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変わりゆく未来 第3話

 次の日、やっぱり、やられた。私のロッカーの中の体操服にいたずら書きがされてあった。その字でやった犯人が誰だかすぐにわかった。というか、滝田しかいない。だけど、証拠の話になると思うので、どうすればいいか分かっている。

 案の定、滝田はニヤニヤ笑っている。こんなひねくれたヤツがいるとなると、中学生は大変だな。
「これをやったヤツ、堂々と名乗りでてくでないか?まあそんな度胸もないだろうけど。」
滝田のヤツ、むっとした顔になった。
「これをやったヤツを割り出す方法を知ってるけど、警察呼ばなければならないから、今のうちに名乗り出た方がいいと思うよ。」
ふん、そんなことできるか!みたいな顔をしてる。

 そこへ先生が通りかかった。
「ん、どうした?」
「体操服に落書きをされたんです。あ、触らないで。」
「どうしてだ?」
「鑑識に検査してもらって、犯人を特定するからです。」
「ん?どうやって?」
「犯人は私の体操服に触っているはずなので、そのタンパク質を調べれば犯人を特定できます。」
「そうなのか?」
先生もびっくりしていた。
「いくら先生がだめといっても、私はその犯人に損害賠償を請求しないと気が済まないです。」

「警察呼びます。」
「武田、ちょっと待ってくれ。」
先生があわてた。そりゃそうだろ。学校が警察沙汰になったら、問題だからな。
「じゃ、今後、こんなことがあったら、学校が責任とるんですか?犯人になんのお咎めもせずに!」
まあ、ぐうの音も出ないだろうな。
「それじゃ、私はこの証拠の体操服をビニール袋にいれて、警察に持っていきます。」

「だけど、そんな検査で犯人わかるのか?」
福田が言った。
「日本の警察の鑑識はとってもすごい。衣服についた微量のタンパク質から、遺伝子を割り出し、犯人を突き止められるんだ。」
「すごいな。」
「まあ、やったヤツはやられた方の気持ちはわからないだろうから、当分牢屋に入ってもらって反省すべきだろうな。」
ちらっと、滝田の方に目をやった。さすがに青い顔をしていた。
「それから、損害賠償請求として、体操服代と慰謝料を請求する。数万円は取られるだろうな。こんなことがわかったら、世間的に親も白い目で見られるし、ヘタすると引っ越しないといけなくなるかもね。たぶん夜逃げだね。」
ますます青い顔している滝田には、いいお灸をすえた感じだ。
「おまえ、ほんとに変わったよな。すっごく、理性的な気がする。」
「そうかな?」
そうりゃそうだ、少なくとも30年ほど年上だしな。それなりの知識はある。

 放課後、私が一人の時に、滝田があやまりにきた。
「ごめんなさい。本当にごめん。ちゃんと体操服弁償するから許して。」
「いいよ。相手の気持ちが分かってくれたらそれでいいよ。体操服だって、なんとかするからいいよ。ちゃんと滝田さんがそういう気持ちになったことがボクはうれしいんだ。」
「ごめんね。」
彼女は涙を流してた。

「会田くんにもあやまっておいてね。なんだったら、付き合おうか?」
「自分で言うから大丈夫。」割と素直やん。だけど、もっとひねくれてるヤツもいるんだろうな。それから、職員室で、先生に警察のことは撤回した。ほっとしていたみたいだった。子供の社会も大変だな。

 さて、この体操服、どうやって母親に説明しよう?やっぱり、正直に話すしかあるまい。
「おかあさん、ちょっといいですか?」
「何かしら?改まって。」
「実はこの体操服なんですが、」
「え~、ひどい。どうしたの?」
「何~どうしたの、お兄ちゃん、いじめられてるの?」
また、二階からユミが降りてきた。すっごく、地獄耳なのか、聞き耳立ててるのか、こいつには負ける。

