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春の浜松。新しい住宅街にある珈琲屋さんのコーヒーとオーナーが素敵すぎた。 2024.03.16

私はコーヒーが苦手です。
ですが、コーヒーを味わうことにすごく憧れがあります。
『違いが分かる』的な。CM、笑。

普段は、豆でもドリップパックでも
深煎りの苦み強、コク強をチョイスして、
珈琲と同量の牛乳を入れて飲んでいます。
しかし、苦手なりに

『コーヒーは酸味を味わえてこそ』

という憧れがあります。
なので、いつも旅先で良さそうな珈琲屋さんを見つけると、
少し背伸びをして、
美味しい酸味を味わえるコーヒーを求めてしまいます。

*****

春、
朝晩はまだ寒さが残る頃でも
浜松は穏やかな気候でとても気持ちがいいです。
浜松駅に近いホテルは部屋から遠州灘を見渡せて、
晴れの早朝、霞がかかった水平線がいかにも春です。

宿泊プランに朝食をつけていないので、
近くのパン屋さんへ行くことにしました。

ホテルからパン屋さんまでは、
平坦で広い道路と舗道が碁盤の目に延び、整った区画が並んでいます。
新しい街、といった感じです。
あとで航空写真を見比べたところ、2000年代に区画整理があったようです。

土曜日の早朝は通学・通勤の方がとても少なく、
舗道も車道も静かで、のんびり歩くのにちょうどいいです。
風は冷たいですが日差しが暖かくて、
コートの前を閉める必要を感じません。

パン屋は8年振りのリピートです。
美味しいのはすでに知っているやつです。
店が見えてきたのは開店5分前。
手前15mからいい匂いが漂っていました。

9時の開店で、
ローストビーフサンドイッチ、ベリーのベーグルなどを買いました。
帰りの新幹線でのおやつ用には、
スコーン2種と洋ナシのデニッシュ。買い過ぎww

ホテルまでの帰り道は、行きとは違う道を通ることにしました。

こだわっていそうな喫茶店を検索した時に
気になった珈琲屋さんのひとつが、
パン屋さんの近くにあります。
ついでにお店の様子を見てみたかったのです。

それが、素敵すぎるコーヒーとオーナーのお店でした。

開店は11時なので入れないのは承知しています。
ですが、路面に面した店の前に着くと、
ガラス張りの店内に明かりが灯っていました。

あれ? まさか入れるのかな?

期待を込めてガラスの扉越しに中を覗いてみました。
ですが、東側に面したお店は、
ガラスが朝日を反射してしまって店内の様子がよく見えません。

それでもしつこく中を覗いていたら目が馴れてきて、
少し店内の様子が分かるようになってきました。

正面の壁に、コーヒー豆が入っているらしい小袋が並んだ棚があります。
棚の下にはコーヒー豆が入っていそうな麻っぽい大袋。
なにか分からないけど大きめの機械も見えます。焙煎機かな?
思った通りこだわっていそうで、わくわくします。

テーブルとイスもあるから中で飲めそうだなあ。

と思っていたら・・・

こちらから見て右手にあるカウンターの内側に、
男性が立っているのが見えました(!)

しかも、こっちをじっと見ています(!!)

―——うわっ!

びっくりしたのと、
覗いているのを咎められている気がしたのとで、
思わず身を仰け反らせました。
それから、若干逃げるように店を離れたのは言うまでもありません…。

ホテルの部屋に戻り、
部屋のコーヒーを淹れて(コンビニで牛乳を買い足した)、
遠州灘を眺めながら買ったばかりのパンを食べつつ、
チェックアウト後のプランを立てました。

まずはお土産調達。春華堂(うなぎパイ)と漁港組合(鰻)はマスト。
買い物が終わったらお茶にしたい。
もちろん、珈琲屋さん。候補は3つあります。ありますが・・・

一番入ってみたいのは、さっきの珈琲屋さん。
ところが、さっきは不審者みたいなことをしてしまって、
改めて訪れるのは気が引ける。
けど・・・

やっぱりあの珈琲屋さんへ行きたいなあ…。

ローストビーフの旨味を感じながら、
お店の人が朝の不審者を忘れてくれていることを願って
あの珈琲屋さんへ行くことに決めました。

チェックアウト時に荷物を預け、
駅ビルと商店街でお土産調達を終え、
11時を回ったところで
もう一度あの珈琲屋さんへ足を運びました。

今度はちゃんとオープンしていました。

おそるおそるガラスの引き戸をスライドさせると、
奥からオーナーが出てきて迎えてくれました。
朝、カウンターに立っていた方かどうかは判別つきません。

ちょっと無表情気味でよく分かりませんが、少なくとも
「あっ、朝覗いてたやつだな?!」
と思っているようにはまったく見えませんでした。
(そう思っていたとしても顔に出すわけないですよね)
少し、ほっとしました。

テーブルはこじんまりとみっつ。全て空いていました。
窓際の席を選び、窓を背にして座りました。

まずはメニューを確認。
あった! ケーキセット! 
しかもケーキは自家製!!

さきにコーヒーを選びます。

こだわっていそうなお店では、
『酸味』がメインのコーヒーを飲む。
と、決めています。

けど、知識の浅い私なので、

酸味=フルーティ=エチオピア

の一択。なんとかの一つ覚えです。汗
メニューから『エチオピア イルガチェフェ』を選びました。

次はケーキ。
選択肢は、シフォンケーキ、チーズケーキ、プリン。

コーヒーはフルーティな酸味が特徴なので、
きっと『優しい甘さのシフォンケーキ』
が、正解なんだろうな・・・。
というのは分かっています。
いるけど、選んだのは、

プリン!

