118.おじいちゃん、おばあちゃんが怖い|Stay Home編⑤
bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。Stay Home編ではコロナ禍のフランスから帰国し、自主的に14日間の自宅待機中に感じたことを綴っています。コロナによるあれこれが喉元を過ぎようとしている今だからこそ、当時の記憶をふり返るのが大切な時期にきたと感じています。
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2020年3月24日・Stay Home5日目。
家の中にいるとどんどん気持ちが閉鎖的になり、夜型の生活になっていくので、太陽を求めて縁側に出ることが増えた。まるで猫のような気分になりながら、こういう時、縁側のある家に住んでいて良かったなと思った。
ただ、我が家の遊び盛りの3歳児は縁側で猫になるだけでは満足してくれない。そこで、お日様が高くなってくるとお外へ出て散歩するのが自然と日課になっていった。
日がな一日できることもないが、時間はたっぷりある。小さな子供に手を引かれながらテクテクとただ歩く。時々止まっては「こんなに太陽のことを気にしたのはいつぶりなのだろう」と空を仰ぐ。眩しいなぁ。あらためて、太陽ってすごい。モヤモヤした気分もあっという間に吹き飛ばしてしまうし、たった一つで世界中をこんなに明るくしてしまうのだもの。
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2020年3月25日・Stay Home6日目。
それにしても、こんなに自然豊かな場所に暮らしながらわたしはちょっとずつちょっとずつ自然を見なくなってしまっていたのかもしれないな。それだけ日々の生活やタスクに追われているってことだろうか。そんなことをボーッと考えながら歩くのが、子どもとの散歩にはちょうどいい。
ほっこりと幸せな空気に包まれていると、近くの田んぼのあぜ道をおじいちゃんが散歩をしているのが見えた。隣にはジャージ姿の若い女性が付き添っている。おそらく、近くにある介護施設のおじいちゃんなのだろう。
思わず心臓がドクンと鳴って足が固まった。けれどおじいちゃんは「かわいいねぇ」と娘のもとへどんどん近づいてくる。いつもだったら「こんにちは」とあいさつついでに他愛のない話でもするのだけれど、今日はそれが怖くて仕方がない。
「すみません、海外から帰国して自宅待機中でして・・」と後退りした。
おじいちゃんと介護職員らしい女性はあまり動じることなく笑顔で会釈して去っていったのだけれど、わたしはその後もキョロキョロと辺りを見回して、ご高齢の方を発見すると、しかもそれが知っている人だったりすると、まるで逃げまわるように走って身を隠した。さっきまでのほっこりタイムはどこへいったのか。もう太陽を見上げている余裕なんてなくなっていた。
あんなに大好きだった近所のおじいちゃん・おばあちゃんが怖くて仕方がない現状がなんだか信じられなくて、悲しすぎる。ヨーロッパの惨状を経験してきたからなのか、こんなに都会から隔たれた平和そうな里山にいても安全だと感じられないなんて。いや、もはや世界中どこにいても等しく安全ではないのかもしれない。
でもきっと、大切だから怖いのだ。
大好きだから怖いのだ。
恐れの感情は、自分にとっての大切なものや大好きなものに気づく入り口なのかもしれない。
安全が脅かされている今、自分にとって何が本当に大事なのかを日々突きつけられているのだなと思った、あの時。その感触は時が過ぎても、肌が覚えているのでしょう。春になると、あたたかい風に乗ってやってくるのです。
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