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120.非常時はその人らしさが如実に現れる|Stay Home編⑦

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。Stay Home編ではコロナ禍のフランスから帰国し、自主的に14日間の自宅待機中に感じたことを綴っています。


2020年3月27日・Stay Home8日目。
今号は自宅待機中にSNSにドキドキしながら投稿した、『一帰国者としての声』。わたしの言葉は今の現状に対し恐怖感を持っている人に対し暴力になるのではないか。大袈裟なのではないだろうか。いろんな思いを抱えながら、でも友人に「あなたの声を届けるべきだ」と背中を押され意を決して投稿した言葉でした。

【都市閉鎖-ロックダウン-を経験した一帰国者としての声】

いよいよ、日本でも、という感じがしてきました。
文にするとまとまらないし、迷いましたが、それでも誰かのお役に立てばと思い、発信してみます。
私がヨーロッパで経験した「ロックダウン-都市閉鎖-」について。
パニックを起こした人の行動がウィルスを広めます。
都市閉鎖が決まった直後の、買い占めのために殺到するとか、今のうちに田舎へ帰ろうと交通機関に殺到するとか、そういう人々の状況は、まるで目に見えない大きな津波に飲み込まれていくようでした。

でも、同時に、私が見てきたの助け合いの輪が広がる光景でした。
そのことを、なんとか伝えたくてモヤモヤしていました。

私はずっと、世界が真っ二つに引き裂かれていく衝撃の中にいました。
怒り、争い、奪い合う人たちと、助け合い、与え合い、限りある世界の中で自由を探し始める人たち。

日本ではロックダウンというとても恐ろしいもの、と報道されていますが、3月25日のフランスのニュースは、外出禁止がそこまで苦痛でない人は64%、苦痛だと思う人は36%、というアンケート結果を伝えていました。

これから長期化すると変わってくるかもしれませんが、この64%の中の一部の人たちがオンラインの充実や、あたらしいサービスを生み出そうと動いている気がします。
フランスを出国するとき、私たちは現状が見えない中で、毎瞬毎瞬、第3の道、AでもBでもない、自分の選択肢になかった最適な道、になんとかすがりついて飛び出して来たような気がします。それは「私が助けを求める」ことから始まりました。

「フランス語の演説は何を言っているのかわからないから教えてほしい」
「飛行機は飛ぶのか、電車はいつ止まるのか」
「日本に持ち帰れないものを引き取って欲しい」
「冷蔵庫に沢山食品があるけど捨てるのがつらい」

その度に、
「わたし引き受けますよ」
「きっと誰かのためになります」
とサポートしてもらってきたし、それが結果、相手のことを助けるものでもあった。そして、
「鉄道は止まるけど飛行機はまだ動いてるよ」
「日本に帰国して行った人がこんなことを言っていたよ」と自分では分からなかった情報を教えてくれた。
わたしがこの経験を経て感じたのは、この病気は「自分に見えない他者・もの・こと・環境に対してどれだけ想像力と理解力が持てるか?」が試されているということ。

ワクチンがあるとすれば、自分ではわからないものを補完する他者をどれだけ信頼できるか、かなと思いました。一月末、日本がコロナウィルスの第一波で大騒ぎの時、わたしは人種差別問題に取り組んでいて、フランスと日本は表裏一体で動いているのを感じました。

「中国から来るな」
「アジアから来るな」
当時のヨーロッパではそういう雰囲気がありました。
でも今、アジア側が、
「欧米から来るな」
ですよね。
これから閉鎖が始まると今度国内では、「都市部から来るな」
が始まる気がします。

実際、イタリアではロンバルディア州の人たちが、フランスではパリの人たちが、田舎から差別され始めていると聞きます。
「わたしのせいじゃない」
「自分の問題じゃない」
「出て行け」
こういった思考は、ますますウィルスを蔓延させるだけです。
さて、私に何ができるでしょうか?
今私は14日間の自宅待機ですが、いわば、家単位の「ロックダウン」状態です。
このとき、私たちだけでなんとかしようとしない姿勢が大切だなと思っています。

正直、帰国者って、肩身が狭いです。
でもその中で、周りに、「助けてください」「手伝ってください」とどれたけ言えるのか、試されている。

そして、サポートをありがたく受け取りながら、今私にできるのは、自分がヨーロッパで見てきたものを伝えることかな、と感じています。
そんなわけで、とりあえず、#おうちにいます プロジェクトを始めてみました。

当時のSNS投稿より

改めて、声に出して読んでみた。ざらりとした感触と、胸がガリっと引っかかれるような苦しさを覚えた。マクロン大統領はロックダウン宣言の時、テレビ演説で「これは戦争だ」といったけれど本当だ。自分で書いた文章なのに、まるで誰かが書いた戦時中の情景を綴ったものを読んでいるかのようだ。

だけどここには、これまでこのフランス滞在記に書いてきた「美しい体験」とは違った、しかしすごく生々しいまでの感情がたしかに存在している。この時期読んだニュース記事の「非常時にはその国らしさが如実に現れる」という言葉を思い出した。それは個人にも言えることで、「非常時にはその人らしさが如実に現れる」と言えるだろう。

こういう自分の過去の言葉たちを改めて受け止めるのは、正直あまり気持ちの良いものではないけれど、紛れもなくこれもわたしのフランス滞在から得たもの。あの時コロナウィルスによって明らかになったわたしらしさの片鱗が見える。

2020年のあの未曾有の出来事に対して、どんな感情が湧いてきたのか。どんな行動をしたのか。あの時、守りたいと思ったものは何だったのか。変えたくないと思ったものは何だったのか。変えたいと思ったものは何だったのか。

3年を経て、冷静に俯瞰できる今だからこそ、ふり返る時に来ていると強く感じます。ざらっとした感触、ガリっと胸を割くような思いの奥にいる自分が見えてくる気がするのです。

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