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Speech by Chair Powell on the Economic Outlook

2023年8月25日

カンザスシティ連銀主催経済シンポジウム
"世界経済の構造変化"
Structural Shifts in the Global Economy

Inflation: Progress and the Path Ahead
ジェローム・H・パウエル

ワイオミング州ジャクソンホール


こんにちは。

私は昨年のジャクソンホールで、簡潔で直接的なメッセージを述べました。

今年の発言はもう少し長くなりますが、主な内容はあまり変わっていません。

インフレ率を2%の目標まで引き下げることがFRBの仕事であり、私たちはこれを成し遂げるでしょう。

我々はこの1年間、政策金利を大幅に引き上げました。

インフレ率がピークアウトしたことは歓迎していますが、依然として高止まりが続いています。

必要であればさらなる利上げを行う用意があり、インフレ率が目標に向かって持続的に低下していることを確認するまでは、経済にとって制限的な金利水準を維持するつもりです。

本日は、これまでの我々の政策を振り返り、デュアル・マンデート(ふたつの責務: 雇用の最大化と物価の安定)を実現する途上で、我々が直面する見通しと、その不確実性についてお話しします。

そして、それらが金融政策にどのような影響を与えるのかについて、スピーチの最後で述べたいと思います。

今後開催されるFOMCでも、これまでの経過をよく踏まえたうえで、公表される経済指標や先行き見通しのリスクに基づいた適切な政策判断をするでしょう。


これまでのインフレ低下について

現在進行中の高インフレのエピソードは、非常に旺盛な需要(Very Strong Demand)とパンデミックによる供給制約(Constrained Supply)の衝突によって発生しました。

インフレ率を低下させるため、昨年3月に利上げサイクルに移行した段階で明らかに必要だったことは、前例のないパンデミックによって引き起こされた需給不均衡の解消(Unwinding of Demand and Supply Distortions)と、需要を抑え、供給が追い付く時間の確保ができる金融引き締め政策でした。

このふたつのパワーは今もインフレ率の低下に作用しており、直近の指標でも良好な傾向を確認することができましたが、今尚長いプロセスの途中に過ぎません。

前年同月比PCE価格インフレ率は、昨年6月の7%をピークに、先月7月には3.3%にまで低下しました。

図1-A

ロシアの対ウクライナ戦争による影響は、2022年初頭以来、世界の主要なインフレ指標の変動要因となっています。

全品目が対象の代表的なインフレ指標は家計や企業に対して、最も身近に感じるものであり、この指標が低下したという知らせはグッドニュースです。

しかし、食料品やエネルギーの価格は、依然として不安定な世界的要因の影響を受けており、本質的なインフレの方向性を示すシグナルとしては誤解を与えかねません。

ここからは、食料品とエネルギー価格を除いたコア価格指数に焦点を絞っていきます。


コアPCE価格指数

Core Personal Consumption Expenditures Price Index

前年同月比コアPCEインフレ率は昨年2月の5.4%をピークに徐々に低下し、今年7月は4.3%でした。

図1-B

6月と7月の前月比コアPCEインフレ率が低下したことは歓迎すべきことですが、これらの良好なデータというのは、インフレ率が目標の2%に向かって持続的に低下している確信を得る始まりに過ぎないでしょう。

このような低水準がどの程度続くか、また基調的なインフレ率の数値が今後の数四半期にわたってどの程度の位置に落ち着くのかについては、まだわかりません。

前年同月比コアPCEインフレ率
は依然高水準であり、安定した水準までには、まだ多くの課題を克服する必要があります。

コアPCEインフレ率押し上げ要因の分析をする場合、3つの幅広い構成要素― モノなどの財の価格・住宅サービスの価格・非住宅サービスの価格、これらを個別によく検討することが有益でしょう。

図2


コア財価格

Core Goods

コア財インフレ率は、金融引締め効果と改善しつつある需給不均衡によって、低下していて、特にコア耐久財では急低下が見られており、その中でも自動車セクターで顕著に現れています。

