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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第3話前編 個性と書いて主役と読みたい(サウナ&ホテルかるまる 池袋)

東京、池袋。言わずと知れた繁華街だ。
人、物、お金、情報…
そういった類の何かを求め、人々はこの街にやってくる。そしてその1人1人が、この街の喧騒を織り成していく。
そんな喧騒を見下ろすかのように、もしくは見守るかのように、そのビルは存在していた。

サウナ&ホテルかるまる 池袋

都内屈指の人気を誇るサウナだ。
湯に つかる
宿に 泊まる
古来より伝わる日本の至福が、「かるまる」には込められている。
にもかかわらず、私は「まる」の部分を経験したことがない。
その想いを余すところなく感じるために、今回は宿泊付きでお邪魔させていただいた。

エレベーターで6Fフロントへ。
ドアが開くとまず目に入るのは、足元の岩。靴を脱ぐ場所である玄関のたたきが岩でできているのだ。
こんなところまでうちはこだわってますよ、だからサウナも期待しててくださいね。
そう言われているように感じた。
受付後に館内着を選び、のれんをくぐる。
そこには無数のロッカー。
毎日こんなにたくさんの人を癒しているのか。
おのずと期待が高まっていく。
館内着に着替え、早速大浴場の9Fへと向かった。
脱衣所にはたくさんの人々。月曜17時でこの人数か。凄い人気だ。
ロッカーに館内着を押し込み、いざ。

自動ドアの奥に一歩入ると、まず目に飛び込んでくるのは、樽。
ライトベージュ色の木材で作られた樽が、センターに堂々と居座っている。
これは蒸サウナと呼ばれる、1人用の薬草スチームサウナだ。以前に1度入ったことがある。
基本的にスチームサウナは、椅子に座ってしまえばじっくり居座れることが多い。熱い空気は上に行きやすいからだ。
しかしここの蒸サウナはとんでもない。
薬草の芳醇な香りが充満しているのはもちろんのこと、とにかく熱い。50℃程度だが1人用の狭い空間のため、室内全ての蒸気が襲いかかってくる。
生半可な覚悟では入れない、そう感じたサウナだった。

さて、体を清めた後まず向かったのは、炭酸泉。
冬場は身体が冷えていることが多いため、サウナ前に軽く湯通しすることにしている。炭酸ガスがしっかりと含まれているため、表示温度以上に温かく感じる。ここでしっかりと準備を整え、水気を拭き取った後はついにサウナへと向かう。

1セット目は、岩サウナ。
庵治石という耐久性の高い石が、壁全面に使われていることから岩サウナと呼ばれているらしい。
てっきり大量のサウナストーンがあるために岩サウナなのだと思っていた。そう思わせるくらい、これでもかとサウナストーンが詰め込まれている。
そして何より驚くべきは、5段にもなる階段。
山をも想起させる圧巻の高さ。山サウナと改名しても誰も文句を言わないだろう。
各段ごとに、右側3人、通路を挟んで左側2人分座ることができる。さながら新幹線の配置だ。混み合っていたため、私は最下段の1C席に腰かける。
1段目だからぬるいだろうと侮っていたが、とんでもない。眼前には大量のサウナストーン。完全にここがセンターだ。熱い空気は上へと移動するが、ここはその通り道ではないか?そう思った時にはもう後の祭り。大量の汗が身体から逃亡し始めていた。

9分ほどでサウナ室から出てシャワーを浴びる。そして水風呂、サンダートルネードへ。
ここはシングル水風呂。
シングル、すなわち水温が1桁台という意味だ。
温度計は8.6℃を指している。
いざ入水。するやいなや、文字通り体に雷が落ちたかのような衝撃。冷たすぎる。
さらに特筆すべきは「トルネード」の部分。
水風呂全体で水流が作られているため、いとも容易く羽衣が壊されてしまう。この嵐に巻き込まれたら最後、どんなに勇敢な鳥の羽をも捥ぎ取ってしまうのだ。

数十秒で命からがら抜け出して椅子を探す。
タイミングが悪く空いていなかったため、室内の中央に位置する階段を登り10Fへ。
浴場と外気浴スペースとをつなぐ間の通路にも座れる場所があったので、そこに足を伸ばして腰を落ち着ける。やっと見つけた安息地。
何とか生きながらえたことを称えるかのように、心臓が拍手を打ち続ける。しばしの幸福の時を、心ゆくまで楽しんだ。

2セット目はケロサウナへ。
別にカエルが喜びそうなほど湿度に富んだサウナ、という訳ではない。
ケロ、とは樹齢200年を超える欧州赤松が立ち枯れた稀少な木材、らしい。
室内に入ると、柔らかくも暖かいケロの香りが鼻に挨拶する。ライトベージュの明るいケロ材とは対照的に、室内は暗めだ。
まるで山小屋のような空間、雰囲気はバッチリだ。
そしてセルフロウリュが可能なサウナでもある。
ただ座ってすぐ気づいた。直前に誰かやりましたね?
アロマ水の芳しい香りとケロの暖かい香りが合わさる。ここでしか体験できない空間。じっくりと身を委ねる。気づくと10分が経過していた。

ただ山小屋に嵐はつきもの。サンダートルネードに再挑戦。そして今回は、思い切って潜ってみた。
頭から汗をしっかり洗い流していれば潜水が許可されている、何とも素晴らしい水風呂。頭からつま先までしっかりと冷やされた。
すぐ近くの椅子が空いていたので、倒れ込むように背中を預ける。足を伸ばせるように踏み台があるのが地味に嬉しい。じっくりと休憩を堪能した。

一度タオルを替えるために浴場の外へ。というか、タオルを替えられるのがまず嬉しい。
そして備え付けのお水を頂戴する。ここの飲み水にはみかん?レモン?が薄くスライスされたものが入っていて、ほんのりと柑橘系の味がする。細かいところにも一切の妥協なくこだわり抜いている点に脱帽しっぱなしだ。

そして3セット目に向かおうと浴場に戻ると、岩サウナ付近に2〜30人の列。何だこれは?と思っていると、従業員の方が説明を始めた。
薪サウナの抽選会。
毎時45分(平日の場合は17:45〜22:45)に、次の1時間分の定員枠(3枠計15名)の抽選を行うのだ。
私が1年半ほど前に来た時は、薪サウナの前に30分ほど並んで入室していたが、システムが変わったのか。確かに薪サウナは外気浴スペースから入室するため、30分も寒空の下で待つのは不可能に近い。
私も遅ればせながら列に並ぶ。約30人の列に対して定員枠は15人のため、確率は約50%だ。
サウナに入っていないのに、自ずと鼓動が高まる。列が前に進むたび、つい大きめに1歩踏み出してしまう。
そしてついに自分の番。王様ゲームの要領で竹串を引き抜き、黒丸が書かれていれば当たりだ。直感に身を任せ、嶺上牌をツモるかの如く手を伸ばし、竹串を引き抜く。果たしてこの右手が引き抜いたのは王の黒印か、それとも…

長編になりそうなので、次回に続きます!


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