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オッド・アイ 第4話(終)

 木村の誘いで、久しぶりに大石と3人で、居酒屋へ向かった。
「上条、久振りやん。」
「おお、久振り。」
「最近、バイトばっかりしてるって聞いたけど?」
「そうなんだ、ずっとバイトしてる。」
「そろそろ、就活も考えないとやばいやん。バイトばかりしてていいんか?」
「オレ、あんまり就活考えてないよ。」
「大丈夫なんか。」
「実は卒業したら、スペインへいくんだ。」
「スペイン?まじか?」
「ああ、スペインがオレを呼んでるっちゃぁ、大げさだけど・・・」
「向こうに行ってどうする?」
「まだ、わからない。」
「行き当たりばったりか。」
「ああ、そんな感じだね。」
「オレと大石は、同じところを受けてみようと思ってるんだ。」
「上条もどうかなって・・・」
「いや、いいよ、オレは。」
「本当に就活しないんか。」
「ああ。」
「まあ、これから先はみんなバラバラになってしまうんだろうな。」

 いつもバカ騒ぎばっかりしていたオレたちだったが、今日はなんだかしんみりとしてしまった。確かにそうだよな。どんなに学生時代に仲が良くても、みんなそれぞれの道を進むのだ。だから、いつまでも同じようにバカ騒ぎなんかできなくなる。それができるのも、今だけなんだ。

 スペイン語の研究室からも、何度となくお誘いの連絡があったが、バイトが忙しいと断った。彼女たちにはあまり会いたくないのが本音だ。
「ねえ、上条クン、またレッスンお願いできないかしら?」
「今はバイトが忙しいから無理。」
「そんなこと言わないで、研究室きてよ。」
「だから、無理なの。」
「ケチ。」
なんと言われようが、行きたくないから行かないのだ。だが、あの3人がこの店に来たのだ。

「あ、上条クン。」
しまった、見つかった。
「ここで働いてたのね。」
「ご注文、何にします?」
「ねえ、お願い。また、レッスンお願いしてもいい?」
「今は無理って言っただしょ。」
「そんなこと言わないで。」
「で、注文は?」
「・・・」
「何食べる?」
「おすすめは?」

オレはルイーザさんに聞いた。
「彼女たち、ルイーザさんの今日のお勧め聞いてますけど、何がいいですか?」
「そうね、パエリアかな。」
「パエリアだそうです。」
「スペイン語。調理してるのスペイン人?」
「オーナーはスペインの方です。」
「だから、研究室来なくなったのね。」
ばれたか。
「ここで、スペイン語も話せるし、バイトもできるからね。」
こいつらには、バレたくなかったな。まあ、仕方ないや。オレは黙々と仕事をこなした。

「ねえ、私たちもここで働けないかしら。」
「無理。」
「なんで?」
「今は募集してません。」
「じゃ、オーナーに聞いてみる。」
「スペイン語でどうぞ。」
「え、そうなの?」
「できるでしょ。」
「いじわる。」
こいつらには金輪際来てほしくないけど、そういうわけにはいかんだろうな。

「ルイーザさん、もうこれ以上、バイトはいらんでしょ?」
「そうね、間に合ってるわ。レイがいてくれるからね。なんで?」
「この子たち、アルバイトしたいらしいんですけど、断っときますね。」
「ああ、お願いね。」
「今の聞いてた?」
「なんて言ったの?」
ちゃんと、スペイン語勉強してんのかい。

「アルバイトはいらないってさ。間に合ってるって。」
「残念。」
「だから、もう来なくていいよ。」
「お客としてなら問題ないでしょ。」
来るんかい。
「まあ、お客としてならね。」
「ここでレッスンしてくれる?」
「あほか、オレはバイトしてんの。わかってる?」
「やっぱ、だめ?」
「あたりまえでしょ。」

 だけど、彼女たちは性懲りもなく、ほぼ連日食事をしにやってきた。よくお金続くな。あまり、くるんで、ルイーザさんもスペイン語のお相手をし始めた。といっても、一緒に話をするだけなんだけどね。
「そっか、レイが研究室に来なくなったので、ここに押しかけてきてるという訳ね。」
「そうなんです。」
「レイ、モテモテね。」
「そんな訳じゃないと思いますけどね。」
「今まではレイがレッスンしてくれてたけど、それがなくなって困ってたのね。」
「はい。」
「でも、スペイン語の先生もいるんでしょ?」
「先生も忙しくて、いつもというわけではないんです。」
「そうなんだ。」
「じゃ、いつでもこの店で、ワイワイやっていいわよ。ただし、スペイン語オンリーね。」
「ありがとうございます。」
おいおい、本当にいいのかよ。止めてほしかったな。