パンデミック初期には、低金利・財政移転・対人サービス支出の減少・公共交通機関の利用減少・非都市型居住スタイルなどの変容に支えられ、自動車の需要が急増しました。

しかし、実際には半導体不足などを要因として、自動車の供給台数は減少しました。

その結果、自動車価格は急騰。

大量の買い控え需要が発生しましたが、パンデミックの影響が和らぐにつれ、生産台数と在庫は増加し、供給が改善しました。

ところが今度は、金利上昇によって需要減少が発生しました。

自動車ローン金利は昨年初めからほぼ倍増しており、消費者は金利上昇の影響から自動車の購入に適した時期ではないと感じていることが報告されています。

自動車インフレは、こうした複雑な需給要因を経て、大幅に低下しました。

同様の力学はコア財インフレ率全体で確認できます。

金融引締めの効果は、時間経過とともにより拡大します。

前月比コア財価格は過去2ヵ月続落しましたが、前年同月比コア財価格はパンデミック前の水準を大きく上回っています。

継続的な進展と、この達成のためには制限的な金利水準を維持する必要があるでしょう。


コア住宅サービス価格

Core Housing Services

金利に敏感な住宅セクターでは、金融政策の影響は利上げを始めてからすぐに顕在化しました。

昨年、住宅ローンの金利は倍増し、住宅着工・販売件数ともに減少し、住宅価格は急落しました。

賃料の伸びも間も無くピークに達し、その後着実に下落しました。

図3

一方で、遅行性を持つ住宅サービスインフレ率に変化が現れるまでには時間を要するのが通例とされますが、最近になってようやく下落に転じました。

住宅サービスインフレ率は賃貸物件の家賃変動(OER)の他、住宅を所有する不動産オーナーが貸出し中の物件から発生する家賃収入の推定値(RPR)によって算出されています。

市場賃料の成長鈍化が住宅サービスインフレ率に反映されるまでラグがあるのは、通常、家賃は頻繁に変更するものではなく、賃貸契約更新のタイミングに行われるものであることから、今回のケースでも同様に賃料低下から随分と遅れて住宅サービスインフレ率への影響が現れたのだと思われます。

新規契約時の賃料については、この1年で確実に下落しており、既存の家賃への拡がりも始まっていることから、今後1年間は住宅サービス価格に影響を与えると予測しています。

賃料の伸びがパンデミック前の水準に落ち着けば、住宅サービス価格も、パンデミック前の水準に向かって低下するはずです。

住宅サービス価格の上振れ・下振れ両リスクに注意を払いながら、引き続き住宅市場の動向を見守る必要があるでしょう。


コア非住宅サービス価格

Core Non Housing Services

コアPCE価格指数の半分以上を非住宅サービス価格が占めていて、医療・保険・空運・陸運・宿泊・フードサービスなど幅広いサービスが存在します。

利上げを開始して以来、前年同月比は横ばいが続いています。

しかし、3ヵ月前や6ヵ月前と比較すると、インフレ率は低下しており、良い兆候も現れています。

これらのサービスの多くが、世界的な半導体不足の影響をあまり受けず、また一般的にビジネスに関連するサービスも多く、需要が比較的安定していることから金利感応度が低くなっていると思われます。

また、これらのサービスの生産は比較的労働集約的であり、依然として逼迫している労働市場と深い関係があると推測されます。

セクターの規模を考えた場合、価格安定は取り戻すためにはこの状況を突破しなければなりません。

需給不均衡を改善するためには、制限的な金融政策を継続する必要があり、そうすることで主要セクターのインフレ圧力は低下するでしょう。


先行き経済の見通し

インフレ率に一定の下押し圧力を加えるためには、パンデミックに起因する需給不均衡解消の動きを当分継続する必要があることから、制限的な金利水準を維持することがポイントだと考えています。

インフレ率を持続的に2%にまで低下させるには、米国のGDP成長率が最近の平均以下で推移すること、また労働市場の軟化が必要です。

経済成長

昨年のジャクソンホール会議以降、2年物国債の実質利回りは約2.5%上昇し、10年物国債の実質利回りでも1.5%近く上昇しています。

他にも例えば、鉱工業生産の伸びは鈍化し、住宅投資額は5四半期連続で減少している。

図4

しかし、我々が想定していたよりも堅調な経済活動が続いているのが現状であり、この動向については注視し続けねばなりません。

今年発表されたGDP成長率は予想を上回り、長期トレンドも上回っています。

さらに、引締め開始後、早い段階で急減速した住宅セクターでは、回復の兆しさえ現れ始めているのです。

経済成長がトレンド以上の水準で推移していることを示す新しい指標が公表されて、インフレ収束の道のりが否定された場合には、さらなる利上げが正当化される可能性があります。

