろうか、中ではオーナーやスタッフらしき人が何やら慌ただしくゴソゴソと動いていて、事の唐突さを感じさせる。

旧市街へと抜け、お目当てのフレンチレストランへと辿り着いた。
が、やっぱり。案の定閉まっていた。がっかり・・・。
胸騒ぎとともに形のない不気味さがひしひしと湧いてくるのを止められない。

「せっかくのお誕生日なのに・・。残念だったね」
と声をかけてくれる夫と、家に帰ると出迎えてくれるフランス色の花たちが、肌触りの悪いざわざわとしたそれらをほんの一瞬だけ和らげてくれた。

「・・なんかさ、大変なことになったね」
と、呟いてみた。


2020年3月16日。
そして迎えた誕生日当日。

レストランはどこも閉まっているので、仕方ない。熱々のコーヒーを水筒に入れて、車に乗り込み街へ出かけた。向かった先は行きつけのブーランジェリーとスーパーマーケット。コロナウィルスが怖いので、私と娘は車の中で待機。夫にお願いをして小さなケーキとジュースを見繕ってきてもらう。

ガチャン。

必要なものをささっと調達すると、また車を走らせた。


山が美しいグルノーブル。

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この景色をしっかりと刻んでおきたかったのかもしれない。

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行き先は私の希望で、山を望む丘の上。
身体が広さと綺麗な空気を欲していたのでしょう。

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山菜か何かを探している老夫婦と、遠くに駆けずり回って遊ぶ子供達の声。
まるで絵画の世界のようだ。

さっそく探索へ出かける夫と娘を遠くから見つめる。
この後、彼らは野生の大きなチャボ?らしきビックバードに威嚇されて血相を変えて戻ってくることになる(笑)。

あぁ怖かった〜。

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まぁ、食べましょうよ。

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どこまでも広がる大地と空と山々を前に、あったかいコーヒーと小さなケーキをつまむ。豪華なシャンパンもコース料理もないけれど、こんな誕生日も悪くはないかもしれない。

そして、どこかほっとしている自分がいる。
ここまでずっと走り続けてきたけれど、本当は一度、立ち止まりたかったのかもしれない。

不思議だけど、これは自分がずっと昔から望んでいた未来でもあるように感じられた。


この日の夜。
マクロン大統領から明日より外出禁止、いわゆるロックダウンをするという趣旨の演説があって、この夜を境にフランスでの生活はまるで変わってしまった。

私たちの生活も人生観も、まるで変わってしまった。

お誕生日メッセージとともに日本から続々と届く安否確認のメッセージに背中を押され、予定より帰国を早め、揉みくちゃになりながらフランスを経つ。

日本に戻るやいなや、二週間の自宅待機生活に入る。
そして住み慣れた里山を出る決意をし、コロナ禍での壮絶お引っ越し。
家の中のほとんどものを手放し、人に譲り、必要最小限のものだけ持って、新しい生活を始めた。

そして、捨てながら変容する、という我が家の新しい生活理念が生まれた。


まさに激動の始まり。
33歳のお誕生日はとんでもないプレゼントが・・なんて思っていたけれど、一年たって新しくお誕生日を迎えた今は、あれは本当の私らしさに立ち返るための大きな大きな節目だったのだと強く感じている。

たくさんのお誕生日メッセージ、および、ご心配のお声をいただきありがとうございます^ ^
まさかお誕生日にマクロン大統領からの外出禁止令というプレゼントが届くとは予想だにしませんでしたが(苦笑)、いろんな意味で忘れない、思い出深いお誕生日になりました。
レストランはどこも閉まっているので、当日は夫が人里離れた景色の綺麗な場所へ連れて行ってくれ、お気に入りのパン屋さんで買ったケーキを青空の下でいただきました。
本当は着物でレストラン、の予定だったけれど、こういうバースディもいいなぁ。
食卓のバラは、わたしが好きなお花屋さんで「もう明日からお店を開けられないから」と配っていたのを夫と娘がもらってきてくれました。
一番大好きな、フランスの色。図らずも嬉しいお誕生日プレゼント。
正直、帰国までに不安はありますが、でもフランス滞在の最後の最後で「家族との時間」というビックプレゼントをもらいました。
こんなときこそ、あわてず、日々のことを変わらず粛々とこなしながらリラックスしてみます。
部屋を綺麗に掃除すること、良質な食事、睡眠、そして最近はじめた朝のヨガ時間も^ ^
粛々、がはじまった33歳の幕開け。
どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

(当時のfacebook投稿より)


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