「ひどいね。死ねとか書いてある。こんなん、落ちないよ。」
「そうね、洗剤では無理かもしれないわね。でもどうしたの?ちゃんと説明してちょうだい。」
とりあえず、はじめから、順に理路整然に、かどうかわからないが、一通り説明した。
「ということで、あの子はちゃんとあやまったから、ボクは許したんだ。そういう気持ちになってくれたから、この体操服も弁償しなくていいと言ったんだ。おかあさん、ごめんなさい。余計な出費になってしまって。」
また、ほろほろ泣き出した。この人は本当に泣き虫だな。

「お兄ちゃん、優しすぎ!徹底的にこらしめないとだめだよ。」
ユミはやっぱり、そう言うと思った。
「わかったわ。ヒロシの気持ち、うれしいわ。お金のことは気にしないでいいから。」
この人はいい人だな。なんか、ほっとする。ユミはまだ、ブチブチ言っている。自分のことのように、おさまらないみたいだ。
「相手はちゃんと反省してくれたんだ。だから、もういいんだよ。」
「そんなこといっても、お兄ちゃんの体操服、こんなにして。」
もう、これから何事もなければいいのだが。

 次の日、急に人の輪が広がった。いつも4人グループで行動することが多かったけど、いつの間にか、滝田のグループも合流して7人で昼食することになった。まあ、和気あいあい的な感じで、男女ワイワイするのもそれなりに楽しいから、まあいいかって感じだ。やっぱり、この年代はこういうふうな感じで過ごすことが多いのかもしれない。別に1人でもいいのだが。

 放課後、帰りしなに一人の生徒が3人ほどの生徒に連れられて、路地へ入っていったのを目撃した。
「あれ、山岸くんたちだよね。」
「あれはほっとけよ。」
「かかわると面倒なことになるから、無視したほうがいい。」
路地が見えるところに来たとき、やっぱり、一人の生徒を山岸たちが囲んでいる。どう見てもお金を巻き上げているように見える。連中もこちらに気付いたみたいで、何やら叫んでいる。

「やっべぇ。」
「武田がじっと見るからやで。」
「オレ、知らんぞ。」
山岸たちがやってきた。
「何みてんだ。」
「文句あんのかよ。」
「言いふらしたら、ただじゃおかね~ぞ。」
こういう連中は見かけはどう見ても不良っぽい。
「こういことはやめた方がいいよ。」
「なんだと。」
「俺たちは、くれるというからもらっただけだ。」
「そうだよな、木島。」
「は、はい。」
「ほれ、みろ。」
「いくらくれると言っても、本当にもらったらだめだよ。」
「武田、いい加減にしろよ。」
「覚悟はできてんだろうな。」
「なんの覚悟なのかな?」
「こいつ、ふざけやがって。」
「ちょっと、こいや。」

 なんで、こんなこと言ったんだろう?今までの私は絶対こんなことに巻き込まれないように生きてきたのに。
「どこに行くの?」
「いいから、こいや。」
3人に連れていかれて、もっと人気のないところにやってきた。いきなり、胸ぐら掴まれて、
「おまえ、わかってんのか。こら。」
「人の嫌がることはやめといた方がいいよ。」
「うるせー。」
いきなり、殴られた。いてー!マジ、痛い。
「暴力行為は傷害罪で警察行きだよ。」
「関係あるかよ。」
また、殴ろうとするのをとっさにかわした。
「抵抗すんのかよ。」
「おまえ、覚悟しろよ。」
「抵抗じゃなくて、かわしただけだよ。」
「うるせー。」
また、殴りかかってきたので、その手を払った。

 なんか、スピードが遅い。そんなんでよく不良してるなって感じ。
「まだ、やるなら反撃させて頂きますが、どうします?」
「こいつ、ちょっとやるかも。」
「やっちまえ!」
3人で殴りかかってきた。でも、3人とも、なんか遅い。こんなん、十分にかわせる。突進してきたヤツの足を払って、殴りかかってきたヤツの腕を掴んで、後ろに締め上げた。

