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096. 笑顔だけ持って、マダムにクレープを教わりに行く

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
今号は、ご近所のフランス人マダムからクレープの作り方を教えていただいたお話。

最近、ご近所のフランス人マダムと仲良くなって、お互いにレシピを交換しあったりケーキやお惣菜を届け合うようになりました。

以前マダムが届けてくれたクレープが絶品で、レシピを教えてほしいとリクエストをしたところ「今度一緒に作りましょう」と声をかけてくださった。それで、今日はマダムのお宅に伺って、クレープ作りを伝授してもらったのでした。



待ち合わせ時間になって、マダムのお宅に尋ねると笑顔で迎えてくれた。そして、早速キッチンに二人で立って、「このくらいね。スケールはいらないわ」と大きな瓶から小麦粉をカレースプーンですくってボウルに入れていく。ちょうど良い分量を手が覚えているようだった。そして、小麦粉に一つずつ卵を加えてよーくよーく練る。牛乳もまた少しずつ加えて練る。

「one by one」(一つずつ)
この一番初めの工程がとても大切なのだという。

生地が滑らかになるまで練ったら、少し冷蔵庫で休ませる。その間にお茶を入れもらって、フランスの素敵なお家の庭の写真を見せていただいたり、ご家族のお話を聞いたり、「ここはまるでフランス?」と思ってしまうような夢見心地の時間だった。

話に花が咲き、すっかり場が温まった頃、クレープの生地もそろそろいい感じになっただろうということで、冷蔵庫から取り出して、フライパンに火をつける。
これが、煙がしっかり出るくらいかなり強火で「え、大丈夫かな。焦げちゃわないかしら・・」とドキドキするくらいだったが、ここでも「one by one」。一回一回きちんとオリーブオイルを塗って、レードルですくった生地をフライパンに流し込む。

生地は流し込むとすぐに固まってしまうので、手早くフライパンを動かす。マダムはとても簡単そうにササッと薄くてきれいな円を作るのだけれど、これがなかなか難しい。わたしのは分厚くなってしまったり、穴ができてしまったり・・。家に帰ってからも練習が必要そうです。

生地の周りがこんがりと良い色になってきたら裏返して、バターを塗り、反対の面も焼けたらお皿にあける。そして、表面に少しお砂糖をまぶす。なるほど。これがサクサクととしたクリスピーな食感の秘密なのですね。

四つに畳んで出来上がり!
「お母様に習ったのですか?」と聞くと、「そうです」とマダムは微笑んだ。
嬉しい。フランスに行ったら、素敵なマダムに家庭料理を習う、というのがわたしの夢だったのだけれど、それがまさか日本で叶ってしまった。


昨日、あるオンライン講座のグループに参加していた時、そこには海外滞在や通訳を経験されているメンバーが多かったので、質問をしてみた。

「わたしは語学が得意ではないのだけれど、最近英語を使う機会が多いです。
伝えたいのに伝わらないとか、間違えるのが怖いとか、相手の言っていることが理解できなくて申し訳ないとか、そんな思いをどのように乗り越えたら良いのでしょう?」

すると、あるメンバーのお一人が「それは日本語だって同じですよね」と教えてくれた。海外の言語の方が大変さはあるけれど、日本語だって、本当に伝えているように伝わっているとは限らないのだ、と。またある人は、言葉ではなく、相手の音を聞く、というアドバイスをしてくれた。なるほど・・。

そしてふと、マダムがアポイントメントを取るときにメールに書いてくれた言葉を思い出した。

「Viens juste avec ta bonne humeur」
フランスで手ぶらで来てね、というような意味らしいのだが、「こちらで全部準備をするので、ただ笑顔できてね」というような英訳が添えられていた。

あぁそうか、乗り越えなくてもいいのかもしれない。いや、乗り越えられるなんて、ただの幻想なのかもしれない。語学への苦手意識も手伝って、正しく伝えることにわたしは一人でとても潔癖になっていたのだ。伝わらないかもしれない。でも伝えたい。理解できないかもしれない。でも相手のことを理解したい。そのまなざしだけは向け続けよう。そして何より、今日のクレープ作りを一緒に楽しもう!

そう、ある意味開き直ってマダムのお家の玄関のドアを開けると心が急に晴れやかになった。そして、相変わらず英語はうまく喋れないし、伝わらないのだけれど、わたしの話を一言一言汲み取ろうとしっかり目をみてうなずきながら聞いてもらえるのが嬉しかった。また、相手のことを知りたいと思って全身全霊で目の前の人に向かって自分を開いていくのはとても気持ち良いものだった。

さらに不思議なことに、ところどころ「あれ?今伝わったかも!」とか、「あ、今のわかるかも!」という瞬間がやってきて、楽しいことを楽しいと一緒に笑い合えて、悲しいことを悲しいと一緒に怪訝な顔になったり、そんな一つ一つの営みを愛おしく感じた。それは、まるで幼くまだ言葉が拙い子どもが大人に必死に一生懸命お話をしたり、聞いたりというピュアな態度に似ていた。

あぁ、これでいいんだ。

最後はお互いの焼いたクレープをほかほかのうちに一緒にキッチンで食べながら、顔を見合わせて
「Sébon!」
「おいしい!」

今日はほんとうによく笑って、よく喋って、美味しいものをいっぱい食べた。そんな一日。


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