旅の終わりに 第4話
「お久しぶりです。」
「おお、青島さん、久しぶり。また、来てくれるん?」
「はい、よろしくお願いします。」
みんなに歓迎されるのはいいもんだ。
「青島クン、待ってたのよ。」
「すみません、遅くなりまして。」
「早速だけど、〇〇プロジェクトに入ってもらって、・・・」
というわけで、また木島さんとこで働くことになった。次回の旅はバイクで走ろうと思っているので、安いのを見つけておこう。
で、これまた早速で俺の歓迎会となった。急なんで、全員ということにはならなかったけど、10人ほど集まってくれた。当然、木島さんもいる。ということは、二次会以降が怖い。これって絶対セクハラだよな。でも、それを言うと、首なんだろうな。まあ、今回は1ヵ月だけだから、我慢するしかないかな。次回以降は、絶対、別の仕事を探そう。
でも、案外、木島さんも忙しかったみたいで、あんまり誘われることはなかった。俺の辞める日のことは、ギリギリまで言わなかったのが功を奏したのかもしれない。辞めることが伝わったときは、かなり言われたけど、また、来ますよということで、押さえてもらった。
今回は少ない資金だけど、バイクを購入。小型バイクなんで、燃費はいい。野宿主体でいくので、寝袋やキャンプ道具を積んで走る。今度は南下することにした。バイクの旅は風でかなり体温を奪われる。だから、多少厚着でないと、疲れてくる。まあ、のんびり走るんで、大丈夫だけどね。
小型バイクは、くるまと同じ速度で走れるのがいい。でも、制限速度は守る。カッパは必需品だ。雨の時は極力走りたくないけど、突然降ってくるときは仕方がないから、カッパで走る。でも、袖口や首口から雨が入り込んでくるので、長い間走ると、やっぱり中まで濡れてくる。まあ、乾かせば、しまいだけどね。でも、今回の旅は天気に恵まれた。大半はいい天気だった。
バイクにスマホを取り付けて、ナビ代わりにしてキャンプ場を目指した。こういう自然豊かなところはいい。のんびりできる。適当に食材を購入して晩飯を作ったり、そのまま食べれる出来和えものを買ってきたり。あんまり、人がいない方が俺にとってはいいのだが、最近はキャンプ好きも多いので人も多い。
夕方、俺はキャンプ場に着いた。やはり、人は多い。まあ、端っこの方でちょっと離れてキャンプすることにした。道具はいつものものなので、手慣れたもんだ。すぐにテントを張った。とりあえず、コーヒーが飲みたかったので、水を汲んでお湯を沸かした。コーヒーはインスタントだ。なかなか、一からするには手間がかかり過ぎる。今日の晩飯は近くのスーパーで購入した出来和えものばかりだ。自分で料理するのもいいのだが、今日はそんな気分じゃなかった。だから、今回は外食主体の食事かな。
俺のテントに一番近いところに、くるまでのキャンパーたちがいた。そいつらはやかましい。もっと、周りに気を使ってほしいものだ。ようやく、お湯が沸いて、コーヒーを飲んでいたところに、同じようなバイクのキャンパーが近寄ってきた。こういうところでは、みんな仲間意識を持つものらしい。俺は一匹オオカミを楽しんでいるのに。
「あの、おひとりですか?」
「ええ、そうです。」
「私も一人なんで、しばしご一緒させて頂いていいですか?」
やっぱり、そういうことか。
「いいですよ。コーヒーどうですか?インスタントですけど。」
「ありがとうございます。頂きます。」
彼は大型バイクで1週間程度の旅をしていた。コーヒーを飲み干すと、自分のバイクの自慢話が始まった。あ~、かったるい。俺はすぐさま、用事があるんでということで、彼から離れていった。こういうのって、面倒臭い。
やっと、ひとりになってのんびりしていると、何やら向こうの方が騒がしい。かかわらんとこと思ったのだが、男どもが数人、一人の女性に絡んでいるらしかった。誰も助けにいく人がいないようで、遠巻きに見ているだけだった。仕方ないな、いくか。
「わり~、わり~、ここにいたんだ。遅くなってごめんね。」
「誰だ?てめ~は。」
