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「心の視覚」のありがたさ

もう二昔ほど前のことになるけど、当時、横浜の盲学校で写真教室をしていた管洋志(すが・ひろし:1945〜2013)さんが、
君たち、自分にとって一番大切なものを自由に撮ってきて
と言って生徒さんたちにカメラを渡した。

その中の一人、当時、小学校二年生だった女の子にとって、一番大切なものは一歳の弟の慎ちゃんだった。
菅さんが借してくれたカメラを持って家に帰った彼女は、慎ちゃんが眠るまで辛抱強く待った。うっかりカメラを向けると、まだ赤ん坊の慎ちゃんの好奇心を刺激して手に取ろうとしたり壊したりしてしまうかもしれないと心配だったからだ。
やがて、すやすやとお昼寝の寝息が聞こえてきた時、彼女はそうっとレンズを向けてシャッターを押した。

その写真を表紙にした写真集に、管さんはこうコメントしている。

初めてその写真集を見たとき、私は微笑みとともに涙が浮かんでくるのを感じました。トップを飾る「慎ちゃんのおひるね」からは、慎ちゃんの寝息が聞こえてくるようだったし、生徒さんたちも撮られている人たちも、みんな笑顔で、その笑顔がまた素直で素晴らしい。胸が熱くなって涙で写真がぼやけていくんですね。

『キッズフォトグラファーズ 盲学校の23人が撮った!』(新潮社 2008年)

実際、それは見事な写真で、人間的な温かみに溢れている。

この「温かみ」って何なんだろう?

よく「心眼」なんて言うけれど、心の目で見るものはみんな暖かいのだろうか?

だとしたら、目が見える我々は何か微妙に冷たい目で人間や世界を見てるんじゃないだろうか?

               *

実は、つい数ヶ月前、身共は右目に異常を感じ、ネットで調べてみたところ、その症状に当てはまる病気は、「下手すると失明するかもしれない」ということだった。
しかも、身共は右目だけでなく左目にもすでに障害があって、ずっと点眼治療しているところなので 、全盲になってしまう可能性もゼロではないな⋯⋯と、マジ落ち込んでしまった。

ところが、かかりつけの眼科クリニックはその日も翌日も臨時休業。
仕方なく初診の眼科クリニックに電話で問い合わせてみたところ、「今日はもう受付終了しましたが翌日なら大丈夫ですのでどうぞ」ということで予約しておいた。

その夜はずいぶん不安だった。
何しろ、下手すると一日十数時間もモニターに向かってることがあるような生活だし、目を酷使していることは確か。
視力に対してずっと可哀想なことしてきたな⋯⋯と。
と同時に、将来もしも目が見えなくなっても大丈夫なようにいろんな準備をしておくことも大切だし、必要だなと思った。

ついでに調べてみると、全盲以外にも、日本には推定145万人のロービジョン(Low Vision)な人たちがいるのだと知った。
眼鏡やコンタクトレンズとかを使っても日常生活に不自由をきたす状態で生活している人たちもたくさんいるんだ⋯⋯と。

そんな人たちに寄り添い、「"見えづらい"を"見える"に変えるプロジェクト:With My Eyes」のという取り組みがあって、株式会社QDレーザの”レーザ網膜投影技術”を応用したビューファインダーと、ソニーのサイバーショットDSC-HX99を組み合わせた「DSC-HX99 RNV kit」がリリースされたというニュースも⋯⋯。(案件ではありませんw)

正直言って個人的にはソニーはあんまり好きな企業ではないんだけど、なんか、ホッとしたというか、人間ってありがたいなぁと素直に思った。
先端技術に携わっている人たちの中にも、 本当に心の底から、困っている人の役にたちたいなと思って活躍している人たちがいるんだなと思い当たっただけで、すごくホッとして心強い気持ちがしたんだよね、マジ。

そのおかげか、その夜は意外にもぐっすり眠れた。

そして翌日、いざ予約した眼科クリニックに行って受診したところ⋯⋯

「大丈夫だよ。心配しなくていいよ、出血してないから」

と言われて、涙が出るほど嬉しかった。(;_;)

だけど、だからと言って、その状態がいつまでも続くとは限らない。
いや、いずれは死ぬんだし、永遠にってことはないよね。

だからこそ、今、こうして生命に恵まれていることが、どんなにありがたいことか、今更ながら、毎日噛み締めながら生きている。
そして、目に映る何もかもに、それぞれの温かみを感じながら⋯⋯。



*ちなみに、表題の合成写真は、noteのフリー素材に慎ちゃんの寝顔を重ねたものです。もしも著作権に問題があればこの記事の上側のXをクリックしてご連絡ください。すぐに削除しますので。>新潮社様

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