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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第7話 身近な幸せに気付けたなら(向島銭湯 薬師湯)

温泉、サウナ、銭湯〜♪
温泉、サウナ、銭湯〜♪
キャッチーなメロディーが玄関でお出迎え。
昭和な雰囲気漂う店構えとは対照的だ。
ここはスカイツリーから最も近いお湯処。
向島銭湯 薬師湯
そして自宅から最も近い銭湯サウナでもある。
近すぎるが故に訪問が先延ばしになっていた。
自宅から徒歩2分。私は 銭湯のススメのれんをくぐった。

受付にて、入浴・サウナ・タオル料金を支払う。730円。やはり銭湯は安い。燃料代高騰してるけど大丈夫かな。
タオルを受け取って脱衣所へ向かう。
古き良き銭湯という雰囲気がたまらない。
臙脂えんじ色のロッカーは十分な大きさ。ふと気になったのは、最上段のロッカーには人名が入っていること。
なるほど、ボトルキープのようにその人専用のロッカーがあるらしい。銭湯というものは、地元民の生活そのものに深く根ざしているようだ。

妙にほっこりした裸が、浴場の扉を開ける。
入口で椅子と桶を手に取り、洗面所に腰を落ち着ける。
シャンプーとボディソープは無料備え付け。銭湯では備えられていないケースもあるのでありがたい。
首だけが直接配管されているシャワーで身体を洗う。ホースがなく身体の隅々までシャワーで洗い流すことが難しいため、桶も活用しながら丁寧に身体を清める。
シャワーを終えてまずはお風呂へ。ここは百種の日替わり湯を謳っており、毎日違うタイプのお風呂が楽しめるようだ。
本日のお湯は、桜の香。ヤマザクラ花エキスが配合されているらしく、浴槽はめっちゃピンク!一足早いお花見気分でお風呂を堪能。熱めの湯加減でしっかりと身体に湯通しした。

ちなみにこの日替わり湯、他にも面白いものがたくさんある。
HPを少し覗いただけでも、カユピスホットウォーター湯、ビール風呂、スパークリングワインwithチルアウト湯、チョコ冷凍ディスコ、などなど。。
どんな居酒屋のドリンクにも負けないバリエーションぶりだ。どんなお風呂なのか全く想像がつかない。これは都度チェックして通うことになりそうだ。

そして、ついにサウナへ。
入口にあるビート板を軽く洗ってから、重い木の扉を開けた。
一歩中に入ると、入口横には身の丈ほどの巨大なサウナヒーター。こいつが室内の温度管理を一手に引き受けている。
ベンチは2段あり、それぞれ3人ずつ座ることができる。時刻は22時半だが、比較的空いていたので上段に腰掛けることができた。
遠赤外線のドライサウナ。思っていたよりも熱い。
おそらく室内があまり広くないことと、天井が低いことに起因しているだろう。上段に座ると、頭から天井まで2,30センチほど。
生み出された熱は逃げ場がなく、サウナーに襲いかかるほかない。
座高ってこのために測っていたのかな。そんなことを考えていると、次第に汗が滲み出てきた。
ゴ、ゴーッ。
時折サウナヒーターがうめき声を上げる。その度に少し部屋の温度が上がったような気になる。
そんな室内を楽しみながら、はや9分。
熱さに限界を迎え、私は外に出た。

扉を開けて左手に進むと、ととのい椅子が2脚。
その椅子に対してさらに左に目を向けると、隠れるように水風呂が存在していた。
3人ほど入れる水風呂に、贅沢に1人で身体を沈める。温度は20℃弱くらいだろうか、いつもより長く浸かってみる。次第に薄い羽衣が全身を包む。リラックスの極致、とても気持ちいい。

2分弱の水風呂を堪能すると、すぐに真横の椅子へ。
ようやく辿り着いた安堵の空間。
少し開いた窓から夜風が舞い込む。
それに呼応するかのように血が巡り出す。
こんなにも近くにあったささやかな幸せ。
それをじっくりと噛み締めながら、至福の時を堪能した。

少し混み合ってきたので、2セットで切り上げて脱衣所へ。
2セット目の終わりがけ、水風呂に打たせ水があることに気づいてしまったが、それは次の楽しみに取っておくこととしよう。
ドライヤーは2分10円のコイン制。昔ながらのスタイルに味を感じながら、髪の水気を吹き飛ばしていく。
鏡に反射する脱衣所の風景。そこに映る人々は、年配の方と若者とが半々ずつ。幅広い層に支持されている銭湯、薬師湯。これからも幾度となくお世話になることだろう。

タオルを受付で返却して外へ出る。湯上がりの爽快な気分に身を任せて少しだけ遠回りしてみるが、3分後。もう家は目の前だ。
贅沢なフルコース、気軽に行ける定食屋、どちらも違った良さがある。
そんなことを考えたいが、あのメロディーが頭から離れない。
温泉、サウナ、銭湯〜♪
温泉、サウナ、銭湯〜♪
私は思考を止め、家のドアに手をかけた。

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