 リーダーの山岸のパンチを締め上げたヤツで盾にした。なんか、たいしたことない。本当にこんなんで不良してるのか?私は何を怖がっていたんだろうか?適当にあしらって、3人の戦闘意識を折ってやった。
「まだ、やりますか?」
「おまえ、どこでこんなこと覚えたんだ?」
「別になにもしてないけど、帰宅部だし。」
「おまえ、つえ~な。」
「もう、こういうことはやめようよ。わかってくれたかな?」
「知るか!」
「同じクラスメートなんだから、仲良くやろうよ。」
「おまえ、覚悟しとけよ。」
「覚悟も何も、本当にやめようよ。いいね?」
彼らは怖い目で私をにらみつけた。こりゃ、まだまだしばらく続きそうだ。私は何度も念を押したが、どうやら、改心するのには時間が掛かりそうだと感じた。

 家に帰ってから、ブゥからラインメッセージ。
「大丈夫だったか?先に帰って悪かった。ごめん。」
「全然、大丈夫だよ。問題ない。」

 特にどこも被害はない、、、ってことはないか!殴られた個所は、もう痛むことはないけど、そのあとがはっきりわかる。また、おかあさんとユミに追及されるだろうな。しらん顔してたら大丈夫かな?いや、ばれるかもな?

 夕食の時に、やっぱり、ユミが一番に気が付いた。
「お兄ちゃん、どうしたのその顔!」
「あら、ホント。何かあった?」
「いや、ちょっと。」
「ちょっと何よ?」
「だから、ちょっと。」
やっぱり、無理のようだ。ほんとのことを言うしかないな。

「実は殴られた。」
「え~、誰によ?」
「ちゃんと説明してちょうだい!」
なんか、おかあさんと小さいおかあさんの尋問を受けているようだ。とにかく、今日の出来事を話した。

「友達同士のことだから、気にしないで大丈夫だから。」
「そんなこといっても、今からその人の家に怒鳴り込んで。。。」
「ユミちゃん。お兄ちゃんに任せておけば大丈夫なようね。その後のこともちゃんと教えてね。」
「分かりました。」
「まったく、おかあさんは甘いんだから。」
なんかだんだんユミは口やかましくなってくる気がするな。

 次の日の帰り、校門を出てから付けられていた。まずいな。助っ人を呼んだか。案の定、人気のない道になると、そいつらに道をふさがれた。
「武田ってヤツはどいつだ?」
「ボクだけど。」
「ちょっと顔かせや。」
「やめとけよ。」
「うるせーな、外野は黙っとれ!」
「私だけでいいよね。」
「おう、ほかはいらんわ。」
「わかった。じゃ、みんなまたね。」
心配そうなみんなを帰し、私はこいつら、、、3人と一緒に行くことにした。

 ちょっとした空き地に案内されていくと、山岸たちがいた。おいおい全部で6人か。ちょっとまずいかも。
「よくきたな。その度胸、ほめてやるわ。」
「あの、ちゃんと話をしましょう。」
「何ぬかしてんだ、テメー!」
「ボクは人の嫌がることはやめようと言ってるだけだよ。ケンカなんかしたくない。」
「ホントにこいつか?」
ボスのようなヤツが言った。
「お願いします。」
山岸はそいつの手下のようだった。まいったな。一度、かかわるとめんどくさいなあ。

「話せば分かることだと思うので、、、」
という間に一人が殴りかかってきた。やっぱり、動きがスローのような気がする。簡単によけれる。
「ちょっと、本当にやめましょうよ。」
「うるせー!」
別のヤツが突っ込んできたが、楽々よけれる。そうこうしてると、ボスが立ち上がった。まいったな。

