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二度目の恋 第2話

 休みの日に、駅前の噴水のところで待ち合わせ。こんなん、何十年振りだ。時間通りにいくと、すぐに会えた。

「こんにちわ。この前はありがとうございました。」
「こちらこそ、なんか楽しかったよ。」
「でしょ~、だから、歳なんか関係ないんですよ。」
「そうかな。」
「そうですって。」
ちょうど、お昼だったので、食事にいくことにした。

「いつもはどんなお食事をするんですか?」
「男一人の自炊料理だよ。」
「自分で作るんですか?すごいですね。」
「あ、嫌いなものあります?」
「特にはないよ。」
「じゃあ、私の好きなのでいいですか?」
「わかった、付き合うよ。」
「うれしいです。」
 彼女はスパの美味しいという店にオレを連れて行った。結構、混んでいたのに、実は予約してあったみたいで、すんなり入れた。

「なかなか、雰囲気のいいお店だね。」
「でしょ、私のお気に入りなんですよ。」
「じゃあ、お勧めをお願いしょうかな。」
「まかして下さい。」

オレはトマト系の酸味の効いたスパ、彼女はたまごとベーコン系のスパだった。彼女はお店の人に小皿を2つ頼んだ。
「ちょっとづつお互いのを食べ比べてみましょうよ。」
「ああ、それがいいね。お互いのが食べれて楽しいかもね。」
「ですよね。」
彼女は楽しそうによくしゃべる。オレもそれが嫌じゃなかった。なんか、あっという間に時間が過ぎた。

 オレらはその後、彼女がどうしても見たいという映画を見に行く事にした。まあ、オレも映画は嫌いじゃないんで、特に問題はなかったが、この映画、笑いあり涙ありの恋愛映画だ。オレは少し涙もろいところがあるんで、ちょっと困ったけど、彼女の方が、オレより上手の涙もろい人だった。彼女は映画の間中、ずっとオレの手を握っていた。悲しい場面でずっとグスグスいってたので、オレは持っていたハンカチを渡してあげた。一応、毎日、洗い立てを持っているので、こんな時に役立つことにホッとした。映画の終わりはハッピーエンドで、そこでも涙ボロボロだった。オレより、涙もろくてよかった。自分がボロ泣きじゃ、どうしようもないしね。

「ハンカチ、ありがとうございます。今度、持ってきますね。」
「一人で泣いてばかりで、ごめんなさいね。ちょっと、洗面所に行ってきます。」
まあ、落ちた化粧を直すのだろう。たぶん、オレ以上に感情移入してしまうんだろうな。かわいい子だ。

 夕方、今度はオレのお気に入りのところに連れて行ってほしいと言い出した。晩飯のお気に入りは、近所の炉端なんだが、そんなんでいいんだろうか。でも、素の自分の方がいいと思ったので、いつもの炉端に行った。

「まあ、晩はいつも軽くビールとかを飲んで、つまみがあればいいって感じだけど、大丈夫かな?」
「全然、OKです。私、こういうの、好きですよ。」
「オレはビールだけど、何飲む?」
「じゃ、私も。」
「今度はお勧めの1品料理をお願いしますね。」
「OK、了解。」
オレはいつも好んで頼んでいる1品料理をいくつか頼んだ。

「こういうの、いいですね。おいしいです。」
「そっか、無理しないでいいよ。」
「北山さん、優しいんですね。」
「そっかな。」

 ここでも話が弾んで、結構長居してしまった。そのおかげで、彼女は普段より、かなり飲んだようだった。
「大丈夫、歩ける?」
「まだ、大丈夫ですよ。」
「親御さん、心配してるんじゃない?連絡した?」
「お父さんみたい。」
そりゃそうだろ、そのくらい年が離れてるしな。

 だが、そういう彼女の足取りはおぼつかない。こりゃ、家まで連れてくしかないな。
「家教えて、送っていくよ。」
「嫌です。今日は、北山さんとずっと居たいです。」
こりゃ、完全に出来上がってるわ。さて、どうしよう?オレんちじゃ、汚いから無理だよな。この際、ホテルを取るか。オレはスマホでホテルを予約しようと思ったが、今日の今日では、なかなか思った部屋がない。ホントはシングル2部屋と思ったが、どこも空いてない。仕方ないので、ツインをお願いした。

「さあ、いこうか。」
「うれしい。今夜はふたりですね。」
「はいはい、そうですよ。」
半分、目が閉じている。こりゃ、絶対に寝るな。オレは彼女の腰を抱いて、タクシーに乗せ、ホテルまでいった。

「先ほど、スマホで予約した北山ですが。」
「はい、承っております。」
そう言って、用意してくれた部屋は、・・・どうなっているのか、なかなか、鍵を渡してくれない。

「どうしたんですか。」
「お客様、こちらの手違いで、ダブルになっております。よろしいでしょうか?」
「そりゃ困るよ。シングル2部屋とかもないの?」
「はい、申し訳ございません。その代わりと言ってはなんですが、半額とさせて頂きます。」
ちょっと、ごねたがどうしようもない。その部屋で我慢することにした。

