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Awakening!!! 1話 (自作小説)


「では今回の勝因は仲間とのチームワークだったというわけですね?
 橋本選手。」
「そうですね。やはり仲間とのチームワークが僕たちの勝利を手繰り寄せま 
 したね。」

 うるせぇ・・・

「橋本選手といえばサッカー界きっての苦労人としても有名ですよね?」
「はい。自分はたくさんの挫折をしてきました。たとえば・・・」

 聞きたくねぇ・・・何も聞こえねぇ・・・

「なるほど! それらの挫折があなたをさらに強くしたわけですね!」
「みなさんも人生辛いことや苦しいことなどたくさんあると思いますが
 きっとみなさんの夢や目標は叶います! たくさん挫折した僕が言うんで
 すから間違いありません!」

うるせぇ!!!!!!!!!

俺はテレビを消して部屋の隅のごみ箱を蹴散らした。
今日は試合で負けてただでさえ機嫌が悪いというのにこんなものを見た日には即座に寝るに限る。

「なーにが挫折だあ! 小学生の時に県大会の準決で負けてしまったあ!?
 俺は県大会どころか市大会の初戦で13対0でぼろ負けじゃ!」

「中学では入りたかったクラブチームの入団テストに落ちて、入れなかった
 ため中体連サッカーに進んだ!? 妥協した先が全国レベルの白沼中って
 イかれてんのか!?」

「高校では三年生になるまではレギュラーにも入れなかったあ!?
 入れただけいいじゃねーか! こちとら大怪我で高校サッカーを棒に振っ
 たわ!」

独り言が止まらない。
なんとなく隣人の迷惑になってる気がした俺は黙った。
とりあえずもう遅い、夜ご飯を作ろうと重い腰を上げた。
作り置きしておいたカレーと、切り干し大根とサラダチキンと牛乳という
割とバリエーション豊かな夕飯を平らげ今日はもう寝ようと思ったその時、
チャイムが鳴った。

「おい春樹! 走りに行くぞ。」
そうだ、今日は裕紀と夜に走る約束をしてたんだった。
俺は即座に着替えて外へ出る。

「今日のテレビ見たか?」
 俺は下を向く
「その顔ってことはだいぶキレてんなー」
「仕方ないだろ! あいつらは何もわかってない!
 自分が才能に恵まれてるってことに自覚がないんだ! それに」
「あーハイハイとりあえず真面目に走ろうぜ。」
「いーや今日は話を聞いてくれ! それでよ・・」

俺はずっと愚痴を言い続けた。
だが最後に

「俺の苦悩を味合わせてやる・・・」

と俺が呟いたのを裕紀は
聞いていなかった。

これは挫折をする舞台にすら立つことが許されなかった男の
悪あがきの物語



とりあえず二人は真夜中の道を走り抜けた。
途中のコンビニで飲み物を買ったりしたが、その一回を除けば二人は
合計で2時間近く走っていた。

「春樹・・春樹!」
「なんだよ」
「なんだよじゃねぇよ。 どれだけ走ってると思ってるんだ。帰るぞ。」
「だってまだ二時間しか・・・」
「長すぎるわ!」

仕方なく今日のところはここまでにすることにした二人は
2人でアパートまで帰った。

家に帰ると春樹は気絶するように眠りについた。
そして目覚めた。
時間が一瞬で飛んだような感覚だった。 深い睡眠は夢すら見ないと
聞いたことがある。
慣れた手つきで朝ご飯を作る。質素だが見た目からして体に良いことがわかるものだ。

「よう」

「おう、行くか。」

春樹と裕紀は学校近くの同じアパートに住んでおり、
部屋もある程度近いというただでさえ構造上よく関わりそうな
立地なのに加えて、同じ大学で同じ社会人サッカーチームの二人となれば、
毎日顔を合わせるのはもはや普通だった。

2人は神奈川県の平並大学に通っている。

ただ、平並大学のサッカー部は弱小だ。だから彼らは大学に通いながら
社会人サッカーチームに所属する道を選んだ。
もちろん大学にもサッカーが強いところはたくさんあるが、そういうところは他県から強い選手を推薦で集めていることのがほとんどであり
春樹と裕紀は強豪大学から推薦が来るほどの強さではなかったのだ。
彼らの所属する「FGファランクス」は神奈川県の一部リーグに所属する
規模のチームだ。