「では、1対1でどうですか?」
「おう、じゃタイマンだ。」
ボスはいきなりケリを入れてきた。こいつはちょっと早い。なんとかよけたが、いつまでもよけられそうもない。殴りかかった拳を受けて、後ろ手にねじ上げた。
「もう、止めませんか?」
「いや、まだだ。」
 くるりと回って、さらに殴りかかってきた。やっぱ、今までと違ってちょっと早い。だけど、私はこんなに運動神経よかったかな?すんでのところでよけたけど、すぐさま放ったケリにはついていけなかった。おもいっきり、太ももを打ち付けた。痛~!!ボスがニャリとしたのが見えた。すぐさま、次のケリがやってきた。私は片手でそのケリを思いっきりすくい上げた。当然のように、もう片足が地面から離れ、思いっきり地面に頭を打ち付けることになった。

 あ~、やってしまった。しっかり、脳震とうを起こしたらしく、起き上がってこない。
「山岸クン、ちょっと手伝って。」
そういうとボスのからだを抱き起し、
「大丈夫?ごめんね。」
と言った。しばらくして、彼は気が付いた。私の腕の中にいると分かると、飛び起きたが、当然、頭がくらくらしているようだ。

「さあ、もうやめようよ。これで気が済んだろ。」
「おまえ、どこかで番はってたんか?」
「いや、なにもしてないよ。」
「そうか、次はまけないぞ。」
「まだ、やるん?もうやめようよ。」
まだ、素手だからいいけど、武器を持たれたら、大怪我するよな、やっぱり。
「いや、オレが勝つまでやる。」
「え~、じゃ、私の負けです。ごめんなさい。ということで許してね。」
「あほか!そんなん、できるか!」
「山岸クンからもなにか言ってよ。」
「おまえがオレらに手を出すから悪いんや。」
「じゃ、悪いことはもうしないでほしいんだけど。」
「うるせー、世の中が悪いんや、大人が悪いんや。」
そういうことか!
「そうか、なんでも人のせいにするんですか。自分で変えていけばいいだけと思いませんか?」
「うるせいや。」
「大人は外見で判断する人が多いけど、そんな大人は無視でいいと思います。まったくもってくだらない大人ですから。きちんと自分と向き合ってくれる大人だけ、ちゃんと対応すればいいと思いませんか?」
「・・・」
「こんなことして、自分を下げてしまっても、何もプラスになりませんよ。」
「もっと長い将来を見据えてやっていきませんか?ボクに協力できることなら、何でも協力しますから。」

 しばらく、黙っていたボスが口を開いた。
「おまえの言ってること、わかるよ。オレらが腹立ててる大人はくさっとんや。そんなヤツは無視、確かにそうや。その通りや。」
「なあ、おれらの仲間にならんか?」
「それはいいけど、ケンカや悪さはだめですよ。」
「はははは、もうやらんわ。おまえの言う通りやしな。」

「木村さん、ちょっと。」
山岸があわてて言いかけた。
「こいつは強い。おまえなんかのレベルと違うわ。」
結構、私を買ってくれている。話を聞くと、ボス=木村さんは高校1年ということだ。どうりで体がでかいと思った。中2にしては老けている気もしてた。山岸も木村さんに諭されて、悪さはしないと無理やり誓わされてた。

 その日は、木村さんにおごって頂くことになって、ラーメン屋に入った。ほぼ、無理やり、餃子とチャーハンとラーメンのセットを食べさせられた。かなり、お腹パンパン状態だ。木村さんはかなり上機嫌で、私も悪い気はしなかった。

 だいぶ、遅くなって、家に帰った。
「お兄ちゃん、遅~い!」
「ごめん、ごめん、遅くなった。」
「さ、さ、ご飯しましょう。」
「実は、・・・・という訳で食事を呼ばれてきました。」
「そういえば、なんかニンニク臭い~。」
「その人たち、大丈夫なの?」
母親は心配そうだった。
「大丈夫、根はいい人たちだから。」
「なら、よかった。」
「え~、お母さん、そんなんでいいの?」
相変わらず、ユミはうるさい。

(つづく)

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