 オレは半分寝ている彼女を抱きかかえて、その部屋に連れていった。さすがに大きいベッドだ。そこに彼女を寝かせた。でも、そのままではせっかくの洋服がしわだらけになってしまう。オレは洋服を脱がせて、そのまま彼女をベッドに寝かせた。洋服はしわにならないように、ハンガーにかけておいた。だけど、さすがに女の子の服を脱がせるのって、年甲斐もなくドキドキしてしまうもんだ。

 さて、オレはどうしようかな。受付に連絡して毛布をもらった。ソファに寝ころび、毛布を掛けて寝た。今日は楽しかったけど、絶対、彼女の親御さん心配してるよな。ふと、彼女のカバンの口から光っているのが見えた。スマホ?オレはそれを取り出した。やっぱり、バンバン、メールが来てるじゃん。よく見ると、LINEだった。かなり心配してるみたいだ。どうしようか、代わりに返事しとくか?やっぱ、それはよくないよな。ゴメン。やめとくわ。オレはカバンへスマホを戻しておいた。

 翌朝、物音に気が付いて、目覚めた。すでに彼女は起きていた。
「あ、おはようございます。」
「おはよう、寝れた?」
「それは私のセリフですよ。」
「本当にごめんなさい。」
「そういや、スマホがガンガン光ってたよ。親御さん、心配してるんじゃない?」
「大丈夫です、もう連絡しました。」
「怒ってなかった?」
「多少は。」
「正直だね。」
「北山さんだって、すっごく紳士ですね。」
「えっ?」
「だって、私、どうなっても仕方なかった状態だったじゃないですか。」
「でも、ちゃんと、洋服はしわにならないように掛けてあるし、・・・私を襲うこともしなかった。」
彼女はちょっと寂しそうにしてた。

「私、魅力ないのかな?」
「そんなことないよ。君は明るいし、とっても魅力的だよ。」
「もしかして、北山さん、想っている人、いるんですか?」
オレは香澄の顔が浮かんだ。こんな時に浮かぶなんて、やっぱり忘れていないんだよな。

「そうだね。」
彼女は急に、にっこり笑ってこう言った。
「じゃあ、いつかはその人より、私の方がいいって、言ってほしいです。」
「だから私、がんばります。」

 オレたちはホテルで朝食を摂った。バイキング形式だったけど、彼女は朝からテンションが高かったので、朝食でも楽しく過ごすことができた。部屋に戻ると、オレはこう言った。
「じゃ、今日はそろそろ帰ろうか?」
「もっと一緒にいてくれないんですか?」
「君といると楽しくて時間を忘れてしまいそうになるんで、ちょっと困るかな。」
「これから用事ですか?」
「そうだね、することがあるんで。」
「わかりました。」
彼女は名残惜しそうだったが、さすがにその日はまたねと言って別れた。

 オレにはあり得ないくらい長く、女の子と一緒にいた。香澄ともこんなに一緒にいたことはない。45のおっさんが、何もかも初めてだなんて、少々恥ずかしいな。さあ、元のオレに戻ろうか。オレはこの先、一人で生きていく。香澄の想いを胸に。オレには香澄しかいない。たぶん、これからも・・・。

 翌日からまた、元の生活が待っていた。いつものように、システム変更に伴うプログラム修正ということで、コボルというプログラムのテストを行っていた。昼休みに、合コンに行った山口が声をかけてきた。

「北山さん、ちょっといいですか?」
「おう、なんだ?」
「この前の合コンのことなんですが・・・」
「うん。」
「北山さんと話をしていた河合さん・・・」
「河合さんがどうした?」
「オレ、かなり気に入ってるんですよね。」
そうなのか。
「なるほど。」
「で、北山さんと結構いい感じにしゃべっていたんで、どうかな?って思ってるんですけど。」
コイツ、何を言いたいんだ?
「で?」
「ぶっちゃけ、オレ、アタックしてもいいですか?」
「なんで、オレに言う?」
「だって、もし、すでに付き合っていたら・・・」
「そんなことないだろ?20以上も離れてるんだぜ。」
「じゃ、いいですか?」
「当たり前じゃん。がんばれよ。」
「はい、がんばります。」
山口は嬉しそうに飯を食った。この前会ったのは、河合さんの社交辞令だろうし、問題ないだろう。オレはあえて、その話はしなかった。

 数日後、山口はえらい剣幕でオレに詰め寄った。
「北山さん、河合さんとデートしてたんですよね。すでに付き合っているんじゃないですか。」
「合コンのお礼に食事を付き合っただけだよ。」
「それをデートというんです。」
「はっ?」
「だいたい、河合さんは北山さんと付き合っているんで、ごめんなさいって言ってたんですよ。」
「オレはその気はないぞ。」
「よくいうよ、オレをバカにして。」
オレは山口に一発殴られた。うまくよけられなくて、口の中を切った。
「落ち着けよ。もっと冷静になれって。」
「うるさい。」
2発目もよけられなかった。オレはそのまま倒れた。山口は馬乗りになって殴りかかってきたが、周りの連中が止めてくれた。

 河合さんはオレと付き合っていると思っているのか?でも、想っている人がいるって言ったし、何か勘違いしているんだ。オレは口からの血が止まらず、とりあえず病院へ行ったら、その時はわからなかったが、頭からも出血していたのでCTを取ることになった。俗に言う、打ちどころが悪かったということで、入院する羽目になった。

(つづく)

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