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カイカイとつばめ 第5話

 早いものでつばめは中学生になった。ついにセーラー服を着るようになったんだな。だけど、相変わらず、つばめはオレになついている。普通の親なら反抗期とかで、大変なんだろうけどな。オレたちは仲がいい。オレ自体がつばめと精神年齢が同じってことかも知れないな。

「なあ、つばめは本当にオレと結婚するつもりかい?」
「そうよ、だから浮気はだめだからね。」
やっぱり、わかってないんだな。
「この際だから、言っておくけど、オレとは結婚できないよ。」
「えっ?なんで?」
「だって、法律的には親子だぜ。親子が結婚なんてできないんだよ。」
「でも、本当の親子じゃないじゃん。」
「本当の親子じゃなくても、親子だから親と子は結婚できない法律になってるんだよ。」
「何それ?そんなん、やだ。」
つばめは涙目になってる。そんなつもりじゃないんだけどな。そろそろ、本当のことを知っておいてもらわないとと思っただけなんだけどな。

「よく聞いてほしい。お母さんが亡くなった時、つばめはオレと一緒に生活したいと言ったよな。」
「うん。」
「でもな、あのままでは一緒に暮らせなかったんだ。」
「なんで?」
「あのままだと、オレは誘拐とか、拉致とかの犯罪者になってしまう恐れがあったんだ。」
「カイカイは絶対にそんなことしないじゃん。」
「そうだ。でも、まったくの他人のオレたちが一緒に暮らすには、つばめがオレの子供になるしかなかったんだ。」
「法律上ってこと?」
「ああそうだ。だから、そうしないと、施設の人が来て、無理やりオレたちは離れ離れになってしまったかもしれないんだ。」
「・・・」
「だから、どこの誰に何を言われても大丈夫なように、つばめはオレの子供にしたんだよ。」
「うん。」
「だけど、そうなると今度は、つばめの言うような、オレのお嫁さんにはなれないということなんだ。」
「じゃぁ、つばめはどうすればいいの?」
「生涯、死ぬまでオレの子供だから、オレが守るってことだよ。」
「そんなんじゃなくって、カイカイのそばにいてはダメなの?」
「そんなことはないよ。でもね、大人になったら、つばめはいい人を見つけて、結婚してほしいんだ。」
「つばめはずっと、カイカイと結婚する、そういう夢をみてたの。」
本当に泣き出してしまった。まだ、話が早すぎたかな。困ったな。しばらく、オレはつばめの頭を撫でて抱きしめていた。

 オレの話を分かってくれたんだろうか。それが心配だった。こんな話をするには、まだ本当に早すぎたんだろうか。いろんな想いが交錯する。つばめはオレから離れて、しばらく何も言わずに考え込んでいた。理解できているんだろうか。納得しているんだろうか。オレはこの雰囲気から脱出すべく台所に立った。今日は何を作ろうか。

「私がするよ。」
つばめは突然、オレの手を止めた。
「ああ、じゃ、お願いするよ。」
何やら、料理を作り始めた。出来上がってから、一緒に食事をしながら、つばめはこう言った。
「ねえ、ずっとふたりで暮らすのはいいのよね。」
「ああ、それは問題ないよ。」
「じゃ、そんな形式にとらわれなかったらいいんだ。」
「そうだね。」
急につばめはにっこりした。この子のこういう顔は大好きだ。なんか急に大人びてきたなぁ。

 つばめの中学時代は、いじめの問題なんかなく、楽しく過ごすことができたようだった。世間で言うところの反抗期もなく、仲良しの親子だった。オレもそんなつばめが可愛いかった。でも、だんだん大人びてくる。たまにドキっとする表情もするようになってきた。めぐみさんが美人だったから、つばめもだんだん美人になってくる。そうなると、男どもはほっとかないよな。何回か、告られたみたいだったが、つばめは全部断ったらしい。

 バレンタインデーには、いつもつばめから手作りチョコをもらう。そんな時はオレが会社に行っている間に、多分一生懸命台所で作っているんだろうけど、その甘い匂いが残っているから、作ってたんだなって、すぐにわかる。でもありがたいものだ。

「はい、私から、愛をこめて。」
「ありがとう、味わって頂くよ。」
つばめはいつもにっこりする。だが、問題は1か月後だ。何をあげればいいのか、いつも悩んでしまう。最近はオレがネットで調べたチーズケーキを作る。これはつばめの大好物なんだ。しかし、多少の分量の違いで味がだいぶ異なる。その時の感想を聞いたにも関わらず、来年に活かそうとしても、1年後だとどうだったのか、忘れてしまって、結局いい加減な分量を入れて、いつも違った味のチーズケーキになってしまう。でも、つばめは喜んで食べてくれるから、オレは救われる。

