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時速1,000kmで進む恋の始まり

私達は海に来ていた。お互いにシュノーケリングが好きとわかり、出逢って20時間後には海の中にいた。 昨晩出逢ったばかりのはずなのに、まるで随分前から知っていたかのように完全に打ち解けあって心地が良い。 手を繋いで沖へと泳いで行く。 足の届く所を見つけると立ち止まり、彼が私を抱き上げる。 彼は止めどなくキスをする。 そして「You are beautiful 」と何度も言う。 私は躊躇していた。

今朝海で会う前に、私達はマッチングアプリを削除した。 お互いにそれを望んでいたし、その行為は一つの気持ちの真剣さを表していると思った。 今までマッチした相手にアプリを削除して欲しいと言われたことは一度も無かった。 本当のところは、アプリを削除したからと言って、それがイコール真剣な気持ちの証には成り得ない。 アプリは何度でもまた始める事ができるからだ。 それでもエディには偽りを感じなかった。 私のアンテナは彼にマイナスなものを感じなかった。 私は彼に嘘を感じなかったのだ。

アメリカンの恋愛のスタートの曖昧さは日本人の常識からはかけ離れていて、とても不可解だと言うことを過去の経験で痛いほど知っていた。 日本には告白文化があり、関係性を言葉で明確にする。 言葉に重きを置くのが日本の習性なのだと思う。 アメリカンには告白文化は無い。 一体いつから恋人同士になったのか曖昧なのがアメリカンスタイル。 そして、日本に一時的に滞在しているアメリカンの殆どは真剣交際を望まない。 カジュアルな交際という名の責任を伴わない関係を好む。 私はそんなもの求めていなかった。 彼に、どれくらい真剣に私の事を好きと思っているのか尋ねたところ、とても真剣に想っているとの返答。 だから私は思い切って切り出す事にした。 
日本人の交際の始め方を説明し、私と真剣に交際がしたいか、彼氏彼女になりたいかをストレートに尋ねてみた。 彼はとても嬉しそうに快諾した。 提案してくれてありがとうと言われた。 昨日出逢ったばかりでこんなに早々に付き合う事になると言うのは、なんのステップも踏んでいないのでおかしな事だと思わないかと聞くと、「なぜだかそうする事がとても自然な事に思えるし、確かな気持ちがあるから、時間をかける必要性を感じない」と言った。 私はこの瞬間から彼への躊躇を止め、信じようと決めた。 私達は出逢って20時間後の海の中で抱き合い、恋人同士となった。 私達は「I love you 」と言い合った。 LikeからLoveになったのだ。 それから誰もいない夕暮れの浜辺で語り合った。 お互いの過去の話、辛い思い出などについて。 私達はこの出逢いに強い運命のようなものを感じ合っていた。 どうしようもなく惹かれ合う。 まだ殆ど何も知らない同士なのに、ずっと一緒に過ごしていきたいと思う程の心の繋がりが確かにそこに在った。 手を繋いで元の岸へと泳いで行く。魚の大群に遭遇しては大騒ぎする私に、「これは何かとても特別な良い兆しだ」と彼は言った。 空には月が見えた。すっかり夜の海から上がった私の身体は冷えていたが、心はとても温かかった。 本当に、奇跡のような海だった。
私達は着替えて、食事に行く事にした。 今日は2人が恋人同士になった特別な日だから、私の食べたいものを食べに行ってお祝いしようと言う。 私達はお寿司が美味しいと評判のお店で新鮮な魚介を堪能し、記念日を祝った。 何もかもが怖いくらいに上手く進んでいた。

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