「じゃ、上条クン、よろしくね。」
「スペイン語でどうぞ。」
「いじわる。」
お前ら、勉強しにきてるんやろ。

 それからはずっと、来るようになった。そうなると、研究室はもぬけの殻なんじゃないかな。オレが思った通りで、ついには、ロドリゲス先生まで、ここに来た。
「こんなところにスペイン料理店、あったんですね。」
「ああ、スペイン語の先生?ですか?私、店主のルイーザです。」
「久しぶりにスペイン料理にありつけます。じゃ、パエリアを。」
「わかりました、少々お待ちくださいね。」
「レイはここでバイトしてるのかね?」
「はい、そうです。」
「バイトもできて、スペイン語も話せるなら、いい環境だね。」
「そうなんです。」
「彼女たちが研究室に来なくなったので、なんでかなと思ったら、こういう訳だったんですね。」
「はい、すみません。」

 彼女たちはオレとルイーザさんの、結構早口のスペイン語を聞いていたんで、かなり聞き取れるようになっていた。それに先生も加わったんで、日本語なんか一切でない。この感覚、なんか久しぶりみたいだな。
「ねえ、上条クンは、就活しないの?」
「オレはしない。」
「なんで?」
「卒業したら、スペインへ行くんだ。」
「そうなんだ。」

 そう、オレはスペインへ行く。あのノートに書いてあるように、スペインで暮らすのだ。だから、今のうちにしっかり貯めないとと思っている。誰かわからない人からの仕送りと、バイト代でだいぶ貯まってきた。この夏、一度行ってもいいかも知れないな。オレは、ルイーザさんに航空券をお願いした。

 夏休みに入った頃、オレはノートを持って、スペインに旅立った。バルセロナの降り立ったオレは、ノートにあるバルを探しにいった。その場所には、ちゃんとそのバルがあるじゃないか。ノートの内容は間違いないようだ。じゃ、オレの両親が住んでいるというこの住所には、本当にオレの両親がいるんだろうか。オレは高まる気持ちを押さえて、その場所に行った。なんとなく、見覚えがあるような気がする。こんな家だったような・・・オレは外見を見てまわっていると、玄関のドアが開いた。出てきたのは女性だった。それも、日本人?もしかして、かあさんか?オレは思わず見つめた。すると、目が合った。

「あの、うちになにか?」
「もしかして、上条幸子さんですか?」
「ええ、そうですが、どちら様ですか?」
オレを覚えてない?
「上条レイです。」
「レイ・・・レイ・・・、えっ、レイなの?」
思い出してくれたのか。彼女は見る見るうちに涙目になって、ほほを涙が伝った。
「本当にレイなのね。かあさんよ。」
オレはかあさんに抱きしめられた。
「ごめんね。私の意思が弱かったばっかりに・・・」
どういうことなんだろう。
「家に入って。」
オレはかあさんに招き入れられた。その部屋はなんとなく、見たことあるような、ないような感じだったが、懐かしかった。

 かあさんの話だと、オレが3歳くらいの時に、とうさんが住むこのスペインにオレを連れて行こうとしたが、両親に反対されて、どうしても行くなら、この子は渡さないと言われ、悩んだ末に泣く泣くレイを両親に預けて、一人でスペインに旅立ったのだという。まあ、じじばばは、遠いスペインくんだりまで、孫を連れて行かれたくないし、当時、とうさんは貧乏だったので、そんな苦労が絶えないところへなんか、絶対に許さないと思っていたようだった。だから、オレは両親の顔をほぼ知らないで育ったということだった。

 ただ、オレが何でスペイン語を話せるのかは、よくわからない。もしかすると、前の世界の体験で喋れるようになっていたからかも知れない。オレは大学を卒業したら、こっちに来たいということを話した。かあさんは歓迎してくれた。

 夕方、とうさんが帰ってきた。かあさんが事情を話したら、オレはとうさんにも歓迎された。さらにマリアが帰ってきた。今度はマリアがオレを知らない番だった。
「えっ、お・と・う・と???私に弟がいるの?」
「はじめまして、レイだよ。」
「本当に弟なの?」
「そうだよ。」
彼女はかなりびっくりしていた。でも、事情を聞いて、受け入れてくれた。だが、マリアの母親は昔に亡くなって、今はこの両親と暮らしていたことが、ノートと違っていた。

