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カイカイとつばめ 第2話

「身内の方ですか?」
「はい、まあ。」
「ちょっと、こちらへ。」
オレはつばめをおかあさんのとこに残して、看護師さんの後をついていった。オレは医者のいる個室へ案内された。恐らく、彼女の病症を話してくれるんだろうと思った。

「木ノ内めぐみさんは、すい臓ガンでステージ4なので、もって半年です。お聞きになってますか?」
「えっ?それは、本人は知っているんですか?」
「前回、倒れた時にお話ししていますから、ご存じのはずですが。」
えっ、この前は貧血だって。それじゃ、つばめはどうなるんだ?
「今回の状況では、退院するのは難しいです。」
まじか。オレは医者からこれからの治療方針とか、いろいろ聞いたが、あまり覚えていない。

 話が終わって、病室へ戻ったら、つばめがめぐみさんの手をずっと握っていた。
「ねえ、おかあさん、どうなるって?」
「かなりくたびれてるから、ちょっとの間、入院だって。」
「そっか、仕方ないよね。」
「だな。」
「今日はどうするの?」
「明日もあるから、一旦、一緒に帰ろう。で、つばめちゃんは、明日学校に行って、オレも会社へ行くけど、夕方、オレが帰ってきたら、また、おかあさんをお見舞いに来よう。」
「わかった。」

 オレたちは、めぐみさんの病室で、コンビニ弁当を食べた。しばらく待ったが、起きることがなかったたので、一緒に家に帰った。
「ねえ、カイカイ。」
「んっ?」
「あのまま、おかあさんが亡くなったら、私どうしたらいいんだろう?」
「何あほなこと言ってるんだ?そんなことないだろ。絶対に元気になるって。」
「だよね、考え過ぎだよね。」
女の子の感はするどい。でも、どうすればいいんだ。めぐみさんは、親戚とかいるんだろうか?つばめをどうするともりなんだろうか?

「ねえ、カイカイ。」
「どうした?」
「一緒に寝てもいい?」
まだ小学校だもんな。淋しいんだろうな。
「いいよ。おいで。」
つばめは、オレに抱き着いて眠りについた。ひとりじゃ不安なんだろうな。

 次の日、つばめを見送ったあと、オレも会社へ行った。でも、めぐみさんやつばめのことが気になって、半休を取って、ちょっと早めに会社をでることにした。オレは一度、病院に行ってみた。めぐみさんは起きていた。
「カイくん、ごめんね。迷惑かけちゃって。」
「いえいえ、そんな気にしないで下さい。」
「でね、私もう長くないの。」
「ええ、お医者さんに聞きました。」
「そうなんだ、聞いたのね。じゃ、1つお願いしていい?」
「いいですよ、なんでも。」
「私の遠い親戚が1つだけあるから、そこに連絡しておくので、つばめを引き合わせてほしいの。」
「それくらいならお安い御用ですよ。」
「ごめんなさいね。」

 めぐみさんの親戚の方は、それからすぐに来てくれた。オレは、その方とつばめを引き合わせた。あとは、その方がすべてやってくれるようだった。
「なんで、カイカイは来てくれないの?」
「親戚じゃないからよ。」
「ずっと一緒に住んでいるのに?」
「そうよ。」
オレの知らないところで、そんな話をしていたようだった。

 めぐみさんは、それから間もなく、息を引き取った。何年も一緒に住んでいたオレは、涙が止まらなかった。あまりに悲しかった。つばめも心配だったので、オレは会社を休んで、ずっとつばめの傍にいた。

 葬儀も終わり、本当につばめともお別れだ。でも、何やら、親戚の人ともめている。
「私は絶対に行かない。」
「何言ってるの。ひとりじゃ、暮らしていけないでしょ。」
「私は絶対にこの家から離れない。おかあさんがいるもん。」
そんな話だった。つばめちゃんは、オレをみるなり、こう言った。

「カイカイと一緒に暮らす。いいでしょ?」
そんなこと、全然考えてなかった。オレだって、この家をでなくちゃならない。めぐみさんがいたから、半額だったのに倍額では暮らすにはしんど過ぎる。
「オレもこの家を出なくっちゃ、いけないんだよ。」
「えっ、なんで?なんで、カイカイもそんなことすんの?ひどいじゃない。」
経済的にここでは暮らしていけないんだ。
「ごめんな。仕方ないんだ。」
「カイカイのばか。」
つばめちゃんは、大声で泣きわめいていた。

