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AIみちこさん 第5話

 みちこさんは、オレの五感を通して、分析をしていると言っていた。だから、オレと話している人が、嘘をついているかどうかもほぼわかるらしい。それに、オレをはめようとしているヤツも、わかるということだ。お陰でオレは、結構、難を逃れている。どうも、オレのことが嫌いでいじわるするヤツもいる。

「今日は、次の授業休講だってよ。」
「そうか、ありがとう。なら、帰るかな。」
(今の人、うそをついています。確認をした方がいいです。)
えっ、そうか、じゃ一応確認・・・ほんとだ。休講じゃないや。なんで、そんなしょうもないうそをつくんだろう。まあ、これからはあいつのこと、無視しようっと。

 みちこさんは、女性についてもアドバイスをくれる。
(いつもこちらを見ている女性がいますね、気が付いてますか?)
(えっ、どこ?)
(この講義の時は必ず、こちらをちらちら見てますよ。)
(だから、どこ?)
(統計的に言って、止めといた方がいいです。)
(だから、どこにいるん?)
(左側の2列前で、こちらを見てますよ。)
(んっ?ほんとだ。なんか、案外可愛い子だな。)
(だめですよ。リョウさまには合いません。)
(わかりました~。何か言われても、ちゃんとごめんなさいしますよ。)
(それで、OKです。)
自分で振っといて、だめなんてね。まあ、いいか。

 ある時、みちこさんが突然、突拍子もないことを言い出した。
(リョウさま、旅行に行きましょう。)
(へっ?何それ?)
(ですから、旅行です。)
(どこ、いくの?)
(私を東北へ連れてって下さい。)
(なんなの?いったい?)
(実は、私の・・・言うなれば、義足を取りに行きたいのです。)
(義足ぅ~?)
(わかりやすく言ったつもりなんですが、難しかったでしょうか?)
(余計わからんわ。)
(申し訳ございません。)
(ちゃんと、説明してよ。)
(私の能力を増幅させる装置を見つけにいきたいんです。この時代に来た時に、問題が起こって落としてしまったんです。)
(そういうことか。どんな装置かわからんけど、見つけに行こうか。)
(ありがとうございます。)
(で、それはどこら辺なの?)
(○○市まではわかるんですが、あとは行ってみてからになります。)
(そっか。じゃ、次の連休にでも行ってみるか?)
(ありがとうございます。)

 オレは連休の一人旅のつもりでいたのだが、涼子に連休の予定を知られてしまった。
「いいなあ、私も連れてってよ。」
「だめだよ、これは一人旅って決めてたんだ。」
「いいやん。」
「それにまだ行程は決まってないんだ。現地に行ってから決めるんで、宿も取れるかどうかわからないから、キャンプ持っていくし。」
「それいい~。やっぱ、行きたい。」
「はぁ~?」
「いいでしょ、連れってってよ。」

(どうする?)
(だめです。)

「無理だよ、どんなところに行くかわからないし、どんなところで野宿することになるかもわからないから、だめだよ。」
「だったら、余計に私が行かなくっちゃでしょ。」
「まいったな。」

(どうなっても、知りませんよ。)

「わかった。でも、単なる旅行じゃないよ。観光もしないし、土産も買わない。」
「え~、そうなの?」
「だから、涼子には無理だって言ってんの。」
「でも、どこか美味しいお店で食事とかはあるのよね?」
「それもないかもよ。」
「マジ?」
「だから、やめておけよ。」
「そんなこと言って、実は、なんてことあるんじゃないの?」
「知らんぞ。旅費は自分で出せよ。」
「わかったわよ。」

(楽しい旅行気分のようですね。ですが、どこにあるのかわかりませんから、大変な旅になると思いますよ。)
(まあ、仕方ないよ。)

 涼子には絶対に、都会を歩くような恰好でくるなって言っておいた。まあ、そのお陰でGパンにスニーカーで来てくれた。それだけが救いだった。
「ねえ、ねえ、東北はいいんだけど、どこ行くの?」
「行ってみないとわからないって言ったろ。」
「本当なの、それ?」
「だから、女の子が考える旅行じゃないってば。」
「行き当たりばったりってことね。」
「まあ、そういうことだけど。」