 いつしか、つばめは高校生になった。オレも30後半に入ってきた。だが、未だに彼女もおらん。もう、オレには縁がないってことなんだろうな。しかし、つばめも浮いた話がない。マジでオレと一緒になろうと思っているんだろうか。

 高校になると、ますますつばめは綺麗になって、いったい誰が、彼女を射止めるのかが話題となっていたらしい。だが、恐らくつばめはオレしか見えてなかったんだと思う。そんなオレもだんだん40が近づいてくる。

 つばめは、またいじめの標的にされていた。高校になると、いじめの仕方が巧妙になってくる。またまた、オレはわからなかったけど、どうやらSNSでやられていたようだった。いじめる方は、「別垢」といって、まったくの他人になりきったアカウントを使って攻撃するようだった。

 どうも、つばめをよく思わない女子が、手下の男子生徒を使って、つばめに攻撃してくるみたいだし、どうやらそれの動画をアップするようなこともしていたみたいだった。なんで、こんな腐ったヤツばっかりいるんだろう。オレが高校の時は、そんなことなかったんだけどな。もっとも、SNSなんかないし、電話するのに10円玉をしこたま貯めてたもんな。

 あるとき、つばめの友人が、オレに話しかけてきた。
「あの、つばめのお父さんですか?」
「ああ、つばめのお友達かな。いつもありがとうね。」
「見てもらいたいものがあるんです。私、怖くって隠れて録画することしかできなくて・・・」
その子は、大粒のなみだを流して、オレに訴えてきた。
「どうしたんだい?えっ、これは・・・」
その動画には、つばめが男の生徒に叩かれたり、蹴られたりしているのが映っていた。近くの女生徒がどうも指図しているようにも見える。
「ごめんなさい、私、つばめを助けられなくって。」
「何言ってるんだ。よく勇気だして、これをオレに見せてくれたね。ありがとう。」

 オレは、その動画をもらった。拡大すれば、顔もわかる。最近のスマホは解像度が上がってるねぇなんて、そんな問題じゃない。

 つばめは何食わぬ顔で、普通にオレに接していた。だが、よく見ると、髪の毛でたたかれたあとを隠しているようにも見える。なんで、オレに黙っているんだろう。自分で解決するつもりなのかな。
「つばめは、自分のことは自分で解決するつもりなのかい?」
「えっ?いきなりどうしたの?」
「どうしても、つばめ一人じゃ無理なら、オレも手伝うぞ。」
「やっぱ、カイカイにはわかっちゃうんだね。」
「つばめの親だもんな。」
本当はあの友達が言ってきてくれるまで、わからなかったんだけどな。
「もう少し、自分で解決させて。」
「わかった。」
オレはつばめの気持ちを尊重した。その間にあの動画の人物を特定することにした。

 しばらくして、さすがに制服を破られたのをみたら、オレは我慢ができなかった。
「つばめ、オレはもう我慢ならん。いいか?」
「うん、お願い。」
いくら子供同士でも、無理なケースはある。年齢は10代でも、やっていることは凶悪犯罪だ。オレのつばめにこんなことしやがって、オレは絶対許さない。

 オレは学校に乗り込んだ。校長室で校長とつばめの担任の先生に話を始めた。
「女生徒2人、男子生徒4名をここに呼んで頂きたい。」
オレは名前を告げた。
「それは確かにうちの生徒ですが、なにか?」
「つばめから相談があったはずですよね?」
「確かにございましたが、きちんと対処はさせて頂きました。」
何をこのくそセンコー!
「それじゃ、なんで今日、うちのつばめの制服が破けてたんでしょうね。」
持ってきた、その制服を見せた。
「これは・・・ひどいですね。転んだんですか?」
「これはカッターナイフで切られたあとですよ。」
「本当にそうでしょうか?」
やっぱり、学校は自分たちを守ることしか考えてないようだな。

「わかりました。では、警察へ行ってきます。教育員会へも連絡しますわ。」
「落ち着いて下さい。穏便にお話をしましょう。」
「こいつらが、寄ってたかって、つばめに乱暴を働き、この悪ガキの女生徒が、男子生徒に服を脱がせって命令し、その様子をスマホで撮影し、SNSで拡散するようなことがあってからじゃ遅いですよね。」
「いや~、そんなこと、ありえませんよ。」
「多勢に無勢でしょ。そうなる前に対処しましょうと言ってるんだ。」
オレの迫力に、二人の先生はかなりひるんでいた。

「ディスプレィを用意してください。」
「はっ?」
「これから動画をお見せしますから、ディスプレィを持ってきて下さい。」
オレは無理やり、持ってこさせて、スマホの画像をディスプレィに映しだした。つばめがやられている、例の動画だ。はっきり、しゃべっている声も聞こえる。顔もわかる。
校長も担任も、青い顔になっていった。

(つづく)

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