「レイは、2つ下なのね。で、瞳、変わってるわね。」
「ああ、かっこいいだろ?」
「とっても素敵よ。」
「姉さんは、めっちゃ可愛いね。」
「ほんと?うれしい。」

 そういうと、オレに抱き着いた。変わってないなぁ。確か、前にもそうされた気がした。その夜は、オレを入れて、家族で夕食をとった。みんなよく喋る。こんな急に初めてみるヤツを、完全に受け入れてくれたのが、うれしかった。オレはみんなのしゃべっている顔を見てるのが、うれしかった。

「レイは全然喋らないね。」
「みんながすっごく喋るから、入る隙がないよ。」
「まあ、そうだよな。」
「はははは。」
「じゃあ、レイはマリアと一緒に寝てね。」
これもノートに書いてあった通りだ。
「なによ、別に取って食うわけじゃないんだから。」
「わかってるよ。」
「あっ。」
「なに?」
「明日、バルに連れていってくれないか?」
「私もそう思ってた。みんなに紹介するね。」
「ありがとう、ねえさん。」

 翌日、やっぱり、遅い朝、姉のマリアは、オレに抱き着いて寝てた。確かに暖かい・・・というより、暑いわ。夕方、マリアとオレは、一緒にバルへ向かった。歩いてすぐなはずだ。

「そこのあんた。」
オレは誰かに呼び止められた。
「ほっときなよ。」
マリアはそう言ったが、オレは気になった。
「オレか?」
「そう、あんただ。」
「レイ、行こうよ。」
「ちょっと、待って。」
「あんた、オッドアイだね。」
こんな遠いところからよくわかったな。

「それがなんだ?」
「で、おかしなこと、起こってないか?」
えっ、この人、知ってる?
「図星だね。すでに2回、経験してるね。なら、もうないよ。」
「ほんとうか。」
「ああ、今の生活を満喫しな。」
「レイったら、いくよ。」
「ありがとう。」
「何言われてたの?」
「なんでもない。」
「あれ、変な占い師。おかしなことばかり言うんだよね。」
「占い師か、なるほど。」
「無視が一番だよ。」
「わかった。」

 オレたちはバルについた。中に入ると、なんか懐かしい。こんな感じの店だった気がする。
「オラ・ケタール。マリア」
「オラ。」
「みんなに紹介するわ、私の弟のレイよ。」
「よろしくな。」
「マリアに弟なんかいたっけ?」
「あ、目の色、違う。」
「かっこいいだろ。」
「うんうん。」

だが、一人、オレを見てこういった子がいた。
「レイ、知ってる。」
「サラだよな。」
「えっ、なんで、あなたたち、知ってるの?」
サラがオレを覚えていたみたいだ。
「なんか、会ったことある。美味しい料理作ってもらった。」
そんなことまで?オレはそれには答えず、微笑んだ。
「あんたたち、いつの間に?」
マリアがいたずらっぽい顔をした。残念ながら、付き合ってませんよ。
「さあな。でも、サラに料理作った気がするな。」
「でしょ。」
「ほんとかよ。」
「やっぱり、あんたたち付き合ってたんじゃない?」
「どうかな。」
「まあ、いいやん。とりあえず、乾杯だ。」

そんなこんなで、あっという間にみんなと打ち解けた。
「じゃ、レイは大学卒業したら、こっちにくるのね。」
「そのつもりだよ。」
「オレたちも同じ時期に卒業だから、みんなで商売やらないか。」
「いいねぇ。」
「オレ、乗った。」
「私も入れてよ。」
この感覚、オレ、やっぱり、性に合ってる。こいつら、好きだわ。なんか、サラもオレに気がありそうだし、いい感じになれるかも。

 このあと、オレはディエゴとエロイの3人で、次のバルへ繰り出した。なんか、この感じも一度体験したような気がする。結構、楽しく過ごしたオレは、夜遅くに帰宅した。

 夏休みなんかあっという間だ。オレは一旦、日本へ帰った。次は卒業してから、帰るよとかあさんに言っておいたから、なんか安心して大学生活を満喫できそうだ。オレはまた、ルイーザさんの店でバイトを始めた。

「どうだった?バルセロナ。」
「楽しかったよ。オレに姉さんがいたんだ。」
「へえ~、そうなの。ご両親は?」
「みんな元気だった。」
「よかったねぇ。」
「ありがとう。」
「じゃ、卒業したら、スペインへ移り住むんだ。」
「うん、そのつもりだよ。」
「楽しんでね。」
「ありがとう。」

