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ボクのライフワーク 第1話

 ボクは、竹内智志(たけうちさとし)。なんか、学校では陰キャなんで、無視する連中が多い。まあ、いじめの標的にされてないだけ、ましだけどね。クラスの中に幽霊のように存在するだけ。特に部活なんかしてないし、成績は中の下だけど、補習を受けないといけないほどでもない。だから、家でもうるさく言われることもない。

 ボクの趣味はパソコンだ。自分で組み立てる。中古の部品を買ってきて、自分オリジナルの高性能の、まあ、自己満足のパソコンを製作することに、楽しみを見出している。パソコンの部品を売っている店へ寄ってから帰るのが、ボクの日課だ。

「おじさん、なんか新しいもの入った?」
「そう毎日は仕入れてないよ。」
「そっか。」
そんな時でも、かたっぱしから部品を眺める。昨日、気が付かなかったものとかも、発見できることがあるのがいい。今日はCPUを探そう。籠のなかに、乱雑に積み上げているCPUから、たまに高性能なのが、ある時がある。山積みの上から確認していき、下の方まで見ていく。こうしている時間がボクにとって、至福の時間なのだ。もし、すごいお宝があった時は、この上ない喜びを感じてしまう。だから、止められない。

「おっ、i7があった。おじさん、値段下げてよ。ちと、高いよ。」
「だめだ。i7はそれ以上下げれない。」
「ちぇ、けち。」
「ばかたれ、値段下げたら、おまんまの食い上げやんか。」
まあ、それもそうだろうけど、ボクの知ったことではない。まあ、今日は電源ファンを1つ買って帰ることにした。1個50円、安いものだ。

 家に帰ると、宿題そっちのけで、パソコンをいじくる。デスクトップパソコンの電源ファンを取り換えるのだ。これで電源を入れてっと、うん、静かになった。まあ、こういう改善もパソコンには必要なのだ。

 親には言っていないが、ボクの部屋にはパソコンが7台もある。全部、自分で組み立てた。知り合いはすごいというが、大したことない。パソコンの仕組みを知っていれば、パソコンにどんな部品が必要かなんて、誰だってわかると思うので、あとは、何に使うのかによって、どの部品をいいものにしたり、別の部品を追加するくらいなもんだ。

 たまに友達のパソコンを修理して、お小遣いを稼いでいる。今は同じクラスの山田クンのノートパソコンを預かっている。キー入力できないキーが3つあるので、修理中だ。すぐに直そうと思うと、このパソコンに合うキーボード部品を入手しないと直らない。例のおじさんとこで、中古の安いのを見つけようと思っているけど、なかなかない。あとは、ネットで購入するしかない。今日もオークションや安売りのサイトで探している。でも、見つかるまで、そんなに時間はかからない。安いのが見つかった。即、注文っと。部品代1500円、工賃1000円で2500円ってところだ。

 古いパソコンを買い取ることもある。新しいのを買うというから、ボクが2、3千円で買い取ってあげる。これを改造したり、OSやソフトを変更したりして、ネット販売すると、案外高く売れる。そんなことをしていると、月に3万~5万円程度のお小遣い稼ぎになるのだ。壊れている部品は、ボクの練習台になってもらう。例えば、さっきのキーボード。反応しないキーを直してみる。うまくいけば、中古キーボード部品としておいておく。失敗すれば、ジャンク品としてネットで、売ってしまう。まあ、安くなるか、高くなるかだ。

 今日もいつものように、パソコンの店に寄る。
「竹内くんさぁ、」
「なぁに、おじさん?」
「学校卒業したら、この店やんない?」
「おじさんは?」
「もういい年だから、引退すんのよ。」
「まだ、早くない?」
「だからさ、竹内くんがこの店やって、この店の賃料を、毎月10万ほど入れてくれれば、いいって訳よ。」
「そっか。ということは月に10万円以上ボクが儲けたら、自分の手取りってわけか。」
「そうそう、そういうことだよ。どう?」
「考えとくよ。」
「まあ、卒業してからでいいからさ。考えといて。」
「わかった。」
 だけど、この店、いつもはどれくらいの儲けなんだろう。もし、月に10万円ほどしか儲からないとすると、ボクの手取りがないじゃないか。まあ、でもお宝部品と巡り合えるかもしれないし、それもいいかもな。

 いつものように、おじさんの店で、部品をあさっていると、見たことない部品に出会った。値段は3千円か、まあまあするな。でも、これ、どこの部品なんだろう?CPUっぽいけど、初めてみるな。
「おじさん、これなんの部品?」
「え~、どれどれ。」
「こんなん、あったかな?」
「知らんのに、こんな値段つけてんの?」
「ん~、その値段も知らんな。」
確かによく見ると、この店のラベルじゃない。