チームとしての強さには申し分なく、人数も少ないため、レギュラーとして試合に出られる確率が高いと考えたのだ。

だが彼らはあくまで大学生。
普段は普通に大学に通っている。 今日は二人とも一限からとっていたため一緒に登校したわけだ。

2人で他愛もない話をしている合間も春樹は上の空だった。
彼の頭の中は昨日のことでいっぱいだった。
自分とは別次元の人間が声高らかに話す綺麗事なんて彼が受け入れるのは
無理な話だった。
天才たちをどうやって引きずりおろすかどうかしか彼の頭の中には
なかった。

「おい! 春樹聞いてるのか!?」

頭を雷に打たれたような衝撃が走る。 実際には
軽いチョップだったわけだが、春樹は考え事をしていたせいで
過剰に反応してしまった。

「いや、どうやってプロになろうか考えてた。」

「そりゃお前の勝手だが、留年はするなよ。」

「当たり前だ。」

話しながら歩くと学校についた。 またいつもどうりの日常が過ぎていく。
勉強をして、友達と会話をして、たまに居眠りなんかして裕紀に起こされ、
また勉強をして、学校を後にする。

だが今日はいつもと少し違う。
今日の夜はFGファランクスの練習が夜にあるのだ。
社会人サッカーチームに入ったことがない人にはあまり知られていないが、
社会人サッカーは大学のサッカーチームのようにほぼ毎日活動したりはしていない。
県三部や二部などのそこまで強くないチームは、土日にしか活動しなかったりする。 これは当然で、仕事との両立のためであったり、そもそもの
熱意があまりなく趣味程度でやりたい人が大半だったりするからである。
県一部やその上の関東リーグ、さらにその上のJFLと、上に上がっていけばいくほど当然週の中での練習日数が増えていく傾向にある。

春樹と裕紀が所属するFGファランクスは火曜日と金曜日の夜と
土曜日と日曜日の午前中に活動をしている。 
もちろん試合は土日のどちらかで行われる。
働きながらチームに所属している者もいるため、休みたいときなどは割と
柔軟に対応してもらえる。
とはいえ、休むものは少ない。 FGファランクスは関東リーグ二部に昇格することを一つ目の目標にしている。
所属するメンバーも年齢に関係なく趣味の領域を遥かに超えてサッカーに熱意を注ぐ者たちばかりだ。

「天谷さん! 早いっすね!」

「おう! 春樹か。」

春樹がグラウンドに入って一番最初に声をかけたのはチームの守護神にして
大黒柱の天谷聡だった。
元々J2で活躍していた選手だったが、怪我でプロサッカー選手としての人生に区切りをつけ、社会人リーグに所属している。今年で35歳であり、
本人も肉体の衰えを自覚していて、最近はグラウンドには一番乗りで入り、
ウォーミングアップをしている。

それ以外にもたくさんの仲間たちがいる。
ただ、春樹は基本的にチームメイトのことを名前以外何も覚えていない。
頭が悪いわけではない。高校はそれなりに進学校だったため、むしろ
地頭はいいほうだろう。
彼はチームメイトについて意図的に深入りしないようにしていた。
理由は明白だった。

「春樹。 お前挨拶適当じゃね? 天谷さん以外にはほとんど反応してなか
 ったじゃねぇか。」

「俺は天谷さんは尊敬してんだ。 俺たちよりも修羅場をくぐってきてる
 し、仲良くしておけばもしかしたらコネとかもあるかもしれないしな。」

「・・・」

そう。この男はなかなかに性格がゆがんでいるのである。
これ何か悲しい過去があって、とかではなく元々こういう性格なのだ。

「じゃあ裕紀早く準備しろよー」

「お前私服の下に練習着来てたのか?! 小学生かよ・・」

呆れる裕紀をよそに春樹はボールを蹴っている。
さながら子供のようだ。

裕紀は練習開始時間十分前にグラウンドに入り、ボールを蹴り始めた。

星々が輝く夜空の下で、男達の声が響く。
FGファランクスの練習メニューは、同じ県一部のチームと比べたら
かなりきついメニューである。
カウンター戦術を得意とし、個人の能力を重視するこのチームは、
とてつもなくフィジカルトレーニングが多いが、春樹はそれらのメニューをそつなくこなす。
裕紀は少し疲れ始めていたが、その度に春樹に煽られ、怒りながら
メニューをこなしていた。