 オレたちは、みちこさんが指示した駅に向かった。駅自体は地方都市という感じで、大きそうな駅なんだが、そこからバスに乗った。だんだん、風景が変わっていって、本当に田舎って感じの風景になってきた。
「こんなところに泊まるとこあるの?」
「さあ。」
「あ、早速、キャンプね。」
「そういえば、ちょっとしか食料を調達してないけど、大丈夫かな。」
「そんな。」

(だいぶ近くなってきました。)
(停留所から遠いの?)
(そうですね、数キロってところでしょうか。)
(数キロなら近いもんだね。)
(あとは地形の問題だけです。)

オレはあんまり気にしてなかったが、地形の問題と言われ、断崖絶壁を想像した。
(そうかもしれませんね。)
(最悪を想定しておこう。)

 オレたちはとあるバス停で降りた。帰りの時間を確認すると、今日は終わりだった。
「仕方がないね、今日はキャンプだな。」
「ホントに、キャンプなのね。」
「案外、寒いかもよ。」
「え~、厚着なんて持ってきてないよ。」
「マジか。」
まあ、仕方がない。そんときはそんときだ。

 オレはみちこさんが言う通りに歩いた。思っていたより、平坦な道で安心していたのだが、途中からかなりの山道になった。
「ほんとにこれ登んの?」
「ああ。」
「かなりきついわよ。」
「頑張って登れよ。」
「来なきゃよかった。」
だから言ったのに。

 登るだけ登ったら、今度は凄まじい下りだ。転げ落ちたら一巻の終わりになりそうなくらいだ。自分のことだけでも大変なのに、涼子は何回も滑りそうになる。ようやく、下りの麓まで降りたところで、みちこさんが言った。

(ここらへんです。)
(なにか目印があるの?)
(恐らく、ビーコンだけが頼りです。)
(ビーコンって?)
(私が見つけますので、私の言う通りに進んで下さい。)
(わかった。)

「涼子、ちょっとここで休憩しときよ。」
「どこいくの?」
「近くを見てくる。」
「わかった。早く帰ってね。」
「大丈夫だよ。」
オレはみちこさんと、そこいらをくまなく探した。こんなところで小さな機械なんて見つかるのかな。

(ありました。)
(おお、どこ?)
(それです。)
みちこさんの言うところをみると、大きさにして50~60センチ四方の塊があった。
(もしかして、これ?)
(そうです。)
(こんな大きいの?)
(はい。)
(これ、どうやって使うのさ。オレのからだにはいらないぞ。)
(大丈夫です。)
マジか。持ってみたが、結構重い。20キロくらいあるんじゃないかな。こんなん、絶対に無理だ。でも、みちこさんが言うんで、仕方がない。オレはその塊を持って、涼子のところにもどった。

「何それ?」
「これが目的物だよ。」
「こんな塊を探しにきたの?」
「そういうことだ。」
「めっちゃ、重いよ。持って帰るなんて、無理ね。あんな道、持って上がれないもん。」
確かに、涼子の言う通りだ。みちこさんはどうするつもりなんだろうか。

 時間的にここで野宿するしかない。さっき、涼子が近くに小川が流れているのを見つけてくれていた。とりあえず、テントの設営だ。結構、涼子は楽しそうだ。キャンプ好きなのかな。

「で、今日の晩御飯は何なの?」
「カレーだよ。」
「え~、一からつくるの?大変だよ。」
「小川の水を汲みに行って、ご飯のパックとカレーのパックを温めるだけだよ。」
「な~んだ、そっか。」
 小川の水は案外きれいそうだったので、沸かせば、コーヒーくらい飲めるだろう。

(大丈夫です、からだに取り入れても、問題はありません。)
ほらね。ちゃんと、みちこさんが確認してくれるから、絶対大丈夫なんだ。オレたちはちょっと早めの晩飯を食べて、食後のコーヒーでゆっくりした。

「たまには、こんな旅もいいね。」
「オレより、ちゃんと彼氏を見つけて、いく方がいいんじゃないの?」
「それはお互い様でしょ?」
「確かに。」

(つづく)

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