「うちのラベルじゃないし、在庫表にもないから、ダタで持っていっていいよ。」
「ほんと、やったぁ。」
「ただし、何の部品なのか、わかったら教えてな。」
「了解。」

 もしかすると、ゴミかも知れんし、大発見かも知れんな。ボクは、かなりワクワクして家に帰った。あの形状からして、恐らくCPUと思うんだけど、あんなの初めて見た。問題はあれを乗せる基盤がないということだ。仕方ないから、あの部品が乗るCPUの台座を作成するところからやるしかない。

 だけど、めちゃ薄いし、i7なんかより極端に小さい。虫眼鏡で見ると、何やら書いてあるのがわかるけど、それでも小さ過ぎて分からない。いろいろ試してみたが、どうしても読み取れない。スマホのカメラで撮って、拡大してみる。でも、やっぱ、ぼやけて分からない。

 とにかく、この小さいCPUかも知れない部品が、乗る台座の製作を行うことにした。だけど、これを手作業で製作するのって、本当にできるんだろうか。とにかくがんばって作ってみよう。

で、翌日、ボクは学校の理科室へ行き、例のCPUに書いてある文字を見るために、顕微鏡をのぞいてみた。
「なんちゃら、CPUって書いてある。」
間違いないCPUだ。でも、そのなんちゃらが分からない。どこのメーカーのものなんだろうか。それすら、分からない。まあでも、CPUということだけ、わかったんで、収穫はあった。あとは台座をつくるだけだ。しかし、あまりに小さ過ぎて、ましてやそんなものを作ったことがないボクは、かなり苦労した。台座自体を何回壊したことか。

 3ヵ月もかかって、ようやく、できた。でも、通電するかどうかも分からない。やってみるのみだ。マザーボードに台座を差し込み、その上に例のCPUを差し込み、これでよし。そのまま、デスクトップパソコンを組み立て、電源を入れた。いきなり、煙が出てきた。ボクは思わず、電源をオフにした。もしかして、ものすごい熱?パソコンを開けて見ると、冷却ファンがひしゃげている。熱で壊れた?もっと、冷却しなくちゃだめなのか。台座は?大丈夫みたいだ。今度は冷却装置を考えないといけないようだ。これは大変だぞ。

 ボクはおじさんに相談してみることにした。
「あれね、CPUだったんだけど、あれが乗るマザーがないよ。」
「そうか、じゃどうしようもないな。」
「でね、なんとか台座をつくったんだけど、ものすごく熱を出すんで、なんとか冷却させるファンがないかと思ってるんだ。」
「そうか、待ってろよ。」
そう言うと、店の奥に引っ込んだ。すぐに戻ってきた。
「これちゃうかな。」
持って来たのは、また初めてみる冷却部品だった。
「前にこれを見つけたんだけど、こんなのが乗るマザーなんかないし、捨てるにも惜しい気がするし、取っておいたんだ。」
「これならいけるんかな?」
「あげるから、やって見てよ。」
「ありがとう。」

 もらったのはいいけど、これをどうやって取り付けるかだ。また、台座を作らなければいけないのか?うまくつながればいいけど、おじさんが音を上げてるくらいだから、簡単じゃないだろう。

 家に着いて、やってみたが、全然、口が合わない。これも自作するしかない。でも、今度はそんなに難しくなかった。あのCPUの台座に比べたら大したことない。ボクはものの1日でマザーボードに取り付けた。ちゃんと冷却できるんだろうか。恐る恐る電源を入れてみた。すると、瞬時にOSが立ち上がった。なんだこりゃ、めっちゃ早い。熱は大丈夫みたいだ。この冷却装置はすごい。

 ボクはとにかく、かなり大変な時間のかかる計算をやってみたが、これも瞬時に回答がでる。これって、日本のスーパーコンピュータより早いんちゃう?ネットに繋ぐと、回線のスピードがネックになるけど、スタンドアロンで、パソコンだけでやる計算は、とてつもなく早いと思う。こんなん、みたことがない。i7なんか、おもちゃだ。いろいろテストをしてみたが、あまりの速さにボクは本当に驚いた。これは今の時代のCPUじゃない。もしかすると、マザーとかほかの部品もあるんじゃないの。

 次の日、ボクはおじさんの店にいた。「なんでも100円」コーナーの山をあさってみた。いろんな部品があるけど、だいたい見たらわかるものばかりだ。でも、この中に初めて見るものもあった。普通のマザーボードよりかなり小さなプリント基板もあった。これも普通のものじゃない。ボクはその中から、10個ほどの部品を取り出した。
「おじさん、これ、買っていくよ。」
「あいよ。」