「この子、俺の彼女。」
「なんだと。」
「一緒にツーリングしてたんだけど、ここで合流する予定だったんだ。」
「なんだ、男がいたのかよ。」
そいつらはいとも簡単に引き下がってくれた。
「よかったね。」
「ありがとうございます。」
彼女もバイク一人旅だった。大型バイクでね。最近、女の子でも、大きいの乗る。883ccのパパサン(ハーレーダビッドソン)だ。
「よかったら、食事ご一緒しません?」
こういう誘いなら、即OKだ。
「いや~、そんな気にすることありませんよ。」
「是非、お願いします。」
遠巻きにしていた、最初に俺に話しかけてきた彼も入りたそうだったけど、無視だ。
「そんなつもりじゃなかったんですが、いいんですか?」
「はい、お願いします。」
彼女はまだテントを立てる前だったので、俺のところにバイクを持ってきて、近くにテントを張った。
「おひとりで、こんな大きなバイクと荷物だと大変でしょう。」
「なんとか、なりますよ。コケたら誰かにお手伝いしてもらいますけど。」
そうだよな、この重さでは起こせんだろう。
「私は身軽に小型バイクとこれだけの荷物です。」
「結構少ないんですね。2,3日のツーリングですか?」
「いえ、2,3か月ですよ。」
「えっ、そんなに・・・」
「なんとかなるもんですよ。衣類はコインランドリーで洗うし、風呂に入りたくなったら、銭湯に入るし、時たま、優しい人のうちに泊まったりしてね。」
「楽しそうですね。」
「気の向くまま、足のむくままです。」
「いいなぁ。私もそんなふうにやりたいな。」
「何日間の予定なんですか?」
「私は4日間です。明日までなんですけどね。」
「じゃ、今日が最後の晩餐ですね。」
「そうなんです。一人でどうしようと思っていたんですが、よかったです。」
「私は今日は簡単にすますつもりで、総菜2つと太巻き1本買ってきてますが。」
「じゃあ、私が今日作ろうと思っていたカレーも一品入れて頂けません?」
「カレーですか、いいですね。」
「すぐ取り掛かります。」
「あ、お手伝いしますよ。」
「じゃ、一緒にしましょう。」
彼女は食材をすでに刻んでいたんで、煮るだけの状態だった。さすがに段取りがいい。俺はもう一杯コーヒーを飲むため、お湯を沸かした。具材が煮えるまで、ふたりでコーヒーを飲みながら、オシャベリを満喫した。
ようやく、カレーも出来上がり、俺の食事と彼女のカレーとを頂きながら、ゆったりとした時間をにこやかに話ながら過ごした。最初の晩からなかなかいい感じだ。あとかたずけを一緒にして、それぞれのテントへもぐり込んだ。
夜も更け、虫の音だけになって、俺は眠りについた。なのに、突然、俺のテントに誰か入ってきた。
「ごめんなさい。しばらく居させて下さい。」
俺は寝ぼけ眼でボっとしていた。全然、状況を飲み込めない。彼女は俺にしがみついてきた。そのからだは震えていた。
「大丈夫ですか?」
「昼間の人たちが・・・」
なるほど、そういうわけか。ようやく、訳がわかった。
「わかりました。」
近くに足音が聞こえた。困った連中だ。どうやら、別々のテントに入るのを見ていたらしい。だから、彼女は俺のテントに来たのだ。狭いテントで俺の大き目の寝袋にふたり入って、こっちの方が問題のように思えるけどね。どうやら、俺は無害だと思われているんだろうな。まあ、いいけど。
結局、彼女は安心しきって、俺と一緒の寝袋で朝まで寝てしまった。俺も変に動くと痴漢扱いされそうなので、そのまま一緒に寝てしまった。
朝、俺は目覚めたけど、変に動けない。彼女もそのうち、起きたらしい。でも、俺と同じで動けずにいた。意を決した彼女はこういった。
「あの、起きてますか?」
「はい。起きてますよ。」
「昨日はごめんなさい。」
「いいですよ。怖かったでしょ。」
「怖かったです。」
「あの、動いていいですか?」
「はい、大丈夫です。」
ようやく、ふたりとも寝袋から這い出てきた。やっと、自由に動かせる。
「本当にすみませんでした。」