 だけど、こんなことがきっかけになるとは思ってなかったけど、オレは覚悟を決めた。
「なあ、つばめ、オレはここでは暮らせないけど、引っ越し先で一緒に暮らすかい?」
「え、いいの?」
「ああ、つばめさえよけりゃな。」
「行く。私、カイカイと一緒に暮らす。」

 親戚の方には、かなり文句を言われたが、オレはつばめを引き取ることにした。親戚の方と養子縁組の手続きをして頂いた。行政への申請や手続きは大変だったけど、正式につばめはオレの子供になったのだ。

 引っ越し先は、ボロボロの平屋の一軒家。1DK+Nだったが、なにせ、値段が安い。大家さんに許可をもらっていたので、オレとつばめで、それなりにリフォームすることにした。4畳半ほどの納戸は、将来、つばめの部屋にするつもりで、多少、綺麗に壁紙を張った。でも、当面はオレたちは同じ部屋で、一緒に暮らすことにした。
「これからは木ノ内つばめじゃなくって、北山つばめになるんだよ。」
「カイカイと同じ苗字?」
「そうだよ。いいだろ?」
「ふ~ん、なんで?」
「オレたちは親子になったんだ。」
「じゃ、おかあさんとも結婚したことになるの?」
「そういうわけじゃないけど。」
「なんで、おかあさんが生きているうちに結婚しなかったのよ。」
つばめは泣き出した。
「そんなこと言っても・・・」
「つばめが一人になってしまって、全然知らない親戚のとこへ行くよりは、オレといる方がいいんだろ?」
「つばめは、おかあさんがいるうちに、子供にしてほしかった。」
まいったな。どう言ったらいいんだろ?オレは黙ってしまった。
「もう、後戻りはできないんだから、前を向いていこうや。」
「やだ。」
「じゃ、親戚のお家で暮らすかい?」
「そんなの、もっとやだ。」
つばめはオレに抱き着いてきた。しばらく、泣いていた。多分、自分の中で整理がついてないんだろうな。

 しばらくして、泣き止んだつばめはこう言った。
「私が大きくなったら、カイカイと結婚するから。」
そんなことはだいぶ前から、つばめに言われていた。でも、養親と養子は結婚できないんだ。
「ありがとう。」
オレは小さい女の子の言うことなんか、真に受けてなんかいない。だから、いつも返答は、冗談返しだった。

 休みの日には、オレたちはいろんな部材を買ってきて、ボロ屋の修理や改装を楽しんだ。つばめの希望もかなり取り入れて、改装した。1か月くらいで、なんとかオレたちが納得する家にすることができた。オレにとっては、つばめとの生活が中心になっていた。

 そんなある日、会社の同僚の近藤が、合コンの話をもってきた。たまには同世代の連中と飲みにいくのもいいかと思い、その日はつばめの夕ご飯を先に用意して、つばめには遅くなると連絡しておいた。
「北山さんが参加するなんて、すっごい久しぶりですね。」
「まあ、気分転換かな。」
「つばめちゃん、怒ってなかったですか?」
「飲み会って言ったし、たまにはいいよってさ。」
「合コンってわかったら、まずくないですか?」
「大丈夫でしょ。」
オレは合コンでは彼女なんかできないと思っていたし、その場限り、楽しかったらいいかと思っていた。

 今回の合コンは4×4で、こちらのメンツは30前後、女性陣は全員20代らしい。でも、こんな工場勤務の男どもと、よく合コンする気になってくれたもんだ。オレたちは、早めに店に到着して、どんな子がくるのか、想像を膨らませていた。時間前に女性陣も到着した。見たところ、やっぱり、20代のような感じだ。変に高そうな服装で、けばい子はいなかったので、安心した。そんな子は絶対オレたちに合いっこない。

 早速、お互い自己紹介をした。オレは特にピンとくるような子はいなかったので、まあ誰とでも楽しく話ができればいいと思っていた。
「この中で、北山だけが子持ちです。」
余計な事、言いやがって。
「ええ~、そうなんですか?」
さすがに女性陣は引いてしまったようだ。
「子持ちでここに来るということは、シングルですか?」
するどい突っ込みが入った。
「そうです、北山はシングルファザーなんです。」
「ええ~?そうなんですか?」
まあ、そうだけどね。だけど、そこからどんどん突っ込まれる。

(つづく)

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