 これで、問題なく卒業すれば、オレはバルセロナへ行くんだ。そう思っていたのだが、ややこしい連中のことを忘れていた。
「こんにちわ。あっ、上条クン、帰ってたんだ。」
「また、おまえらかよ。」
「そんな言い方ってないんじゃない。」
「はいはい、お客様、お好きなテーブルへどうぞ。」
「上条クンは就活しないのよね。」
「しないよ。」
「ほんとにスペインに永住するつもり?」
「ああ、そうだよ。」
「じゃあ、その前に私たちと付き合ってよ。」
「どういうことだよ。」
「いいから、付き合ってよね。」
まいったな。一体、何なんだよ。

 仕方ないんで、数日後、オレは彼女たちと居酒屋へいくことになった。いったい、どうしたいんだろう。
「もしかしたら、上条クン、もう知ってるかもしれないけど。」
「何も知らんよ。」
「私たち3人とも、上条クンが好きなの。」
「はぁ?」
「だから、あなたが誰を選んでも、覚悟ができてるから、ちゃんと言ってほしいの。」
まるで、見当違いだ。

「それじゃ、はっきり言わせてもらうけど、君たちは3人とも同級生以外の何者でもないから。ましてや、誰かと付き合うなんてこともないからね。」
「えっ、そうなの?」
おい、今までのオレの態度からわからなかったのか?
「だから、今まで通り、友達でいいでしょ?」
「がっくり。」
そんなことで呼び出したのか。変なヤツらだ。
「まあ、せっかく呼び出されたんだから、今日は付き合うけど、友だちだからね。」

 とにかく、彼女たちの関係も、これで問題なくなった。今まで通り、レッスンがしてほしいなら、してあげている。まあ、そこまでだな。オレはたまにバルセロナの姉とTV電話している。マリアって意外とブラコンなのかな。先日は、アルバイト先のルイーザとも話がしたいっていうから、お店で電話した。

「あ、ルイーザさん、いつも弟がお世話になってます。」
「マリアね、レイから伺っているわ。聞いている通り、可愛いのね。」
「レイったら、そんなこと言ってます?」
「レイに代わってもらえます?」
「はい、いいわよ。」
「なんだ?」
「レイ、久しぶり。」
そこに映ったのは、サラだった。

「あ、サラ、久しぶり、元気だった?」
「ええ、私はいつも通りよ。早く、レイに会いたいわ。」
「オレも早くバルセロナに行きたいよ。」
「あ~、暑いわね。」
「えっ、なになに、レイの彼女?」
「いえいえ、違いますよ。」
「何言ってるのよ、会いたいくせに。」
「まいったな。」

 電話を切ったあと、ルイーザさんにこう言われた。
「なるほどね。夏休みに彼女作ったのね。」
「あははは。」
「図星でしょ。」
「でも、よかったじゃない。マリアも応援してくれてるみたいだし。」
「ええ、まあ。」
まいったな。ルイーザさんにもばれてしまった。

「というわけだから、3人さん、あきらめないといけないわね。」
「えっ?何ですか?」
こいつら、全然、わかってなかったんか。もっと、勉強しろよ。
「さあ、なんのことでしょうかね。」
オレはしっかり、ごまかした。まあ、いずれにせよ、前回の時に、お断りしたのだから、問題ないと思うけどね。

 久しぶりに木村と大石に会った。
「スペインはどうだった?」
「やっぱり、オレの性に合ってたよ。」
「上条は日本を離れるんだな。」
「ああ、向こうで友達もできて、オレが卒業したら、一緒に商売やらないかって誘われているんだ。」
「大丈夫か?」
「ああ、仲間6人くらいでやるんで大丈夫だと思うよ。」
「なんか、寂しくなるな。」
「いつだって、TV電話で会えるじゃん。」
「まあ、そうだけどな。」
「じゃ、今からいこうか。」
「オッケー。」

 オレたちは、久しぶりにバカ騒ぎに興じた。こんなことをするのも、これで最後かもしれないな。だけど、オレのオッドアイはオレを不思議な次元に送ってくれたんだな。でも、それがどうしようもなく過ごしていたオレを、少しは有意義な人生にしてくれたんだ。感謝しなくっちゃな。

