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ザ・クラッシュについて

 僕はロックが大好きだ。でも"ロック"なんてものを正面から論じようとすればするほど、その本質は見えなくなってくる。
 "ロックンロール"ならばある程度の定義はできるだろう。8ビートだとかペンタトニックスケールだとか言って。でもその音楽性に一貫性はないような、ビートルズもメタリカもレディオヘッドもThe1975だって、みんなロックバンドだと言われている。

 けれど僕は陳腐なロックスピリッツの話をしたいわけじゃない。もちろんロックスピリッツの話ではあるのだけれど、古臭い精神論ではなくて、2020年代にも通じるような、ある程度のロックの定義を試みたいと思っているのだ。

 そのロックを最も体現したバンドこそ、ザ・クラッシュだと思う。これから何回かにわたって、僕なりのクラッシュ論を述べていきたいと考えている。

 言わずと知れたパンクバンドである彼らは1976年に結成された。

ジョー・ストラマー(Vo&Gt)
ミック・ジョーンズ(Vo&Gt)
ポール・シムノン(B)
トッパー・ヒードン(Dr)(※1)

の4人で構成される彼らは、1977年にセルフタイトルアルバム(邦題『白い暴動』)でデビューした。
デビューこそセックス・ピストルズやザ・ダムドに遅れたものの、『White Riot』に代表される政治的な歌詞で人気を獲得した…………と世間一般では言われている。

クラッシュは"ロック"バンドだ


 確かに不況の続く英国で彼らの歌詞が若者たちの心を掴んだのは事実だろう。けれどセックス・ピストルズだって『Anarchy in the U.K.』が1stシングルだったわけで、政治的な歌詞だけが理由にはならないと思う。

 ザ・クラッシュの素晴らしさはジョー・ストラマーとミック・ジョーンズという2人のボーカリストがいたこと、そしてキャッチーなメロディー、素朴でわかりやすいコーラス、といった絶妙なポップセンスに尽きる。
 90年代以降のグリーンデイらのポップパンクの源流は、ハードコアパンクの激しさというよりも、クラッシュ的なポップセンスにあると思う。
 また1stアルバムでは『Police&Thieves』といったレゲエ/ダブの巨匠、リー・ペリーのカバーに早くも挑戦している。

 パンクをどう定義するか、それは難しい問題だが、「以前の文脈を全て無視した衝動的な音楽」がしっくりくるような気がする。例えばDr. Feelgoodがガレージロックリバイバルであってパンクと形容されないことからも容易に分かるだろう。彼らは過去の音楽の再定義を行ったわけだから、特にセックス・ピストルズとは根っこから違う。


 だから、「以前の文脈を全て無視した衝動的な音楽」がクラッシュにはそのまま当てはまらない。ジョー・ストラマーはR&Bとブルースの愛好者だし、ポール・シムノン以外は結成時から楽器経験者であった。そんな彼らをハイプだとするパンクスもいるし、僕はそれを否定しない(クラッシュがハイプならば誰がリアルなのか分からないが)。

 とにかく、彼らは過去の文脈にしっかり則っていたバンドであったのだ。少し言葉を変えれば、「きちんとお勉強をする」バンドだったとも言える。

 特に2ndアルバム『Give 'Em Enough Rope』(邦題『動乱(獣を野に放て)』)において彼らのポップセンスは開花する。

 『Safe European Home』『Tommy Gun』『Stay Free』……挙げればキリは無いがシングル映えするような曲ばかりだ。一方で『Julie's in the Drug Squad』でも再度レゲエ/スカへの接近を試みている。


 この頃、アメリカで1stアルバムが発売された。しかしUS盤では収録曲が大きく異なる。『(White Man) In Hammersmith Palais』(邦題『ハマースミス宮殿の白人』)、『I Fought the Low』といったアルバム未収録のシングルが収録された。結果としてクラッシュのポップさと音楽的探究心が垣間見えるアルバムとして、アメリカでも大きな評判を読んだようだ。

 個人的には前者(『ハマースミス宮殿の白人』)はクラッシュの最高傑作だと信じている。歪んだギターで始まりながらもレゲエ的なリズムに移行する。ジョー・ストラマーの哀感漂うボーカルも素晴らしい。

 この曲からもわかるようにクラッシュはもはや"パンク"なんて言葉で形容される存在ではなかった。果敢に挑戦を続ける彼らは、ビートルズやレッド・ツェッペリンのように"ロックバンド"としか言いようのないものだった。

 俗に言われるように『ロンドン・コーリング』でパンクから脱した、というわけじゃない。そんなことを言う人はパンクが何か分かっていない。精神性云々という話でもない。もう一度ニューヨーク・ドールズやラモーンズを聴き直してくるべきだ。クラッシュは過去を全否定したのではなく、ポップミュージックの文脈に自らを位置付けようとした。最初からクラッシュはパンクじゃなくて最高のロックバンドであったのだ。
 裏を返せば、"ロック"とは過去の文脈を背負っていくことなのだ、と僕は定義しているというとこだ。

こうした彼らの姿勢は大傑作『ロンドン・コーリング』で大きな実を結ぶが、それは出来れば……ね。

※1 ファーストアルバムのレコーディング中に参加。当初はニッキー・ジョーンズ名義

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