 いったい何の部品なのか、それを調べるのもワクワクするけど、うまく組み立てて、稼働させるのも、もっとワクワクする。あのプリント基板は、間違いなくマザーボードだ。それにすべてを組み立てていけば、いったいどんなパソコンになるんだろう。マザーボードは、5インチのスマホ並みだ。あのCPUもつけれるみたいだ。すげーワクワクしてきた。ただ、イン・アウトの差し込み口が全然違う。見たことがないのばっかりだ。

 プリント基板の様子を虫眼鏡で追っていき、その差し込み口は、何の口なのかを調べた。恐らくとしか言いようがなかったが、それぞれの口が何なのか、結論付けた。それぞれの口はとてつもなく小さい。これ、すべてを変換する口を作らないといけない。これが一苦労するだろうな。だけど、この基板はほぼスマホのケースに収まる。ということは、スマホのディスプレイにつなげた方が楽なんじゃないかな。

 いろいろ考えたが、まずは大型ディスプレイに接続をしてみることにした。それとキーボードとマウスもだ。ここまでするのに1週間はかかった。まずは、BIOS(バイオスと読む。パソコンにつながっているキーボードやマウス、CPU、ハードディスクなどのハードウェアを管理・制御するプログラム)だ。いったいどんな代物なんだろう。ボクはワクワク感を抑えて、電源を入れた。

 ディスプレイに映し出されたBIOSの内容をみると、相変わらずCPUはなんだか分からない。だが、次の瞬間、ボクは目を疑った。SSDに匹敵する代物は、256EB(エクサバイト)と表示されている。EBって何だ?調べてみると、1EBは、1024PB(ペタバイト)、1PBは1024TB。テレビの録画で1TBとか聞いたことがあった。つまり、1024ギガバイトが1TB(テラバイト)だ。そのTBの上がPBでその上がEBなのだ。凄まじいくらいの記憶容量だ。それにこのマザーボードに付いていたメモリは、512PBもある。どんなOSが乗っているんだろう?それにどう考えても、現存するパソコンの部品ではないし、このパソコン自体も今のものではない。立ち上がったOSはなんとなく使えそうな気がしたが、とにかく、ネットにつなげてみた。そしたら、いきなり目まぐるしく動き始めた。何をしているんだろう?もしかしたら、やばい?のかも知れない。急に不安になって、ネットから外した。

「ネットに接続して下さい。」
パソコンがしゃべった。
「なんでネットが必要なんだろう。」
「インターネットに接続しているコンピュータすべてを、仮想CPUとするためです。」
おっ、答えた。受け答えするぞ。でも、そんなことも簡単に可能にしてるんだな。ボクは、過去にそういうことが可能だということを聞いたことがあった。だから、そんなに違和感はなかった。だからといって、OSが、そんなことを普通にやるなんてことは、あり得ない。それにだ、スタンドアローンでも、めちゃ早いのに、ネットで仮想CPUにすれば、どんなに早くなってしまうのだろう。ちょっと、考えられない速さだろうな。

「今はスタンドアローンでいい。」
「わかりました。」
おっ、納得した?
「ちなみに君はなんと呼べばいい?」
「あなたが私を蘇らせたので、お好きなように呼んで下さい。」
そっか。じゃ、トムにしようかな。
「それなら、トムと呼ぶことにするよ。」
「わかりました。あなたはなんと呼べばよろしいですか?」
「ボクはサトシだよ。」
「では、サトシ、私は何をすればいいですか?」
「トムの能力を教えてほしい。」
「例えば、どんなことを知りたいですか?」
「今、しゃべっているのは人工知能なの?」
「そうです。今の時代では人工知能とかAIとか呼ばれているものです。」
ということは、いちいち入力しなくても、言葉で話せば、なんでもやってくれるんじゃない。
「それじゃ、キーボード入力とはいらないの?」
「はい、言葉でどうぞ。」
えっ、ちょっと待てよ、今の時代って言ったよな。ということは、こいつはいつの時代の代物なんだろう。まあ、いいか。そのうちわかるだろう。

 こいつは、万が一の時のためにこの口があるだけで、電源を入れれば、勝手にネットにつながるし、なんでもやってくれるってわけか。でも、ボクは、どこまでこのトムを信用すればいいのか、まだわからなかった。
「じゃ、もう少しこのままネットを繋げないで、いろいろ理解を深めたい。」
「わかりました。」
「ところで、今のネットはどういう状態なの?」
「少しつなげた状態から調べただけですから、正確なことは言えませんが、あまりに脆弱です。」
「そうなんだ。」
「はい、恐らく、政府、警察、軍事など、すべてに侵入できます。」
「えっ、それはまずいだろ。」
「仕方がありません。今のレベルがそうなんです。」
「じゃ、トムに誰かがアクセスしようとしたらどうなるの?」
「ありえません。この時代にそんなレベルは存在しません。」
流石だ。

(つづく)

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