「いえ、気にしないでください。」
「朝も私に作らせて下さい。」
「じゃ、コーヒー淹れますね。」
そんなわけで、朝もご一緒することになった。彼女は目玉焼きとトーストを作ってくれた。俺はコーヒーだけだったけど、文句は言われなかった。
いろいろ話をしたが、一緒に寝た話にはならなかった。でも、ついに彼女から話を始めた。
「おひとりで寝ているところに、私も入り込んだんで、寝ずらかったんじゃないですか?」
「問題なかったですよ。」
「私、怖かったのでしがみついちゃって、本当にごめんなさい。」
「気にしないで大丈夫ですよ。」
「青島さんって、紳士なんですね。」
「そうでもないです。」
「私って、男の人の寝袋に入って寝てしまうなんて、あまりに無神経でした。」
「ははは、正直、ドキっとしましたけどね。」
「私、何されても文句言える立場じゃなかったですよね。」
「そんなことないでしょ。」
「でも、青島さんにくっついて寝たら、とっても居心地がよかったので、安心して寝れてしまいました。」
そうなのか。まあ、よかったじゃない。
「俺って、無害と思われること多いからな。」
「もし、よかったら、お付き合いして頂けませんでしょうか?」
「えっ?」
「これ、お渡ししておきます。返事は今じゃなくていいです。じゃなくって、今じゃ困ります。」
「あの・・・」
「ですから、返事はその連絡先にお願いします。」
彼女は真っ赤になっている。これ、精一杯のがんばりなんだろうな。俺もその場ではそれ以上つっこまないで、楽しい時間にした。
出発の時、お互い行先が別だったので、そのキャンプ場で別れた。確かに俺も一緒の寝袋でしっかり寝れたので、寝心地がよかったんだろうな。でも、彼女の行動は、危険な時に一緒にいると恋心を持つというアレだろう。だけど、全然名前も聞かなかったな。俺も言ってなかったけど、あ、言ってたか、まあいいや。そういえば、あの紙、開くと、名前と連絡先が書いてあった。高木彩さん、これって、逆ナンなんだろうか。
今日はどこ走ろう。俺はコンビニの駐車場で、荷物から地図帳を引っ張り出して、眺めていた。ナビはスマホでいいのだけど、全体を見る時は、やっぱ、これだわ。まあ、一日の走行距離を150~200kmくらいで考えて、どこへいけるかな。俺は地図に夢中になっていると、誰かが声をかけてきた。
「ツーリングしてんの?」
振り向くと、女の子だ。
「ああ、そうだよ。」
「私、ヒッチしてるんだけど、のっけてくんない?」
「いや、ヘル1個しかないからだめだし、それに荷物があるから、乗せれないよ。」
「大丈夫、私、タンクに乗るから。」
「はぁ~?でも、ヘルは?」
「コレでいいでしょ?」
折り畳みの災害用ヘルだ。そんなんでいいんかな?
「だいたい、タンクって、どうやってのるんだ?」
「私がお兄さんの方に向いて乗れば、いいでしょ。」
俺がシートに座ると、俺の方を向いてタンクに座った。で、そのまま俺に抱き着いた。
「ね、大丈夫でしょ?」
あほか、こんなんで運転できるか。ムラムラくるだろ。
「だめだ、視界が遮られる。」
「そっか、だめか。」
「しゃーないな。」
俺は後部シートに結びつけている荷物をタンクの上に縛り付けなおして、後部シートを空けた。
「わあ~、ありがとう。」
「で、どこまでいくん?」
「お兄さんと同じところ。」
「なんでやねん?」
「一緒にいきたい。」
なんでそうなるかな。俺は一人旅がしたいんだ。
「ヒッチハイク違うん?俺はキャンプ主体の旅なんだよ。」
「私もそれでいい。」
「なんで俺に声かけんのよ?」
「だって、優しそうなんだもん。」
「オオカミになるかもよ。」
「大丈夫って気がする。」
やっぱ、誰にでも無害と思われてるんだ、俺。
「じゃ、俺の好きなところにいくぞ。」
「了解、レッツゴー。」
はぁ~、思いやられるわ。
今日の予定のキャンプ場は、結構、山の上の方。だけど、寄り道する。見晴らしのいいところでボーッとするつもり。だから、スーパーを見つけて、お昼を仕入れてこよう。スーパーはすぐに見つかった。