カラメルの苦みが主張してきて
エチオピアにはちょっと辛いだろうことは分かってる!
でも!

『喫茶店のカスタードプリン』

という名を前にして、理性は勝てない!!

そして、到着したプリンは目を瞠るほどの大きさ!

思わずオーナーを見上げて
「食べ応えありそうなプリンですね!」
と言ってしまいました。

オーナーは控えめな笑顔で(食い気味の私に苦笑いかも)、
「ぼく自身がこういうプリンが好きなので」
と答えてくれました。期待、増。

プリンに行きたい気持ちはありますが、
ここは先にコーヒーです。

カップは色鮮やかに花や鳥が描かれていて
とても可愛らしいです。
やっと暖かくなった浜松の陽気と、
エチオピアの華やかさに合わせたのかな?

そんなことを思いながらカップを持ち上げると、
華やかな香りが鼻先で漂いました。
期待が膨らみながらひとくち含むと、
爽やかですっきりした酸味が口の中に広がりました。

雑味はもちろん、
フルーティさを損なってしまいかねないような強い苦みも感じません。

軽やかなエチオピア。
わあ・・・
いままで飲んだ酸味の中で一番おいしい・・・!

プリンは見た目通りのしっかりした固さ。
期待を裏切らないどっしりしつつも甘すぎないカスタード。
カラメルの苦さも強すぎなくて、
確かに『喫茶店のカスタードプリン』です!

やっぱりちょっとエチオピアには辛かったかな…
とは思うものの、それはそれ、これはこれ!

それにしても。
ほんとうにこのエチオピアの爽やかな酸味が美味しい。
オーナーの腕の良さが成せる業に違いない。

私は酸味が立つコーヒーが苦手だと思っていたんだけど、
つくづく自分の淹れ方がへたくそなだけだったんだなあ…。

飲み終えたカップの底を見たら、ウェッジウッド。
素敵なカップだなあ。

店内を見回すと、
カウンターの奥のキャビネットにたくさんのカップが並んでいました。
カップにもこだわる珈琲屋さん、いいなあ。

まだ帰りの新幹線には時間が余っていたけど、
そろそろ帰ることにしました。

カウンターでお会計をする時に、
「すごく美味しかったです!」
と、オーナーへ満足と感動を伝えました。
お礼を言う時はシンプルに言うことにしています。

オーナーは嬉しそうに見える笑顔で、
「良かったです」
と言ってお釣りをくれました。

受け取ったお釣りを財布へ入れながら、
「酸味のコーヒーは苦手と思っていたんですけど、
 自分の淹れ方がへたなだけだったんだなあって思いました」
と言ってみました。

酸味のコーヒーのほんとうの美味しさを知りました、
という気持ちを込めて。

そうしたら、オーナーが思わぬことを教えてくれました。

「ここでは、エチオピアを淹れる時のお湯は82度なんですよ」

えっ!

驚きました。
お湯の温度にもですが、
テクニックを惜しげもなく教えてくれたことにです!

私「えー! そんな低い温度で?!」
オーナー「普通は85度くらいですけどね」
私「えっ、ちょっ・・・豆、買いたいです!」
反射的に棚から『エチオピア イルガチェフェ』を手に取りました。

「自分では美味しく淹れられる気がしなかったんですけど・・・
 ちょっとチャレンジしてみます!」
そう言った私に、
オーナーがちょっと待ったという風に教えてくれました。

「確かに温度が低いと要らない味が出ないんですけど、
 それは旨味も出にくいということなんです」

あ・・・そうか。
でも、

「さっき飲んだエチオピアはほんとうに美味しかったです」
「コツがあるんですよ」
そう言ったオーナーは少し得意そうでした。

―——ほかでは真似できない自信があるんだ・・・!

はっと気づいた私に、オーナーはにっこり笑って言いました。
「まずは85度で淹れてみたらいいですよ」

82度のコツを教えてください!なんて無粋なことは聞きません。
聞いたところで、オーナーと同じようには淹れられないだろうしなあ。
ファーストステップ、85度で淹れてみよう。

カップについても色々教えてもらいました。
現行品のウェッジウッドやコペンハーゲン。
オールドノリタケ、ヘレンド。
きれいな赤は、コペンハーゲンのアンティーク。
コペンハーゲンに赤があるのを初めて知りました!

勝手に口下手な方かと思っていたのですが、
ひとつ聞くと10教えてくれる方で、
テンポよく続く会話がとても楽しかったです。

次のお客様が入ってきました。

最後、店を出る前に
「次は違う種類を飲みに来ます」
そう言った私に、
「県外の方ですか?」
とオーナーが聞いてきました。

「はい。仕事で来ました」
「やっぱり。うなぎパイをお持ちだから」
と言ったあとオーナーは茶目っ気たっぷりに、
私が下げている春華堂の紙袋を指さしました。
私は思わず笑ってしまいました。

*****

美味しいコーヒーとプリン。
素敵なカップに、
話し上手のオーナー。

初めに不審な動きをしてしまって
再訪することをちょっと躊躇ったけど、

「行きたい!」

という自分の直感に素直に従って、
本当に良かったです。

そして、
美味しかった感動を
ちゃんと伝えて良かったな、と思いました。

帰りの新幹線の中で食べようと思っていたスコーンとデニッシュは、
家に帰ってから、
85度で淹れた『エチオピア イルガチェフェ』と一緒に食べました。
もちろんオーナーのエチオピアには遠く及びませんが、
豆自体も美味しいことが分かりました。

美味しいけど少しもの足りないコーヒーを飲みながら、
近々、また浜松へ行く予定があるので、
その時には必ずまたここへ来ようと決めました。

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