これは、ジェネシスの歴史上最初で最後の、即興演奏がレコーディングされた曲です。そもそも Headry Grange で、この曲のリハーサル中に5人のメンバー全員が超自然的なインスピレーションを感じたというようなエピソードがあり、大切にされていた曲なのです。また、ピーター以外の4人は、アルバム全曲をフルに演奏するツアーのステージで、即興でこの曲を演奏していたときが一番楽しかったと証言しており、イギリスでシングルカットされた The Carpet Crawlers のB面に Evil Jam というワーキングタイトルそのままのクレジットでこの曲のライブバージョンが収録されたのも、そういういきさつからだったのでしょう。
【テキスト】【歌詞】とその内容
【歌詞】はもちろんありませんが、【テキスト】ではこのように表現されています。
ここで、前曲の最後に登場したTwo goleden globes(2つの黄金の球)が、non-metallic(金属的でない)回転音を発しながら、光り始めたのかと思うと、実はそうではなく、洞窟全体が明るくなっているようなのです。
そしてレエルが光に向かって石を投げると、「ガラスの割れる音」(*1)が響き、光が収まるのです。レエルが初めて Two goleden globes を認識するのはこのタイミングです。そしてその後洞窟が崩れて、レエルは埋もれてしまうのです。
洞窟にひとり残されて恐怖に駆られたレエルは、この光に「石を投げる」という行為に出るわけです。そして洞窟が崩れてくるというのが、この曲が表現しているシーンです。
この、暗いトンネルから光が近づいてくるというモチーフは、ジョン・C・リリーの言う、photismという現象と関係があるようで、さらにLSDの体験や、臨死体験も連想させるもののようです。また、様々な宗教における救済の教えにおいて、光というのは、救済と贖罪の象徴であるわけです。
素直に考えれば、この2つの球体は、Lilith が「彼らがやってくる」と予告したものであり、レエルに救済をもたらす使者であるはずなのですが、結局レエルはまた、パニックとなって石を投げてしまうわけです。つまり、ここで試されたレエルは、再び暴力に訴えることによって、「救済の道を自ら絶ってしまったのだ」という解釈が一般的なようです。(この流れであれば、Lylywhite Lilithが、レエルを欺いたというのはちょっと考えすぎと言うことになると思います)
ただ、【テキスト】では、レエルが石を投げた後に「ガラスが割れる音」が響き渡ると書いてあるのですが、曲をよく聴くと、明らかな「ガラスの割れる音」は、曲調が転換する爆発音のパートより前に出てくるんですよね。すると、この爆発音は、洞窟の岩が崩れてくるシーンなのかとも思うのですが、この辺は【歌詞】の補足が無いため、ちょっと?な部分かなと思います。また、レエルが「石を投げる」場面の音は入っていないという意見が多いようなのですが、これもわたしにはどうも判断がつきません。さらに言うと、レエルはここで崩れてきた岩に埋もれて死を待つ心境になるわけですが、ここでポジティブな雰囲気の曲調になるのは、ちょっと早いような気もするのです…。
つまり、彼らがこれまでやって来たことを考えると、ちょっと【テキスト】とサウンドに齟齬があるような気がするのです。この辺の齟齬については、あまり論じられていないようなのですが…。やはり Headry Grange でのセッション時の出来が良かったためにそれがそのまま収録されたわけですが、その時点でまだストーリーがそれほど固まっていなかったことが、こういうところに表れているような気がします。
音楽解説
曲は冒頭、暗闇の洞窟内にまたひとりで取り残されたレエルの不安や混乱を表現するような雰囲気でスタートします。そして曲の中盤、爆発音のあと、曲はポジティブな力強さを表現して、次の曲につながるわけです。
曲は最初の段階から即興演奏で行われました。フィル・コリンズの証言です。
この曲のリハーサルは、ある日の夕方の5時か6時頃から、カーテンを閉めたHeadly Grange の室内で始まったそうです。トニー・バンクスはこう証言します。
そして、この体験に全員が何か超自然的なものを感じ、5人の一体感を感じたのだそうです。再びフィル・コリンズの証言です。
このとき、曲の後半、トニー・バンクスが2つのシンプルなコードを交互に使ってポジティブなムードへの移行を開始した瞬間、雲が切れて太陽が顔を出し、虹が出現したのだそうです。
そして、彼らはこのHeadly Grangeでのセッションこそ、最高のものだったと口を揃えるのでした。
と、メンバーがそろって Headly Grange でのこの瞬間を絶賛しているのです。ロバート・プラントに「幽霊屋敷」と断言された Headly Grange において、何か超自然的なものをメンバー全員が感じた瞬間だったのでしょう。
ところが、いつもドラムスティックで、愛用のナカミチのカセットデッキの録音ボタンを押してセッションの録音係を務めてきたフィル・コリンズが、このときだけ録音ボタンを押すのを忘れていたために、この演奏は残されていないのです。
そして、その後ウェールズの Glasspant で、8月19日に丸1日かけて何テイクもの即興演奏がレコーディングされましたが、結局アルバムに収録されたのは、その日の1stテイクだったのです。
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【注釈】
*1:この音については、プロデューサーのジョン・バーンズがこのように語っています。