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127. 3年ぶりに開いたノートパソコン|Stay Home編《12》

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。Stay Home編ではコロナ禍のフランスから帰国し、自主的に14日間の自宅待機中に感じたことを綴っています。今号は、コーヒー豆を挽きながらふと、専業主婦の自分が客観的にみえた瞬間について。何気ない一瞬の出来事だったけれど、後々振り返ると大きなターニングポイントだったのかもしれません。


2020年4月1日。Stay Home13日目。
Stay Homeがはじまってから、毎日早起きをして自分のために豆からコーヒーをいれてあげていた。何気ない日常の一コマだけど、物心ついた時から、こうして自分に手をかけるということが、人生からすっぽり抜け落ちてしまっているわたしにとっては、今思えば革命的な出来事だったのでは・・。と、あの時期スマホに撮りためた毎朝のコーヒータイム写真を見ながら、はっとした2023年のわたしである。

ミルでコーヒー豆をひく時間が好きだ。
ゴリゴリゴリゴリ。
あの音や感触と、どんどん豆が軽くなって摩擦がなくなっていく感じがたまらない。コーヒー豆をひいていると、頭の中がだんだん空っぽになってくる。忙しさや記憶の雑踏の中に溺れていたようなあれこれが「あ、そういえば」と湧いてくる。

特に意図をしたわけでもなく、何気なく始めたことなんだけど、あれはわたしにとって瞑想的なというか、とてもリチュアルな時間だったのだろうと思う。

ゴリゴリゴリ。
あ、そう言えば。
ゴリゴリゴリ。
あ、そう言えば。

と、頭の中のおりのようなものが浮かんでは消えていく。ちょっと前に体験したヴィパッサナー瞑想って確か、こんな感じだったよなぁ。ドリップしたコーヒーを口にする頃には、あんなに浮かんだあれこれをすっかり忘れてしまって、「あぁ、今日の一杯も最高だったな」と言って終わる毎朝。

しかし、Stay Home13日目。
ゴリゴリゴリ、といつものようにコーヒー豆をひいているとふと、「わたしはなぜここにいるんだろう?」と思ってなぜか切なくなってきた。そして、急にパソコンが気になって、ドリップされるコーヒーが落ちてくるのを待ちつつ、押し入れの中で埃をかぶっていたノートパソコンを引っ張り出してきて、電源を繋いだ。コーヒーを啜りながら、恐る恐る起動するとアップルのダーン、という元気の良い音がして、デスクトップには産前に描いたイラストやら文章やらが散らばっていた。

約3年の時が経ったのだ。
あぁそう言えば、わたしって仕事してたんだな。
そして、そう言えば、今って専業主婦なんだな。
という切れ切れでそれぞれ別枠で存在していたアイデンティティがガチンとぶつかって、しばらく呆然としてしまった。止まってしまっていた時計が動き出すように、わたしの中で何かが動き出していた。


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