 オレがバルセロナに旅立つ前日にルイーザさんは送別会を開いてくれた。オレの仲の良かった仲間もみんな呼んでいいって言ってくれたので、みんな集まってくれた。
「なんか、本当に行っちゃうんだよな。」
「泣くなよ。」
「だって、寂しいじゃないか。」
「私たちだって、悲しいのよ。」
「おいおい、笑顔で見送ってくれよ。」
「そんなこと言ったって・・・」
まあ、なんやかんやと、オレと関わった連中だ。別れは惜しい。
「さあ、今日は楽しい送別会でしょ。みんな飲んでね。」

 ルイーザさんも楽しくやってくれている。結局、就職が決まらなかった山内は、オレの代わりにこの店を手伝うことになったらしい。ちゃんと、スペイン語、話せんのかな。あとはルイーザさんにお任せだ。
「おい、上条、寂しいぜ。」
「大石まで、今頃何言ってんだ。ちゃんと、就職きまったんだろ。がんばれよ。」
「ありがとう。」
「木村、世話になったな。」
「いつでも日本に戻ってこいよ。飲みに連れってってやるからな。」
「サンキューだ。」

 その時だ、大きく揺れた。また、地震か。また、自分が違う世界に飛んでたらどうしようという不安に襲われた。
「今の大きかったよな。」
「もう、大丈夫かな。」
「大した事ないぜ。」
オレはスマホを確認した。連絡帳はもののままだ。
「上条、どうしたんだよ、スマホなんか見て。」
「いや、なんでもない。」
「ところでさ、明日は何時の飛行機だ?」
「フライトは昼からなんだ。」
「そうか、じゃゆっくりできるな。」
「ああ。」

 良かった、何もかわってないみたいだ。みんなは、オレの送別会に集まってくれている。ということは、何も変わってないんだ。バルセロナで、変な占い師が言っていたことがほんとだったら、オレはもうあんな体験はしないはずなのだ。マリアは相手にするなって言ってたけど、オレにはまともなことを言っていたように思った。

「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。」
「案外、寂しくなったりして?」
「ルイーザさん、それはないですよ。でも、・・・」
「でも、何よ?」
「ルイーザさんと離れるのは寂しいかと・・・」
「何いってるのよ。」
「彼女に会えるんでしょ。確か、サラって言ったっけ?」
「えっ、何?上条、お前、外人の彼女作ったのか?」
地獄耳の大石が割り込んできた。

「聞き間違いじゃないか?」
「いや、確かに聞いたぞ。サラとか言ってたな。」
「お前、よくスペイン語わかったな。」
「そんなとこだけは敏感なんだ。」
まいったな。なんてヤツだ。

 オレはみんなにもみくちゃにされながら、楽しい一時を過ごした。でも、あの地震のことが多少気になっていた。

 翌日、下宿を引き払い、カバン一つを持って、一人レストランで昼食を食べていた。そこへある人物がやってきた。
「よかったわね、あなたの思い通りになって。」
「高木さん、どうして・・・」
「私は結局元に戻れなかったわ。」
「だって、昨日、いたじゃん。」
「ふっ、それは今の私じゃないわ。」
「どういうことなんだ。」
「あのようなことは2回起こるのよ。あなたは、また元の自分に戻れた。でも、私は戻れなかった。そういうことよ。」
「なんで、そんなこと、知ってるん?」
「私だって、何もしなかったわけじゃないのよ。いろいろ調べたんだから。」
「そうだったのか。オレは見知らぬ占い師が2回起こるって言ってたんだ。」
「まあ、そういうこともあるわよね。」
「あなたの言うように、どうしようもないから、私は今の世界で生きていくわ。」
「こんなことに巻き込まれた縁だから、見送ってあげるわ。」
高木って、いいヤツだな。
「スペインで永住するんでしょ?」
「ああ、そのつもりだ。両親もいるし、姉もいるしな。」
「まあ、よかったじゃない。」
「ありがとう。」

 それから、オレたちは空港まで行った。オレの乗る飛行機ゲートまで、高木さんは見送ってくれた。さあ、これからはオレの新天地だ。楽しむぞ~。そう思うと、飛行機なんか、あっという間だ。バルセロナに着くと、税関でこう言われた。
「目の色が違うね。オッドアイか。」
「恰好いいだろ?」
「だね、で、観光かい?」
「いや、永住だ。」
「そうか、ようこそ、バルセロナへ。」

 マリアとサラが迎えにきてくれていた。今日は青空が広がった、いい天気だ。これからのオレは、きっといい人生になりそうだぜ。

(おわり)

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