労働市場

この1年、労働市場のリバランスに取り組んできましたが、まだ不十分です。

25歳から54歳までのプライムエイジの労働参加率の上昇と、移民の受け入れを拡大したことによって、労働力の供給はパンデミック前の水準にまで回復しています。

実際、プライムエイジの女性の労働参加率は6月に過去最高を記録しました。

供給サイドだけではなく、需要サイドも鈍化しています。

求人倍率は依然として高いものの、低下傾向にあり、また、雇用者数の伸びは著しく鈍化しています。

総労働時間は過去6ヵ月間横ばいが続いていて、平均週間労働時間はパンデミック前のボトム水準にまで減少しており、労働市場の状況が徐々に正常化していることを反映しています。

図5


このリバランスが賃金上昇圧力の抑制に寄与しています。
賃金上昇は、ゆっくりした速度ではありますが、確実に鈍化を続けています。

図6

名目賃金の上昇率は、最終的に2%のインフレ率に釣り合う水準にまで減速しなければなりませんが、家計にとって重要視されるのは実質賃金の上昇率です。

名目賃金の上昇率が鈍化しても、インフレ率の鈍化幅のほうが大きければ実質賃金上昇率はインフレ率の低下とともに上昇している。

この労働市場のリバランスは今後も続くと予想されています。

労働市場の逼迫が緩和されなくなったことを示す証拠があれば、金融政策の対応が求められる可能性もある。

不確実性とリスク管理

Uncertainty and Risk Management along the Path Forward

2%のインフレ目標について、変更の予定はありません。

我々はインフレ率を長期的にこの水準まで低下させるために、政策金利を十分に引き上げ、さらに長い時間維持することに集中しています。

当然ながら、この目標が達成されたとしても、それをリアルタイムに認識することは不可能です。 

過去の引締めサイクルに共通する課題もあります。

例えば、現在の実質金利はプラスで、中立的な金利水準予測を大きく上回っています。

現在の政策スタンスは制限的であり、経済活動、雇用、インフレ率のいずれに対しても下押し圧力をもたらしています。

しかし、中立金利を確定的に特定することはできません。

そのため、現在の正しい金融政策水準については常に不確実性があります。

金融引き締めが経済活動―特にインフレ率に効いてくるまでのラグも合わせて考慮すると、その評価はさらに複雑なものとなります。

昨年のシンポジウム以来、政策金利を3%引き上げてきました。

保有有価証券の規模も大幅に縮小しています。

これらの見通しのズレを鑑みると、今後も大きな遅れが生じる可能性があります。

政策金利に関する不確実性に加え、このサイクル特有の需給不均衡が物価と労働市場へ影響することで、さらに複雑な問題を引き起こしています。

例えば、これまでのところでは失業率の上昇が見られない中で、求人数が大幅に減少しています。

これは非常に歓迎すべきことではありますが、労働力に対する大きな過剰需要を反映していると思われる歴史的に珍しい結果です。

さらに、インフレ率がここ数十年のケースよりも労働市場に反応するようになったというデータもあります。

こうした力学の変化が継続するのか、一時的な動きに過ぎないのか、この不確実性が機敏な政策決定の必要性を強調しています。

こうした新旧両方の不確実性が、金融引締めをし過ぎるリスクと、引締め不足のバランスを取るという我々の仕事を複雑にしています。

引締めが緩いと、目標インフレ率を上回るインフレが定着し、最終的には雇用への高いコストでより持続的なインフレを経済から取り除くために強力な金融引締めを必要とする可能性があります。

逆に、過剰な引締めは、経済に不要なダメージを与える可能性があります。

結論

Conclusion

我々は曇り空の下、星を頼りに航海しています。

こうした状況では、リスク管理が重要です。

今後のFOMCで、データ全体と先行きの見通しとリスクを考慮して状況を評価します。

この評価に基づいて、さらに引締めるか、あるいは金利水準を一定に保ち、次のデータを待つべきなのかを慎重に決めなければなりません。

物価安定を回復させることは、デュアル・マンデートを達成するために不可欠なことです。

すべての人に恩恵を与える力強い労働市場環境維持のためには、物価の安定が必要です。

我々はこのミッションを達成するために、今ここにいます。

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