「え!? 今度の練習試合関東一部のチームとやるんすか!?」

練習後の会話で裕紀が困惑と驚愕が混ざったような声を上げる。

春樹は興奮でガッツポーズをしていた。

それも当然、なぜなら強いチームと戦い、そこで目をつけてもらえれば、
うちのチームに来ないかと勧誘が来たり、勧誘はなくても、あのチームに強いやつがいると周りに知れ渡るだけでもプロサッカー選手を目指している
春樹からすればありがたい話だった。

どうやって自分の爪痕を残そうか、どうやって自分を目立たせようかと考えていると、また後ろからチョップを食らった。

「おい。」


「痛っ!? なにすんだ!」

「自分だけのこと考えんなよ。」

「はいはい。」

その日は二人で寄り道せずに帰った。

その日の夜、春樹は家で筋トレをしていた。
現在二十歳だが、同世代の人間ではまずいないであろう筋肉を搭載
をしている彼の体は、身長178cm 体重95kg、体脂肪率3%と、
サッカー選手というよりかは、アメフト選手やラグビー選手に近い肉体を
していた。
おそらく、日本の社会人サッカー選手ではまずいないであろう体格である。

「・・・・」


「お前下手糞のくせにでしゃばるんじゃねーよ!」

「自己主張は強いよなあいつ。」

「プロサッカー選手になりたい? まあ・・うん・・いいんじゃないか?」


「・・・!?」


春樹は片手腕立て伏せを中断してシャワーを浴びることにした。


嫌な思い出を思い出した彼は、手短に体を洗い、風呂場から
そそくさと出てきた。


歯磨きをした彼の頭は、ずっと過去のことでいっぱいだった。

「もう寝よう」

彼は就寝した。


目覚めの朝が来た、昨日はよく眠れたようだ。
彼は朝の準備をして、裕紀と大学へと向かう。
裕紀は少し眠たそうなので、途中まではお互い無言で歩いていたが、

「お前また今度の試合のこと考えてるな。 頼むぞお前。
 お前ひとりで強引に突破しようとしすぎなんだよ。
 まあお前のフィジカルだったら確かに高確率で突破できるだろうけど
 奪われることも多いだろ?」


「マジで俺は早くプロになりてぇんだ。
 俺のプレーをどこかの監督やスカウトにいかにアピールするかが
 カギなんだ。
 お前もプロになりたいんならもっと自分をアピールしろよ。」


「でもサッカーはチームスポーツだろ?」

「いや、サッカーはコート全体で見ればチームプレーだが、
 一つの局面で見れば個人プレーだ。 空中での競り合い、
 ショルダーチャージ、大体一対一だろ。
 個人プレーの集合体がチームプレーだ。
 俺が強引にドリブルするときは、その時の個人プレーにおいて
 最適だと思った時だ。」


「でもそのプレーがチームにとっては不利益だったら?」


「いやでもこの前も強引に突破してゴール決めたからいいじゃん。」


「いやまあ・・・・そうだがな?」


「結局結果出したやつが最強なんだよ。強引に個人プレーしようと
 チームで戦おうと、勝ったやつが偉くなるんだ。
 だから裕紀も左ウィングとして俺へのパスもっと増やしてくれよー」


「結局そこに落ち着くんかい! 嫌だ。
 良いとこ居たら出してやるがそんなお前にばっかりパス出せるかよ。
 あと俺も点決めてぇ。」


「いいねえ裕紀君やる気でてきてんじゃーん」


春樹が裕紀の頭をワザとらしく撫でまわすと裕紀は軽い蹴りを春樹
に食らわせた。

傍から見れば2人でくだらないこと話しながら登校する仲睦まじい大学生
にしか見えない二人だが、二人の目が完全に笑っていないことに
通りかかる人達は違和感を覚えて振り返っていた。


結局この二人は似た者同士なのだ。
次の練習試合でどう爪痕を残すか、それしか頭にはなかった。


そして一週間の時が過ぎる・・・


「じゃあ行くか。」


「おう。」


今回の試合は現地集合のため、裕紀の車で、移動することにした。
今は真夏のため、車の中はエアコンが聞くまで熱気でいっぱいだったが、
すぐに涼しくなっていった。
運転している裕紀の横で春樹は音楽を聴いている。


そこからは早かった。

現地につき、準備をして、2人はコートの前に立つ。


「やるか・・・」


「おう!!」


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