「えっ?ここまで?」
「お昼の仕入れだ。」
「そっか、私何食べようかな?」
いい気なもんだ。
俺たちは適当にお昼を仕入れて、また、走り出した。目指すは、あの見晴らしのいいところ。だけど、すぐに雨が降り出した。おいおい、どうしようか。カッパも1着しかないし。雨宿りできるところを探すことにした。でも、その間に彼女がビシャビシャになる。
「ホレ、これ着とき。」
「いいの?ありがとう。」
俺はうっすいレインコートをまとった。なんとかなるやろ。
しばらく、走ると、雨宿りできそうなところを見つけた。道端の野菜販売所。でも、今は何も置いてない。ここで、しばらく休憩だ。
「このカッパいいね。全然、濡れなかった。」
「だろ。」
「お兄さん、ビショビショじゃん。」
「だって、これしかないからね。」
「ごめんね。」
「まあ、いいってことよ。」
特にすることがなかったので、話をすることにした。
「若い気がするけど、いくつなん?」
「二十歳だよ。」
「ほんまか?」
「本当だってば。」
怪しい。
「で、本当はどこへいきたいの?」
「お兄さんと一緒のところ。」
「そうじゃなくて、本当はどこにいくつもりだったんだ?」
「だから、一緒のところ。」
まいったな。この子、絶対高校生って感じだ。絶対、二十歳じゃないと思う。
「名前は?」
「タカちゃんって呼んで。」
「それはあだ名でしょ、名前は?」
「だから、タカちゃん。警察みたいな取り調べはやめてよ。」
こりゃ、だめだ。それに全然雨がやみそうにない。ここで、お昼か。
「わかった、もういいよ。ところで、雨、やまないから、ここでお昼にするよ。」
「わかった。」
俺はお湯を沸かし始めた。
「お湯、できんの?カップ麺にすればよかった。」
「これは、コーヒー用だ。」
「いいじゃん、けち。」
まるで、がきんちょだ。やっぱり、高校生ちがうんかな。でも、ちょっと待てよ。このまま俺と一緒だと、俺は誘拐犯になってしまわないかな。これは、非常にまずい。飯、食ったら、どこかの駅に送っていく事にしよう。
「でもさ、女の一人旅、それもほとんど荷物もないなんて、なんか変だよな。」
「そんなことないよ。」
「どこかで働いてるん?」
「今は無職。」
「そっか。いつまでヒッチするつもりなん?」
「特に決めてないよ。」
「俺は明日、帰るけど。」
「え~、そうなん。」
「ああ、だから、どこかの駅に送っていくよ。」
「やだぁ。そんなん。」
「俺だって、いつまでも旅してらんないよ。生きるためには、働かなくっちゃな。」
「・・・せっかく、楽しい旅になるかと思ったのにな。」
「だいたい、男より女同士の方がいいんじゃない?」
「そんなことないよ。女同士はめんどくさいよ。」
「そんなもんか?」
「そうだよ。だから、私はいつもひとりなんだ。」
もしかすると、この子はいじめられてたんじゃないかな。
「友達いないの?」
「いないよ。」
彼女はだんだん暗くなってきた。
「そっか、もしかすると、俺とこんなに話をするなんて、久しぶりなのかな?」
「うん。」
「おかあさんとか、心配してないかな?」
「してないよ、絶対。」
「なんで、そう思う?」
「どうせ、目の上のたんこぶくらいにしか、思ってないよ。」
なるほどな。なんとなく、この子のことがわかってきた。
「俺は他人と合わせるのが苦手だから、いつもひとりだけど、タカちゃんは本当は誰かと一緒にいたいんかな?」
「私は気の合う人と一緒にいたい。いろんな話がしたい。」
「そっか。じゃ、少し付き合ったげるか。」
「ごめんね。お兄さん、ほんとにいい人って感じがする。」
「だから、オオカミになるかもよ。」
「そんなこと絶対にない・・・と思う。」
「しらんぞ、どうなっても。覚悟しとけよ。」
「うん。」
うんってか。困ったもんだ。まあ、この子も悪い子じゃないから、まあいいっか。
(つづく)
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